じわじわと人気が広が注目度が高まっている台湾の映像作品を、WEBザテレビジョンでも特集。台湾ホラーブームがよく取りざたされているが、実は台湾サスペンスも各映像配信サービスなどで配信が続き、近年かなりの盛り上がりを見せている。本記事では、「悪との距離」「模倣犯」「台湾・クライム・ストーリーズ」「The Victims’ Game 次の被害者」「罪の後」という5本の名作を通して、台湾サスペンス作品の魅力を紹介したい。

【写真】台湾リメイクドラマ版「模倣犯」の緊迫シーン

■社会現象といわれるほどの反響を巻き起こした社会派ドラマ「悪との距離」

ある無差別殺人事件を軸に、加害者やその家族、加害者の弁護士、被害者の遺族、メディア、世間の目など、さまざまな視点から、“悪との距離”を描いた全10話のドラマ。社会現象といっても過言でないほどの反響を呼び、台湾版エミー賞といわれる金鐘獎では作品賞や主演女優賞などの主要6部門で栄冠に輝いた。

2年前に映画館で起きた無差別殺人事件で息子を亡くした報道局副局長のソン・チャオアン(アリッサ・チア)は、仕事に打ち込みながらも酒におぼれる日々を送っている。あるとき、アルバイトのリー・ダージー(チェン・ユー)の適性を見抜いて業務を任せたチャオアンだったが、実は彼女は息子を殺した無差別殺人犯の妹だった。

見どころは、重いテーマに真向から取り組んだ骨太なストーリーだ。世間から批判されながらも信念を貫こうとする加害者の弁護士、社会からつまはじきにされる加害者家族、無責任な世間の声など、悪とは何かを考えさせられる。

■日本の大ベストセラー小説を大胆な改変でドラマ化した「模倣犯

宮部みゆきのベストセラー小説「模倣犯」を原作とした、全10話のNETFLIXオリジナルドラマ。2023年に独占配信が始まると、台湾・香港・タイ・ベトナムなどで週間チャートの1位に輝いた。原作にはいない検事を主人公に据えるという大胆な改変をしつつも、原作を損なわない良作に仕上がっている。

切断された女性の手首が入ったギフトボックスが、公園で発見された。これが連続殺人である可能性に気付いた検事のグォ(ウー・カンレン)は、残酷で狡猾な犯人とのゲームに足を踏み入れていく。被害者や被害者家族の心を蹂躙し、事件をショーのように世間に誇示する犯人を、グォは止めることができるのだろうか。

模倣犯」はこれまでも、日本で映画やドラマスペシャルとして映像化されてきた。だが、文庫本で全5巻という原作の圧倒的なボリュームを考えると、2時間ほどの映画に詰め込むのではなく、全10話のドラマという本作の形は作品にマッチしているように思う。マスコミや世間が犯人に踊らされていくさまと、犯人を追い詰めるクライマックスのシーンは必見。

■実在の事件をもとにした密度の濃いサスペンス「台湾・クライム・ストーリーズ」

台湾で実際に起きた事件をもとにしたミニドラマシリーズ。米国の人気ドラマ「CSI:科学捜査班」のスピンアウトである「CSI:ニューヨーク」で脚本などを務めたTrey Callawayが顧問として参加している。リディアン・ヴォーン、ワン・ポーチエ、チェン・イーウェンら、豪華俳優陣にも注目したい。

シリーズ1つめの「出軌」は、列車脱線事故保険金詐欺事件を描く。列車の脱線事故で夫が昏睡状態となってしまった、保険会社勤務のウェンチン(アリソン・リン)。調査をしていくうちに、彼女は脱線事故は保険金詐欺をするために故意に起こされたのではないかと気付く。また、夫の不倫についても疑い始めるが……。

そのほか、一家惨殺事件の真相にせまる「生死困局」、小学校教師殺人事件を描いた「惡有引力」、軍事基地における幼児殺害事件にパワハラ問題などが絡む「黒潮之下」という4つのクライムサスペンスが堪能できる。

