東京ヴェルディが16年ぶりのJ1復帰を決めた。最大の目標としていたJ2優勝、J1自動昇格こそ果たせなかったが、リーグ戦を3位で終え、「負けなければいい」という大きなアドバンテージを得てJ1昇格プレーオフに進出。決勝では0−1のビハインドで後半アディショナルタイムを迎えたが、最後の最後に追いついてアドバンテージを生かした。

 アカデミー出身選手の森田晃樹をキャプテンに据えたチームが悲願のJ1復帰を成し遂げたことは、クラブにとって非常に意義のあるものだった。だが一方で、今回の昇格には齋藤功佑、宮原和也、中原輝、染野唯月、長谷川竜也といった新加入選手の活躍と貢献も欠かせなかった。中でも齋藤は「まだ来たばかりだから」という遠慮を捨て、早い段階からチームが勝つために、チームが強くなるために尽力。時には若手選手の声を吸い上げ、自らが代表となってコーチングスタッフと意見交換することで、チームの透明化を図る役割も担ってきた。間違いなく昇格の立役者の一人と言えるだろう。

──後半アディショナルタイムに獲得したPKで決着という、劇的な幕切れでのJ1復帰となりました。
齋藤 感極まりましたね。「ドラマが起きたな」と思いました。本当に一年間、チームが積み上げてきたものを出す最後の舞台だったので、最後の最後、いい形で終われてめちゃくちゃうれしかったです。

──“引き分けでも昇格”というアドバンテージがある中で、PKを与えて先に失点してしまいましたが、苦しい展開を耐え、諦めず、最後の最後で追いつきました。まさに今季の東京Vの戦い方を象徴していたように感じます。
齋藤 苦しいけど、もがきながら成長してきたチームなので、自分の中でも勝手に重ね合わせてしまっていましたね。僕はあまり『神様』って信じてなくて、日頃から「自分たちの力で結果を呼び寄せている」と思っていたので、日々の頑張りがああいう大事なところで出たのかなと思います。

──試合後、PKで失点した瞬間の心境を聞かれて、「ここまで一年間やれることをやって、そういう結果になるなら仕方がないと思っていた」と話していました。それほどまでに「やるべきことはすべてやった」という自信があったのですね。
齋藤 そうですね。本当にもうやりきりました。自分自身もそうですし、チームとしてもすべてやりきったと思います。だからこそ、「いつもどおりのプレーをすることが一番勝利に近づく」という考え方ができましたし、ああいうことが起こっても素直に受け入れられたのだと思います。

──「やるべきことはやった」、「いつもどおりプレーする」というような言葉はよく聞きますし、それが理想だとは思いますが、実際にそこまで自分たちの力を信じて戦うことって意外と難しいのでは?
齋藤 理想ではあるけれど、実際にそう思えるかどうかというのは、並大抵のことではありせん。でも、今年は本気でそう思えました。つまり、いかに普段の練習からやってきたかということですよね。このチームには練習で手を抜く選手が本当にいないんです。城福浩監督が「練習以上のものは出ない」と常々おっしゃっていますが、本当にそのとおりだと思いますし、だからこそ全員が試合に匹敵するぐらいの高い強度、集中力で練習に挑んで、それを一日一日と積み重ねてきました。そうやって一年間積み上げてきたものに対して、僕もチームのみんなも自信を持っていました。だからこそ、最後まで誰一人諦めなかったし、その姿勢がラストチャンスにつながったのは間違いありません。

──齋藤選手個人としては、横浜FCプレーしていた昨年に続き、2年連続でのJ1昇格になりました。昨年は自動昇格でしたが、今回はプレーオフで勝ち取った昇格。やはり感覚は違いますか?
齋藤 違いますね。サッカー面で言えば、横浜FCには圧倒的に点を取れる選手がいたり、攻撃で違いを作れる選手がいたり、外国籍選手がいたりと、個の力の部分が大きかったのですが、ヴェルディの場合、正直そういう選手は多くありません。それでも、組織力、チーム力の部分でいろいろなものを積み上げて、結果としてそこが一番の強みになったからこそ昇格できたと思っています。「どちらがうれしいか?」とよく聞かれるのですが、そこは比べられるものではないですね。ただ、チーム全員で勝ち取った分、今年はすごくうれしかったです。

