1923年創業のウォルト・ディズニー・カンパニーが、創立100周年を記念して製作した長編アニメーション『ウィッシュ』(公開中)。どんな願いも叶うという魔法の王国ロサスで暮らす少女アーシャが、強力な力を持つマグニフィコ王によって国民の願いが支配されているという恐ろしい真実に立ち向かう姿を、心動かす名曲に乗せて描いたドラマチックなミュージカルアニメーションだ。
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公開に合わせて、共同で監督を務めたクリス・バックとファウン・ヴィーラスンソーンが来日。「アナと雪の女王」シリーズ大ヒットに導いたバックと、これが監督デビュー作となるヴィーラスンソーンが、映画に込めた想いや制作の舞台裏、お互いの意外な一面を明かしてくれた。
■「クリスと私のユーモアのセンスはとてもユニークなんですよ」(ヴィーラスンソーン)
――共同監督として一緒にお仕事をした感想をお聞かせください。
バック「ファウンはストーリーアーティストというバックグラウンドを持っています。ですからストーリーアーティストやレイヤー、照明といったチームと一緒に仕事をする時も、彼女の頭の中にはすでに画角や照明、構図ができあがっていたんです。彼らと密に仕事をするファウンの姿にすごくインスピレーション受けました。それと僕は最近の流行りにはあまり詳しくないので、彼女からいろんなことを教わりました」
ヴィーラスンソーン「クリスは謙虚だからそう言うけど、実はすごくトレンディな人なんですよ(笑)。私はあらゆる面でクリスからインスピレーションを受けましたが、同時に彼が監督した『ターザン』を観て育った大ファンなので、あのシーンはどうやって撮ったの?ここはどうしたの、と質問責めにしてしまいました(笑)。実は、アーシャから真実を聞かされた友人たちが王様に反旗をひるがえす『真実を掲げ』を歌うシーンを、『ターザン』で動物たちがいろんなものを楽器にして歌う『トラッシン・ザ・キャンプ』のようにしたいと思って、クリスに当時の話を聞きながら組み立てたんです。彼は自分がやってきた映画作りのすべてを、惜しみなく分かち合ってくれました」
――お2人はこれまで監督とストーリーボードアーティストとしてコラボレートしてきましたが、一緒に監督してみて「この人こんな人だったんだ」と初めて気づいたことはありましたか?
バック「こんなに独特のセンスの持ち主なんだと、初めて知りました(笑)。ファウンはユーモアのセンスが独特で、具体的に言うと差し障りがあるので…普通じゃない、くらいにしておきましょう(笑)。でも、実は僕にも通じるものがあったので、とても楽しく仕事ができました」
ヴィーラスンソーン「そうですね、私たちユーモアのセンスはとてもユニークなんですよ。だからいろんなチャレンジをすることができたし、それが正解なのかはわかりませんが、結果的に数々のソリューションにたどり着けたと思います」
■「このスタイルで作る時に意識したのが、顔の線を使いすぎないことでした」(バック)
――今作はディズニーが長年培ってきた手描きのアニメーションの味わいを持つ3DCG映像が使われました。この手法のポイントをお聞かせください。
バック「このスタイルで作る時に意識したのが、顔の線を使いすぎないことでした。手描きをコンピュータにシミュレーションさせると、たくさんの線を使って表現しようとしてしまうんです。結果、やり過ぎ感が強くて不自然になってしまいます。自分は手描きのアニメーターとしてキャリアをスタートさせたんですが、最初に学ぶことが、どの線を使うか、そしてどの線を使わないことで魅力的なキャラクターを作るのかということでした。アニメーションはやり過ぎになりがちなので、それを今回気をつけました」
ヴィーラスンソーン「アニメーターとしてキャリアを持つクリスが、その技術を共有してくれたことで魅力的な映像になったと思います。アニメーションはリアルなだけでは魅力的にはならないと思っていて、それが私がこの芸術に惹かれる一番の理由なんです。自分たちでどこをデフォルメするのか考えながら表現できるのが魅力なので、その点に気をつけました」
■「実はスターの初期段階には、2人の日本人アニメーターが参加してくれました」(ヴィーラスンソーン)
――アーシャの「みんなの願いを守りたい」という願いに応えて舞い降りる、“願い星スター”は動きを含め愛らしく個性的なキャラクターですが、キャラクター作りやアニメーションで何か参考にしたものはありましたか?
