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ロータリーの歴史と名車・珍車を振り返る

過去130年間、自動車に搭載されるほぼすべての内燃エンジンは、1個から16個のピストンを使用してきた。しかし、エンジンのバリエーションはこれだけではない。

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一部のメーカーは、ロータリーエンジンを採用したり、その実験を行ったりしてきた。一見するとピストンエンジンよりもスマートな設計に見えるが、かれこれ60年近く研究されているにもかかわらずほとんど普及していないという事実が、ロータリーエンジンの難しさを如実に表している。

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ロータリーエンジンの栄枯盛衰を前編・後編にわたって振り返っていきたい。

とはいえ、非常に魅力的で興味深いエンジンであることは間違いない。今回は、その歴史と設計について簡単に振り返った後、実際に発売された、あるいは計画されていた36台のロータリーエンジン車について、登場時期のおおよその順序(時系列が一部曖昧なため)で紹介する。

発明者

ロータリー」と表現できるエンジンは1種類だけではない。ここでは、ドイツのエンジニア、フェリックス・ヴァンケル氏(1902-1988)にちなんで名付けられたヴァンケル型を取り上げる。

実は、自動車に搭載されたロータリーエンジンで、ヴァンケル氏の独創的なアイデアに忠実に従ったものはない。しかし、彼が1つまたは複数のローターで中央のクランクシャフトを取り囲んで駆動し、そこからトランスミッションを介して動力を駆動輪に伝達するというコンセプトを思いついたことから、その名が付けられている。

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フェリックス・ヴァンケル氏(1902-1988

設計

よく知られているように、ヴァンケルエンジンは、ほぼ数字の「8」の形をしたチャンバー内で偏心回転する三角形のローターで構成されている。ローターが1回転するごとに、燃料と空気の混合気を取り入れ、圧縮し、点火し、排気するという通常のプロセスが3回行われる。クランクシャフトはローターと3:1の比率でセットされているため、このプロセスで3回転する。

ロータリーは回転数が高いとよく言われるが、これは少し語弊がある。エンジン回転数が9000rpmを示している場合、確かにクランクシャフトはその速度で回転し、燃焼サイクルを繰り返しているが、ローター自体は3000rpmでしか回転していない。

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「8」字型のチャンバー内で、三角形のローターが回転する。

長所

ヴァンケルローターの作動が非常にスムーズなのは、1回の燃焼サイクルが比較的小さいことと、ローターが常に動いているためである。従来型のピストンシリンダー上部で一旦静止し、加速してから減速してシリンダー底部へ向かい、再び加速してシリンダー上部へ戻るというプロセスを繰り返す。これは、わたし達が思っている以上に大きな問題を生むが、ロータリーではまったく問題にならない。

また、ロータリーピストンエンジンよりも長さが非常に短い。たとえばフロントに搭載した場合、その質量は車体の中心近くに集中する。重量配分の面では有利であり、ロータリーエンジン車がしばしば非常に優れたハンドリングを発揮する理由の1つとなる。

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ロータリーエンジンの吸気・排気・燃焼サイクル

短所

ロータリーエンジンの性質上、燃料を取り込み、排気するという循環をほぼ絶え間なく行う。これは燃費と排気ガスに悪影響を及ぼすことが多く、前述の長所にもかかわらず本格的に普及しなかった主な理由の1つである。また、ロータリートルクの細さがよく知られている。ローターは常に回転しており、ピストンシリンダー内に押し込む燃焼の力には及ばない。

ロータリーが大きなパワーを生み出すのは、回転数が高いからであって、トルクのおかげではない。さらにもう1つ、ローターの先端がチャンバー内を傷つけることなく完璧にシールしなければならないという問題もある。失敗すると悲惨なことになり、通常はエンジンを廃棄しなければならない。

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ロータリーエンジンには解決すべき課題も多く、普及の障壁となっている。

NSUスパイダー

現在はフォルクスワーゲン・グループのどこかに埋もれてしまったNSUだが、ヴァンケル型ロータリーエンジンに真剣に取り組んだ最初のメーカーである。1957年プロトタイプを走らせ、その7年後には後発のエンジンを市販車に搭載した。

それがセダンのプリンツから派生した美しい小さなスパイダーだ。シングルローターエンジンをリアに搭載し、コンペティションで大成功を収めたが、メガホンマフラーを装着した場合、その音は驚異的だった。

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NSUスパイダー

スコダ1000MB

1964年、NSUスパイダーと同じ年に発表されたスコダ1000MBだが、ロータリーエンジンの歴史においてまったく異なる位置に立っている。というのも、市販モデルには搭載されなかったからだ。ロータリープロトタイプはいくつか作られたが、スコダは一般に販売する乗用車ではピストンにこだわった。

