ひと口に老後といっても、ライフスタイルや家族構成に変化があり、その時々で最適な住まいのカタチがあります。そして老後の後半になってくると、身体は不自由になり、自宅での暮らしもしんどくなり……そうなると「老人ホーム」も1つの選択肢です。しかし入居者の家族のなかには「老人ホームに入れてしまった」などと、後悔の念を抱き続けるケースも。実際に入居者はどう思っているのでしょうか。

何歳から「老後」は始まりますか?

――老後を見据えて備えなさい

最近、やたらといわれるこのフレーズ。しかし、そもそも老後は何歳からなのでしょうか。どう考えるかは人それぞれで、お年寄り扱いしたら「私はまだまだ現役じゃい!」と怒られた……そんな経験もあるでしょう。生命保険文化センターの調査によると、「老後資金を使い始めた年齢」として最も多かったのが「65歳」で34.2%。続いて「70歳」が23.4歳。平均は66.8歳でした。仕事を辞めて、老後資金と見込んでいたお金、多くは年金を頼りに暮らしていくことになったら、老後のスタート、といったイメージでしょうか。

定年は60歳、年金をもらえるのは原則65歳なので、現在は65歳まで働く人が多く、60歳定年の8割にのぼるといわれています。しかし65歳を超えたら全員やめるのかといえばそんなことはなく、年金受給年齢を達しても働き続ける人も。ただ現状、原則、厚生年金に加入できるのは70歳までなので、65歳の次に70歳を区切りにする人が多いようです。

いつまで仕事を続けるかによって、老後のスタートは変わりますが、次にひとつの区切りになりそうなのが「介護が必要になったとき」。要支援・要介護の認定を受ける人は、70代前半では5.8%だったのが、70代後半で12.1%、80代前半で25.8%、80代後半で59.8%。ちょうど倍々ゲームのように増えていきます。

そして老後、次のステージが「配偶者を亡くしたとき」。日本人の平均年齢と、夫婦の年齢差から単純に考えると、妻がもうすぐ80代になろうとするときに夫は逝去。「夫を亡くした妻」としての老後がスタートします。

このように老後とひと口にいってもライフスタイルや家族構成は変わっていきます。それによってライフスタイルや理想の住まいのカタチも変わっていくでしょう。

株式会社AlbaLinkが行った『老後の住まいに関する意識調査』によると、老後に住みたい住宅のスタイル、トップは「戸建て住宅」で48.6%。続いて「サービス付き高齢者向け住宅」で11.6%。「分譲マンション」10.6%、「通常の賃貸住宅」10.4%、「有料老人ホーム」7.4%と続きます。

一生、住み慣れた家でというわけではなく、ライフスタイルや家族構成の変化によって、ときに住み替えを行ったほうが良い場合もあるでしょう。戸建てやマンションではなく、いわゆる「老人ホーム」が支持されているのは、そのあたりからでしょうか。

■サービス付き高齢者向け住宅を支持する声

――家族に迷惑をかけずに日常生活を過ごせると思う

――1人では不安だが縛られたくはないから。

■有料老人ホームを支持する声

――プロが面倒を見てくれるので、家族に迷惑をかけないか

――孤独死は嫌ですし、家族に心配をかけたくないので

出所:株式会社AlbaLink『老後の住まいに関する意識調査』より

老人ホームに入ることは、幸せ/不幸せ…どっち?

年を重ねると次第に身体は不自由になってきますし、日常の家事にひと苦労するときも。高齢者の1人暮らしは何かと不安です。そんなときは「老人ホーム」も有力な選択肢になるでしょう。

しかし、長年暮らした自宅、そして仲の良い家族とも離れ離れ。「老人ホームに入ることは幸せなことなのだろうか」と疑問を抱く人も多いようです。「85歳の母がホームに入ります」と綴った、50代の女性も同様。すでに父(夫)は他界していましたが、最近になって母は「1人は寂しい」「家事をするのはしんどい」というようになったといいます。

女性はすでに義父母と同居。「一緒に住む?」と声をかけるわけにはいきませんでした。そのため母に合うだろうと思う老人ホームを色々と探し、検討開始から半年ほどで、入居する老人ホームが決定したといいます。

そして母、入居の日。母を施設に残し帰るとき、「一緒に暮らせなくてごめんね」と後悔の念で涙してしまったといいます。そこには「老人ホームに入ることは不幸せ」という思いがあったのかもしれないと女性。

実際に入居者は「老人ホームに入ったこと」をどのように思っているのでしょうか。株式会社Speeeが運営する「ケアスル 介護」が行った『介護施設の満足度に関する調査』によると、「老人ホームに入って良かったですか?」の問いに対して、「入って良かった」が36.0%、「まあまあ良かった」が31.2%と、7割弱に達します。「入らなくて良かった」「入って後悔している」は合わせて12.0%。後悔している人もいますが、圧倒的に老人ホームへの入居を前向きに捉えていることがわかります。

また満足度と面会頻度の関係性をみてみると、家族や友人との面会が週1回の人よりも、毎日という人のほうがが「老人ホームに入ってよかった」と考える傾向にあるといいます。

女性の後日談。当初は母も緊張の様子ですが、すぐに施設には慣れたよう。一方で女性は1人暮らしの寂しさを訴えていた母に何もできなかったという後悔の気持ちが消えずにいたといいます。ただある日、女性が「ホームに入ってよかった? いま幸せ?」と聞くと、母は「そりゃ毎日、快適よ」と言ってくれたのだとか。

「親を老人ホームに入れてしまった」などと後悔する必要はまったくありません。ただ入居者は家族に会えないことに、やはり寂しさを感じるのでしょう。親が老人ホームに入居したら終わり、そこからが新しい生活のスタート。寂しい思いをしないよう、可能な限り会いにいくようにしたら、「施設に入って良かったわ」と入居者から笑顔がみられるはずです。

[参考資料]

生命保険文化センター『令和4年 生活保障に関する調査』

株式会社AlbaLink『老後の住まいに関する意識調査』

株式会社Speee『介護施設の満足度に関する調査』

(※写真はイメージです/PIXTA)