バック「まずあの顔のハートの形はミッキーですね(笑)。これはキャラクターデザイナーが意識して取り入れたデザインです。特に初期のミッキーは目が点のような形をしていたので、眉毛がなくてもいろんな感情を表現することができたんです。時々はセリフもありましたが基本的にパントマイムだったので、アニメーターも動きや感情表現を含めてミッキーを参考にしていました」
ヴィーラスンソーン「動きまわるスターを見て、『どんなことを考えてるんだろう?』と観客の皆さんが想像する楽しみを入れたいと思いました。同時にスターがなにをしたいのかクリアでなければ物語的にはよくないので、そのバランスをすごく考えながら作ったんです。実はこのキャラクターの初期段階には、ヨーヘイさんと水鳥直子さんという2人の日本人アニメーターが参加してくれました」
バック「彼らがこの作品に“カワイイ”をもたらしてくれたんです(笑)」
――アーシャとマグニフィコ王のキャラクター造形のポイントを教えてください。
ヴィーラスンソーン「アーシャは希望、つまりホープフルなキャラクターで、マグニフィコは制御、コントロールのキャラクターです。ストーリー的にも私たちが生きていくうえで、どんなことがあっても自分の願いを追いかけるのか、マグニフィコのように失敗を怖れるあまりなにもしなくなってしまうのか。そして彼はそれをほかの人にも強要しようとしているわけです。でも私たちはアーシャのように、勇気を持って願いを追い続けてほしいと願っています」
バック「完璧です(笑)。私も同感です」
――お2人が特に好きなサブキャラクターは誰ですか?
バック「私はアマヤ女王です。夫であるマグニフィコの隠された一面を見て、彼女は自分にもなにかできるんじゃないかと考えます。そういう意味で鍵を握るキャラクターで、デザインを含め大好きなキャラクターです」
ヴィーラスンソーン「私はアーシャの祖父、サビーノですね。100歳と年齢を重ねたなかで、失意とか叶わなかった夢がいくつもあったかもしれません。それでもいまだに夢を追い続けることができるんだ、ということを表現しているキャラクターだからです」
■「ディズニーでアニメーションを作りたいというビジョンを持っているなら、その夢をずっと追い続けてほしい」(バック)
――お2人とも幼いころからディズニー作品に親しんできたと思いますが、アニメーションの世界で働きたいと思ったきっかけになった作品はなんでしょうか?
ヴィーラスンソーン「私は『美女と野獣』ですね。ちょうどディズニー・アニメーションがミュージカル作品をどんどん作り始めた時期で夢中になり、ちょうど年齢的に絵が上手なってきたころだったので、いつの日かディズニーでアニメーションを作る仕事がしたいと夢を見るようになりました」
バック「私は4〜5歳の時に初めて映画館で観た映画が『ピノキオ』だったんです。それからディズニーに夢中になりましたが、アニメーションを仕事として追いかけたいと思ったきっかけは『ジャングル・ブック』です。軽妙な楽しさと魅力的なキャラクターの虜になって、そこからアニメーターを目指すことにしたんです」
――日本をはじめ世界中にディズニーで働くことを夢見ている若者は多いと思います。彼らになにかアドバイスをお願いします。
ヴィーラスンソーン「ディズニーで働きたいけど、どうせ受からないだろうと思って応募しなかった人もいると思います。実は私も落ちましたが、その後も何度もトライした結果ディズニーで働くことになりました。もし最初のころに諦めていたら、いまここにいないのです。みなさんもぜひ諦めずトライしてください」
バック「私たちと同じように、いつの日かディズニーでアニメーションを作りたいというビジョンを持っているなら、その夢をずっと追い続けてほしいと思います。私がアドバイスするならば、夢を言葉にすること。言語化することが大切だと思います。スターが助けに来てくれたのは、アーシャがそれを言葉にしたからです。『私はこういう願いを持っています』と言葉にして伝えることで、誰か手を差しのべてくれる人が出てくるかも知れません。願いを達成できるかも知れないのです。実は私たちの『ウィッシュ』もそういうことを描いた映画なんです」
取材・文/神武団四郎
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