──シーズン全体を振り返って、改めてチームの戦いぶりをどう感じますか?
齋藤 まず、連敗が一度しかなかったことが大きかったと思います。昇格のためにはすごく大事なことで、シーズン通してそれができたということは、昇格にふさわしい結果だったということです。そして、その要因はやはり守備が良かったこと。連動して、強度を保ちながら、行くところと行かないところのメリハリをつける、という守備を徹底して積み上げられたことが昇格につながったと思っています。戦術的な話で言うと、相手が3枚で回してくるときは、守備が少しハマりづらくて苦しめられたこともありますが、大崩れして失点を重ねるような試合はあまりなかったですし、シーズン通して安定していました。

──城福監督はチームがリーグ最少失点を誇った要因について、「DFやGKだけでなく、中盤や攻撃の選手たちが高い強度でプレッシャーをかけて限定することで、後ろを守りやすくしてくれているから」と言い続けていました。実際、齋藤選手の前線からの守備も非常に貢献度が高かったと思いますが、堅守のチームでプレーすることでご自身の守備面での成長や変化は感じましたか?
齋藤 全員で守備をするにあたって、ファーストDFは「限定するだけでよかった」というのがありました。逆に、ファーストDFが強度の高いプレッシャーをかけてしまうと、相手にやり方を変えられてチームとしては守りにくいんです。最前線の選手はあくまで限定するだけで、中盤の選手がさらに限定、誘導しながら、状況に応じてプレスのスイッチを入れる。それぞれの選手が役割を理解して、自分も理解深めつつ、チームメートにも要求する。そういった部分は成長できたのではないかなと思います。ただ、守備に関しては去年ボランチをやったことが大きかったですね。FWの守備とボランチの守備は違うということ、ボランチの守備は前後左右の選手とのバランスや関係性がすごく大事だということを和田拓也さん横浜FC)に勉強させてもらいました。今年は去年学んだそういうことを試しながら、周りに要求しながらやれたことが自信になりました。

──今季の東京Vはシーズンを通してプレーオフ圏内(6位以内)の順位をキープしてきましたが、途中、レギュラー選手が移籍してしまったり、センターバックの主力選手に長期離脱者が続出してしまったりと、決して順風満帆ではありませんでした。チームとして一番難しかった時期、つらかった時期はいつごろですか?
齋藤 いろいろな出来事があった中でも、シーズン通してよく耐えたなという感覚はあるのですが、あえて言うなら、ホームで11試合、約5カ月も勝てない状態が続いたときはさすがに苦しかったですし、ファン・サポーターに申し訳ないという思いが強かったですね。

──あれだけの長期間、ホームで勝てなかった理由は思い当たりますか?
齋藤 うーん…分からないですね。でも、チームとしてまだ未熟だったんだろうなとは思います。それが変わるきっかけになったのが、長谷川竜也くんの加入(横浜FCから期限付き移籍)だったと思います。もともと選手同士のコミュニケーションは活発なチームでしたが、竜也くんが来てからはもうワンランク高い自主性が出てきました。逆に言えば、ホームで勝てなかった時期は、そういう部分が足りてなかったような気がします。

──もう一つ、選手たちの口からよく聞かれたのが、なかなか試合に出られない、いわゆるセカンドチームの選手たちの重要性や貢献度の高さでした。
齋藤 それは僕も一年をとおして感じていました。それがチーム力を高めたと思いますし、昇格の大きな要因だったとも思います。ある程度試合に出られている選手はいいのですが、全く出られないと、ただでさえストレスが溜まるのに、その上、ちょっと納得いかないことを言われたりすることもあります。そういう中で、悔しい気持ちを秘めながらも、周りに悪影響を与えないようにみんながやってくれていました。それってものすごく難しいことで、そういう細かい部分がこのチームを強くさせたんだと思います。試合に出ている選手は「あいつらの分もやらなきゃいけない」と思ってピッチに立っていましたし、「このチームのために」と思える要因にもなったと思います。

──そうありたいと思っていても、いざ自分がその立場になったら、なかなかできないことですね。
齋藤 できないですね、本当に。実際、僕もケガから復帰してすぐは、スタメンで出られない時期がありましたが、それだけでもう悔しくて、ストレスを感じていました。そういう悔しさやストレスを長い期間抱えていたにもかかわらず、不貞腐れずに、頑張ってやり続けるというのは、プロサッカー選手にとって本当につらいことだし、難しいことです。それをやり続けてくれた選手たちに心から感謝したいですし、彼らの存在こそがこのチームの強さだなと心から思いますね。

