税務調査の実際の現場では、どのようなことを聞かれ、どのようなことを調べられるのでしょうか? 本記事では、Aさんの事例とともに税務調査でチェックされるポイントについて、税理士事務所エールパートナーの木戸真智子税理士が解説します。

税務調査を受けた人の8割は追徴課税になる

贈与税の改正が2024年度から始まります。 これまでは、生前贈与から3年以内に相続が発生した場合には、その贈与は「なかったもの」とみなし、相続税の計算をしていました。しかし2024年1月1日からは、この期間が7年へと引き延ばされます。改正に伴い、相続税対策への意識も高まるなか、やはり気になるのは税務調査についてです。

相続税の税務調査については、統計によると、相続税の申告をした人の約2割が税務調査の対象となっています。その税務調査を受けた結果、申告漏れなど指摘があった割合は8割となっており、非常に高い割合で追徴課税となっております。

もしものときのため、定期的に現金を引き出していた家族

ここでひとつ事例をご紹介します。

Aさんは長く病気療養中であり、余命宣告をされていました。家族も覚悟をしており、いつ危篤になってもおかしくない状況でした。そのため、もしものことを想像しており、家族はもし相続が起きたらということも心配するようになりました。

もしものときになにより心配なのは当面のお金です。まずはお葬式費用や病院に支払う医療費、そして相続人の生活費です。

相続発生した場合、亡くなった人名義の銀行口座は相続手続きが終わるまで凍結されます。口座が凍結されると入出金ができなくなり、口座引き落としや振込による受取も当然不可能になります。

これをあらかじめ聞いていたAさん家族は、万が一のためにAさんの通帳から現金を引き出していました。日々の医療費の支払いもあるため、定期的に引き出すことも多くなり、いつの間にか、現金がたまってきていました。

Aさんの家族はいつしかその現金を寝室の金庫にしまっておくようになりました。なんとなく、段々とその現金は自分達のものという認識になっていました。

そうしてとうとう相続が発生してしまい、申告を終えた2年後、税務調査が来ることになりました。金庫にしまっていた現金は相続に含めていなかったのです。

税務調査の場所は自宅でした。ふと調査官が「このお部屋も見せてください」と言われたその寝室には……ずっとしまい続けていた金庫があったのです。

現金の「使用用途」にも注意が必要

「こちらは寝室なので」と断っても、そもそも証拠はそこだけではありません。

実際の現金を見なくても通帳を見れば、引き出した現金がわかります。亡くなる前に通帳から引き出した現金は、基本的には現金として相続財産になります。もしならないとすればその現金の使途を明確に説明できる場合になります。

しかし使途が説明できれば相続税の対象にならないかといったらそうではありません。

調査官「この通帳から現金を引き出していますが、こちらはなんのために引き出したのでしょうか」

納税者「こちらはお葬式費用に使いました」

このように回答した場合、たちまち、それではこの現金は申告漏れですね。ということになります。

申告漏れにより、無駄な税金を払うことに…

話を戻しまして。事例のAさん家族は、調査官から通帳に引き出しの使途を聞かれても明確に答えることはできず、またその現金があるかどうか金庫を見せてくださいという流れとなりました。

Aさんの家族は焦りからか「お願い……寝室だけはダメ!」次第に声を荒げます。落ち着くまで調査官が説得して結局は部屋に入り、ベッドの下の金庫を発見。現金の申告漏れが発覚しました。

バレないだろうと思っていても、税務調査のプロである税務署には通用しないものです。

最初に申告しておけば納税する必要のなかった無駄な税金を申告漏れにより支払わなければならないという点も忘れてはいけません。

たとえば、通帳から複数回にわけて引き出した現金について本税3,000万円が申告漏れとなり、それが仮想隠蔽行為となった場合には重加算税が課されます。重加算税は一番負担が重く、35%または40%となっています。3,000万円の申告漏れの本税に対しては、35%の場合、1,050万円の重加算税となります。

