これまでも勝利を求め続けてきた大谷が、より強い気持ちでもって選択したのは、ドジャースだった。(C)Getty Images

 アスリートは皆、「勝ちたい」と思うもの。プロとなれば、その意識はより高くなる。だが、彼ほど「勝利」を求める選手は多くはない。今オフにドジャース入団を決めた大谷翔平である。

 現地時間12月14日ドジャースの本拠地ドジャー・スタジアムで入団会見に臨んだ大谷は「発表の前日に決めた」という“常勝軍団”との10年総額7億ドル(約1015億円)の超大型契約締結を選んだ理由を包み隠さずに明かした。

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「何球団っていうのを、僕の口からこの場で言っていいのかちょっとわからないので、そこは差し控えさせていただくというのと。先ほども言った通り、ドジャースがこれを持ってるからというよりかは、そうですね。何ていうんですかね。

 心に残ってる言葉として、オーナーの方も、マーク・ウォルターさんも含めて、この10年間、ドジャースが経験してきたこの10年間を、彼らは全く成功だとは思ってないっていうことはおっしゃられてたので、それだけ勝ちたいという意思が、みんな強いんだなっていうのは心に残ったかなと思います」

 今回の契約において世界を驚かせたのは、支払い形態だった。大谷は10年総額7億ドル(約1015億円)の97%にあたる6億8000万ドル(約986億円)の支払いを10年契約終了後の2034~43年での後払いとしたのである。

 その間の年俸はわずか200万ドル(約2億9000万)。これはぜいたく税の負担を減らすべく、「今受け取れる金額を我慢して、ペイロールに柔軟性を持たせられるのであれば、僕は全然、後払いでいいです」と自ら球団側に願っての契約だった。

 7000万人以上がライブ配信を視聴した会見中には「勝つことっていうのが、僕にとって今一番大事なことかなと思います」とも強調した。いち早く手にできたはずの大金を減らしてでも勝利を求めたわけである。

 彼がそこまでして「勝利」にこだわったのは、二刀流選手としての寿命に対する焦りが少なからずあるからかもしれない。

 アスリートの選手寿命は、医学の進歩などにより以前よりも格段に延びている。とはいえ、「二刀流選手」としての人生は、実質5年で打者専任となったベーブ・ルースの最盛期よりもハードなプレーを求められる現代野球でどこまで続くかは分からない。実際、今年8月に大谷は右肘側副靭帯を損傷。現時点で投手として復帰するのは25年以降とされている。間違いなく身体は悲鳴を上げていると言っていい。

大谷が問われた。「野球に人生の全てを捧げる理由」

エンゼルスから常勝軍団ドジャースへ。ステップアップとも言える今回の移籍は、本人の意欲が詰まっている。(C)Getty Images

 確実に寿命はすり減っている。そのなかでも可能性が残されているなら二刀流は投げ出さない。それは彼が野球人として、日本人として前人未到の領域を歩めた要因かもしれない。

 この日、大谷が二刀流選手としてのキャリアに強いこだわりを感じさせた場面があった。それは入団会見からほどなくして行われた地元ラジオ局『AM 570 LA Sports』のインタビューでの一幕だ。

 記者から「野球に人生の全てを捧げる理由は何か?」と問われた大谷は、「うーん……」と数秒考えた末に、次の言葉を紡いだ。

「一番は(野球が)好きだということ。あとは怪我をする度に『いつ終わるんだろう』という不安もあるし、確実に終わりに近づいてるっていうのもあるので。人生が終わる前に、必ず野球選手として終わってしまうので、そこまでにやり残した事がなるべく少ないようにやりたい」

 最盛期でも冷静に己を見据える彼らしい言葉だった。

 二刀流を続けられるうちに少しでも多く勝ちたい――。これこそが数あるオファーの中で、「最終的にここでプレーしたいなという気持ちに素直に従った」というドジャース移籍を決めた主因だろう。

 己の渇望と共鳴したドジャースとの契約がようやく決した。ここから先は、大谷にとっても未知なるストーリーが描かれ、その一挙手一投足に文字通り世界中の人々の関心が一身に注がれる。

 少なからず焦りもあるであろう心境下で「勝利」を求めたドジャース移籍は正解だったのか。その答えを楽しみに待ちたい。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

「いつ終わるんだろうという不安もある」大谷翔平がドジャース移籍でこだわった「勝利」 世紀の移籍会見日に見た“焦り”