──ご自身の今季も振り返ってください。キャリア初の移籍もあり、チャレンジの一年だったと思います。
齋藤 良いシーズンだったと思います。ヴェルディに所属する選手たちの人間性にも助けられました。そういう環境の中で、今までの自分の経験、素晴らしい先輩たちから学んできたことをチームに還元するため、「勝つためにこれをやったほうがいい」と思うことはすべてトライすることができました。それは自分自身の成長にもつながったと思います。そして、なんといっても一番の目標はJ1に昇格することでした。『自分の成長』と『J1昇格』という、移籍を決意した目的をどちらも達成することができてよかったです。

──改めて“東京ヴェルディ”というチームに対して感じることは?
齋藤 本当に良いチームですね。プロサッカーの世界で、こんなに良いチームがあるのかと思うくらいです。だって、それぞれが個人事業主で、それぞれがライバルで、自分が試合に出て評価されなければいけない世界で、自分を押し殺して、チームのために本気でやれたり、コミュニケーションを取って要求し合える関係性があったりするんですから。それに、ピッチでは厳しいことを要求し合っても、ピッチ外では仲良くしたり、プライベートでも一緒にいたりする。だからこそ「チームのために」と思って戦えるんだなと改めて思いました。もちろん、それを大事にするクラブはほかにもあるでしょうし、実際にやれているクラブもあるのかもしれませんが、僕の中では、今年のチームのそういう部分にすごく救われたなと思っています。そして、そういう環境や雰囲気が作れたのは、間違いなくベテラン選手の人間力、人間性があってのことです。

──ご自身も横浜FCアカデミー出身だけに、そのクラブにおけるアカデミー出身選手の存在意義については、なおさら感じるものがあると思います。多くのアカデミー出身選手がクラブを支える今のヴェルディの状況をどのように感じますか?
齋藤 めちゃくちゃいいことだと思います。心の底から「ヴェルディのために」と思っている選手がたくさんいますし、天皇杯東京ダービーFC東京戦)のときもそれを感じました。そう思える選手が多いチームはやっぱり強いし、組織力も高い。このクラブに来て、生え抜き選手が多いことの素晴らしさを感じました。

──プレーオフ決勝では、国立競技場に5万3000人を超える観客が集まりました。ともに戦ってきた東京Vのファン・サポーターについては、どのような印象をお持ちですか?
齋藤 あの決勝は感無量でしたね。コレオもすごかったですし、本当にモチベーションが上がりました。とても心強かったです。ヴェルディのサポーターは熱いですね。とにかく熱くて、迫力や一体感もあって、「人数だけがすべてじゃない」ということをものすごく感じます。ホームで勝てない時期もブーイングではなく、前向きな声掛けで後押しを続けてくれました。僕は「サッカーは娯楽として見るもの」と考えているので、楽しく見るのが普通だし、文句があれば好き放題言うべきだと思うんですが、ヴェルディのファン・サポーターはそう言う自分の感情よりも、選手を鼓舞することを優先してくれる。チームが勝つためにどう選手にメッセージを伝えたらいいのかを、すごく考えてもらったんじゃないかな。僕ら選手側はそう受け止めています。ヴェルディには長い歴史がありますが、そのクラブを変わらず応援してくれていたファン・サポーターの皆さんが、あんなにもJ1昇格を一緒に喜んでくれたことが、僕自身もすごくうれしかったです。

──齋藤選手はチーム内でも数少ないJ1経験者です。来季以降、東京VがJ1に定着するために必要なことは何ですか?
齋藤 少ない経験からですが、チームの良いところを残しながら、より良くしていくことが大事だと思います。積み上げがないと、1シーズンだけ何とか頑張れても、その先がなかったりしますから。今年以上に「きちんと積み上げる」ということと向き合ってやっていかないと正直、厳しいと思います。

──東京Vとしては16年ぶり、齋藤選手自身も3年ぶりのJ1の舞台となります。来季への意気込みを聞かせてください。
齋藤 この喜びをさらなる喜びに変えたいと思っています。苦しいシーズンになると思いますが、まずは『J1残留』というタスクをしっかりと果たしたいです。また、今年一緒に戦った仲間たちの想いもしっかり来年に積み上げられるように、チームとして、クラブとして、一年間戦っていきたいです。

インタビュー・文=上岡真里江

加入1年目ながら主力として東京VのJ1昇格に大きく貢献した齋藤功佑 [写真]=東京ヴェルディ