北朝鮮の新築住宅は、内装工事が全くされていないスケルトン状態で入居者に引き渡される。入居者は自費で壁紙を貼ったり、キッチンを自分好みに作ったりするのだが、この費用が相当かかるため、築浅の中古住宅の方が好まれる傾向にある。

また、無理やり工期に合わせる「速度戦」が奨励されているため、手抜き工事が多いことも、中古住宅が好まれる理由のひとつだ。前の入居者が初期不良を修繕しているため、安心できるという。

新築住宅の内装工事でも、中古住宅のリモデリングでも、素人の手に負えない部分はプロの出番だ。朝鮮人民軍北朝鮮軍)の第7総局など建設部隊出身の除隊軍人は、そのような仕事を引き受けている。とても評判がよかったのだが、最近は注文が少なく、生活に困っているという。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

両江道の恵山で内装工事を請け負っている建設部隊出身の内装工事業者は、冬に入ってから仕事が激減してしまった。

恵山では12月に入り、最低気温が氷点下10度以下、最高気温も0度を下回る真冬日となっている。そんな寒さの中でコンクリートの打設をすると、そこに含まれている水分が凍結し、春になると溶けて隙間ができるため、強度に問題が生じる。そういった理由で、内装工事ができないのだ。

グループ単位で内装工事を請け負っていた彼らだが、たちまち生活苦に直面した。そこで、幹部やトンジュ(金主、ニューリッチ)の家で木の伐採や倉庫の整理、農村で薪の切り出しなどのバイトを行っているが、内装工事ほどの儲けはなく、なんとか飢えをしのげる程度だという。

「除隊軍人たちは、10年という長い兵役を務め、人生の絶頂期の青春時代をすべて捧げたが、兵役を終えて帰ってきた彼らを待ち構えていたのは、まともにメシが食えないほどの生活苦だった」(情報筋)

彼らの中には、大学入学の推薦を受けた者もいるが、生活苦で入学を諦めたり、せっかく入学したのに1年もせずに退学してしまったりする者もいる。北朝鮮で教育は無料で受けられることになってはいるが、実際はかなりの費用が必要になるからだ。

大学に入らなければ、恵山市人民委員会(市役所)労働部に、自分の意思とは関係なく、職場が割り当てられる。まともな給料がもらえず生活できないため、上司にワイロを掴ませ、出勤扱いにしてもらい、内装工事に精を出すといういわゆる「8.3ジル」で生計を立ててきたが、それも難しくなった。

中には、ワイロなしで無断欠勤している人もいるが、これは違法行為だ。朝鮮労働党や人民委員会のイルクン(幹部)が、出勤を促そうと除隊軍人の家を訪れたところ、あまりの貧乏ぐらしに言葉を失い、何も言わずに踵を返したとのことだ。

充分な蓄えがあれば、仕事のない冬でもなんとか乗り切れるが、兵役を終えてまもない彼らにそんなものはない。一方で、親が幹部やトンジュといった「実家が太い」人たちは、兵役を終えると幹部の道を歩む。

情報筋は、「他はともかく、軍で苦労した彼らがせめて食べ物のことで困らない程度に懐事情がよくなれば」と同情しているが、戦争老兵(朝鮮戦争参戦者)や栄誉軍人(傷痍軍人)に対する福祉システムが機能していない中、働けてなんとか食事が摂れる程度の元軍人の内装工事業者への公的支援など、期待するまでもない。

両江道恵山の町並み。奥の丘には「偉大なる領導者金正日同志の遺訓を徹底的に貫徹しよう」という看板が立てられている(画像:デイリーNK)