どんな世界にも、出会いがあれば別れもあります。大谷翔平選手の移籍先に世界中がやきもきして、新チーム発表のニュースは世界中をかけめぐりました。契約金額の大きさも含めて、近年でこれほど話題になった野球ニュースはありませんでした。

選手の移籍では、ふたつの感情が交差します。大谷選手に関しては、ドジャースからしたら「welcome(歓迎)」ですが、エンゼルスにとっては「farewell(別れ)」。今日は、出会いと別れについてお話しさせてください。

FAになっていた大谷選手のドジャース移籍が決まりました。記者会見では大谷選手の愛犬の名前(デコピン)が発表されるなど和やかな雰囲気で進みましたが、プロスポーツ史上最高契約額(7億ドル=約1015億円)ということもあって、チーム関係者からは緊張も感じられました。

大谷選手が契約を結んだ理由のひとつに、ドジャースというチームがワールドシリーズ制覇7回、リーグ優勝24回を数える「名門」であることが挙げられます。世界一を狙えるチームで野球をしたい、という大谷選手の思いと合致したのでしょう。

ドジャースの青いユニフォームが日本人にとってお馴染みなのは、中日のユニフォームと似ているから、ではなく(デザインで提携しているので似ているのは当たり前なのですが)、やはり野茂英雄さんの力が大きいでしょうね。

海外に活躍の場を求め、野茂さんが単身で海を渡ったのは1995年のこと。「大リーグの壁に跳ね返される」という予想が大半を占める中、得意のフォークを武器に大活躍。ロサンゼルスでは"トルネード旋風"が吹き荒れました。当時の相棒だった捕手のマイク・ピアッツァ選手は、2023年に日本で開かれたWBCの予選にイタリア代表監督として姿を現し、懐かしく思ったファンも多かったようです。

現在のデーブ・ロバーツ監督は沖縄生まれで、お母様は日本人ということで、ドジャースにますます親しみを感じているファンも多いと思います。ヤンキースなどがあるアメリカ東海岸はファンもマスコミも厳しくて「いかにもメジャー」という環境ですが、それと比較すると、西海岸のドジャースはファンもマスコミも温和でプレーしやすいのかなと。温暖な気候であることも、いいように作用するのではないでしょうか。

ピンボケしていてすみません。最近の山本は前髪を伸ばしています。
ピンボケしていてすみません。最近の山本は前髪を伸ばしています。

現在、広島でプレーする秋山翔吾選手が2020年にレッズに移籍したことで、日本人選手がMLBの全30球団を"制覇"しました。今や、日本人が所属したことがないチームはありません。

アメリカの4大スポーツの中で、MLBは白人選手の比率が高くなっています。そんな状況でスターになった大谷選手。大リーグを長く見てきた方でも、「これほど注目を浴びた選手は見たことがない」と語るほどです。

一方のエンゼルスファンは、「去るもの追わず」とまでは言いませんが、比較的に反応は淡白な印象です。大谷選手のユニフォームを燃やして、SNSで炎上したエンゼルスファンがいましたが、あれもまたパフォーマンス。移籍がつきもののMLBではよく見かける光景なのです。

日本もそうですが、野球ファンの多くは選手個人ではなく、チームのファン。なので、新天地での活躍を祈っている、というのが正直な感想ではないでしょうか。もしかしたら、エンゼルス戦ではブーイングされるかもしれませんが、それもエンタメの一環。ファンとチームが一体になって試合を盛り上げてくれるでしょう。

移籍先のドジャースはスター集団です。2018年にア・リーグMVPに輝いたムーキー・ベッツ選手、2020年にブレーブスナ・リーグMVPに輝いたフレディ・フリーマン選手、そして大谷選手と、MVP受賞者3人が並ぶ豪華な布陣。エンゼルスとは違って、高い確率でプレーオフに進出する強豪なので、その中でどんな活躍をするのか今から楽しみです。これまでにない高いレベルの試合が続くことで、私たちが見たことがない表情が見れるかもしれません。

そして、移籍によって期待できそうなのが三冠王です。

これまで、エンゼルスで大谷選手の打点が伸びなかった(2023年シーズンはリーグ14位の95打点)のは、他の選手の出塁率が低かったことも影響しています。ヤンキース時代の松井秀喜選手が、何度も100打点超えの記録を残しているのは、強豪ヤンキースにいたことも理由のひとつでしょう。右肘の手術を行ない、打撃に集中する来年は夢の三冠王が狙える可能性が高くなったと思います。

大谷選手の新天地での活躍を祈って、今週はこのへんでお別れします。それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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野球界の出会いと別れについて語った山本キャスター