これは最初に申告漏れがなく申告していたら支払わなくてよかった無駄な税金となります。

税務調査でチェックされるポイント

それでは税務調査が入るとどのようなところをチェックされるのでしょうか。具体的には次のようなものが対象になります。

・不動産の評価は適正か ・申告漏れの財産はないか ・通帳から引き出した現金はどんなことに使ったか ・被相続人が亡くなる前の収入についての申告に漏れはないか

また、申告漏れがないかどうかについて、参考にするために、被相続人の生前の状況などもヒアリングを受けることがあります。具体的には下記の内容が挙げられます。

・被相続人の出身地、職業、生活状況、趣味 ・被相続人の両親の相続

これらは、雑談のようなシチュエーションで聞かれることもありますが、それらの会話から、申告漏れにつながる情報を探している可能性があります。

そして、被相続人だけでなく、家族についても聞かれることがあります。たとえば、配偶者の出身地、職業、生活状況、財産状況などが挙げられます。

そもそも税務署は税務調査の当日だけではなく、事前に詳細を調べたうえで、対象になりそうなポイントを絞って、税務調査に臨んでいます。そこからも税務調査が行われたうちの約8割が申告漏れの指摘があるという統計が物語っています。

税務調査の対象になりやすい人

それでは税務調査はどのような人が対象になりやすいのでしょうか。

1.納税額/遺産額が多い人

まずひとつ目として、相続税納税額や遺産額が多い人です。こちらはやはり財産が多いとその分確認するポイントも多くなりますし、その分申告漏れや計算ミスの可能性も高くなります。

そして、相続税の計算構造が、遺産額が多ければ多いほど、税率が高くなるため、その分、申告漏れの指摘があった際の追徴課税も多くなります。結果として積極的に税務調査は入りやすくなります。

2.相続税の申告をしていない人

次に2つ目として、相続税の申告対象なのに、もしくは相続税がかかるのに、相続税の申告をしていない人です。

これは一般的に勘違いされやすいポイントとして、配偶者控除などの制度を利用して相続税がかからない場合も申告はしなければならないという点です。

相続税は配偶者については、比較的大きな控除枠が設定されています。内容としては、遺産額が「1億6,000万円」または「法定相続分」までであれば相続税は非課税になるというものです。それにより、相続税はゼロ円になる可能性は非常に高くなります。

結果ゼロ円だから、申告不要でしょう?と思ってしまいがちですが、それは間違いです。この配偶者控除の適用を受けるためには要件があります。

・法律上の配偶者であること ・相続税の申告をしていること ・遺産分割が確定していること

これらの要件があってはじめて、配偶者控除が適用できることになります。

これに似たものとして、基礎控除がありますが、基礎控除以下であればこちらについては申告不要になります。基礎控除額とは3,000万円+法定相続人×600万円になります。

そのほかにも小規模宅地の特例など相続税の軽減措置がありますが、原則として申告をすることが対象になります。相続税がゼロだからといって申告をしないと大変なことになります。まとめると、

遺産総額 > 基礎控除 ⇒ 相続税の申告が必要 遺産総額 ≦ 基礎控除 ⇒ 相続税の申告は不要

となり、計算される相続税の有無は関係ありません。

3.税理士に依頼せず申告した人

最後に3つ目として、税理士に依頼しないで申告した人です。

わかりやすい理由としては、税理士に依頼していないというところから不備があるのではというチェックが入る可能性があります。特に相続税の申告にあたっては、税理士が申告する場合、相続税評価の根拠になる資料をかなりの枚数で添付しています。

そして、税務代理権限証書だけではなく、書面添付をしていることも多くあります。この書面添付制度とは申告書の作成において、税理士がどのように判断して作成したかということを書面に詳細に記載して、申告書に添付して提出するものになります。

そして、書面添付がある申告書については、税務調査の対象となっても直ちに調査が行われるのではなく、税務調査の事前通知前に税理士の意見徴収が行われます。この意見徴収によって調査省略となることもあります。

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー

(※写真はイメージです/PIXTA)