見どころは、本当にあった事件を下敷きに、独自の設定や解釈を加えて、容疑者、犯人、被害者の心情を丁寧に掘り下げている点だ。登場人物に感情移入して、真相に涙してしまうことも。俳優陣の熱演もあって密度の濃いドラマとなっている。

アスペルガー症候群の鑑識官が真相究明に挑む「The Victims’ Game 次の被害者」

シーズン2にディーン・フジオカが出演することでも話題となった、Netflixオリジナルドラマのシーズン1。アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の鑑識官が、娘が関与していると思われる連続変死事件の謎を解くべく、自らの危険を顧みずに捜査に乗り出していくスリリングなサスペンスドラマとなっている。

アスペルガー症候群である鑑識官のファン(ジョセフチャン)は、鑑識官としての能力はとび抜けているものの周囲とはうまく人間関係が築けていない。あるとき、凄惨な事件現場で、疎遠になっている娘が事件に関与した証拠を見つけてしまったファンは、事件記者に近づいて取引をもちかける。

真相はどこにあるのかといった謎解きや、凄惨な事件現場の描写なども見応えがあるが、何といっても見どころは、アスペルガー症候群の鑑識官という難役に挑んだジョセフチャンの見事な演じっぷりだ。本作での演技が高く評価され、ジョセフチャンは第25回釜山国際映画祭の共催イベントであるアジアンコンテンツアワードで、最優秀男優賞を獲得した。

■脱獄した元天才投手が自らの冤罪事件に立ち向かう「罪の後」

恋人を殺され事件の犯人として刑務所に収監された青年と、青年が脱獄する際に巻き込まれた記者が事件の真相解明に挑むサスペンス映画。警察に追われ、マスコミや身勝手な世論の槍玉にあげられ、さまざまな妨害にあいながら、果たして2人は真相にたどりつけるのか。事態が二転三転し、謎が深まっていく展開に引き込まれる。

MLB入りを間近に控えた若き天才投手ジャン・ジェンイー(エドワード・チェン)は、恋人を殺したとして刑務所に収監されていた。囚人インタビューにきた元人気キャスターのリウ・リーミン記者(ジョセフチャン)を脅して脱獄を成功させたジェンイーは、事件の真犯人を探そうと動き出す。一方で、亡き妻が残したネット番組を守るべく躍起になっていたリーミンも、この事態を利用してチャンネルの登録者数を増やそうと事件の調査を始めたのだが……。

真相を追ううちに、ジェンイーの亡き恋人やリーミンの亡き妻に対して、それぞれ“ある疑惑”が持ち上がる。妻を信じるというリーミンの「自分が信じればそれが事実になる。人生は選択の連続だ。納得いくものを選べばいい」という言葉がとても重い。見どころは、彼らがどのような真相を選ぶのかという点と、観客に示唆される真相だ。エンドロールの“最後”まで物語りを見届けてほしい。

■台湾サスペンスの魅力は勧善懲悪で終わらない重厚なストーリー

今回紹介した5作品はどれもサスペンスであるため、"事件"がストーリーの核となっている。だが、事件が起き、ハラハラドキドキしたものの主人公の活躍でスッキリ解決してめでたしめでたしというような、ある種爽快な筋立てにはなっていない。

どの作品も、加害者、被害者、それぞれの家族や関係者などの事情や心情をしっかり描きこんでいるからだ。事件が解決して犯人が捕まっても、亡くなった命は帰ってこない。めでたしめでたしでは終われないのだ。

謎解きや犯人をどう追い詰めていくのかというのも、サスペンスの面白さではある。しかし、台湾サスペンスはそこにとどまらず、事件のその後や事件が投げかけた波紋の大きさを描いたものや、関係者の事情・心情に寄り添ったもの、マスコミや好き放題に発せられる世間の声に批判的なまなざしを向けるものなど、社会派のドラマが多い。登場人物たちに共感したり、同情したりしながら、ときに「フェイクニュースに踊らされていないか」などと自分の姿勢を顧みる機会になったりもするストーリーの分厚さが台湾サスペンスの魅力となっている。

台湾でドラマとしてリメイクされた「模倣犯」/※提供画像