メーカーがロータリー車を生産開始前に中止したのはこれが初めてのようだが、最後ではなかったことは間違いない。その後10年も経たないうちに、業界では開発中止がほとんど当たり前のようになっていった。

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スコダ1000MB

フォード・マスタング

1965年、米国のカーチス・ライト社(航空事業で有名)は発売されたばかりの初代マスタングを購入し、4.7L V8エンジンを取り外して、独自のツインローターユニット「RC2-60」に載せ換えた。

カーチス・ライト社は、米国の自動車メーカー向けのロータリーエンジン・サプライヤーになれると期待していた。マスタングは多くの関心を集めたが、メーカーが振り向くことはなかった。同社の夢とは裏腹に、現在インディアナ州オーバーンにある国立自動車&トラック博物館(National Auto & Truck Museum in Auburn)に展示されているこのクルマは、これまでに製造された唯一のロータリーエンジン搭載マスタングであると考えられている。

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フォード・マスタング(写真は代表的な1965年型)

マツダ・コスモスポーツ

マツダほどロータリーエンジンに熱心なメーカーは他にない。マツダ1964年の東京モーターショーに初のロータリー車(そして初のスポーツモデル)を出展したが、ツインローターの扱いは困難を極めた。マツダが新しいシールを開発して初めて、ローターがケーシングに「悪魔の爪痕」と呼ばれる傷をつけることはなくなった。

NSUスパイダーよりもはるかにパワフルなコスモスポーツは、1967年5月に満を持して発売された。1968年の改良では、さらなる出力向上をはじめとする手直しが施され、1972年まで生産が続けられた。

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マツダ・コスモスポーツ

NSU Ro 80

コスモスポーツが市場投入された数か月後、NSUは世界で初めて “2台目” のロータリー車を生産するメーカーとなった。Ro80は、たとえ従来型エンジンを積んでいたとしても、そのルックス、空力効率、全輪ディスクブレーキと独立サスペンション、握ることでクラッチ操作できるシフトノブなど、1967年当時の乗用車としてはすべてが常軌を逸していた。

ロータリーエンジンも当初は注目されたが、1973年の世界的な石油危機と有害な排気ガスに対する意識の高まりにより、存在感は大きく低下した。初期の信頼性の低さも追い打ちをかけることになった。信頼性の問題はすぐに解決されたが、Ro80の評判が回復することはなかった。最終的に、NSUはフォルクスワーゲンに二束三文で買収された。

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NSU Ro 80

マツダ・ファミリア・ロータリークーペ/R100

コスモスポーツが大量に売れる見込みはなかったため、マツダはよりオーソドックスなモデルを導入する必要があると考えた。1967年ピストンエンジンを搭載して登場した2代目ファミリアロータリーを追加し、1968年に投入したのだ。

日本以外ではあまり知られていなかったが、1970年6月からマツダが初めて北米に輸出したクルマだったこともあり、ファミリアロータリークーペ(海外ではR100と呼ばれる)の知名度は世界的に高まることになった。

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マツダ・ファミリアロータリークーペ/R100

マツダ・ルーチェ・ロータリークーペR130

ルーチェ」という名は、1966年から1991年まで生産された、ピストンエンジンとロータリーエンジンを搭載する複数のクルマに与えられている。1969年に発売されたルーチェロータリークーペ(輸出名:R130)は、その中でも異端児だった。

ベルトーネがデザインした美しいクーペボディに、ロータリーエンジンを搭載する同社初の前輪駆動車である。後述のMX-30 eスカイアクティブR-EVが登場するまで、このようなレイアウトを採用するのはマツダロータリー車の中でルーチェロータリークーペが唯一であった。

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マツダ・ルーチェロータリークーペR130

シトロエンM35

アミから派生したM35は、ユーリエ(Heuliez)製のドラマチックなファストバックボディに、シトロエンとNSUの合弁会社コモトール製のシングルローターエンジンを搭載した。一般に販売されることはなかったが、1969年から1971年にかけてテストとして数百台がシトロエンの既存顧客に配られた。

ボディにはステッカーが貼られるなどしてテスト中であることがアピールされた。テスト終了後、M35はシトロエンに返却されたが、一部は野に放たれ、個人の手に渡っている。

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シトロエンM35

メルセデス・ベンツC 111

1969年に登場した実験的スポーツカーC 111シリーズは、当初は最高出力280psの3ローター、後に350psの4ローターと、主にロータリーエンジンを搭載している。やがて従来のピストンエンジンに切り替えたが、それは信頼性と耐久性に問題があったためだという。

しかし、現在は引退しているが、30年以上ダイムラーのエンジニアを務めたウォルフガング・カルベン氏は、セダンに搭載するつもりでロータリー開発を1975年まで続けていたと書いている。結局は実現せず、C 111がメルセデス・ベンツで唯一、公の場に姿を現したロータリーエンジン車である。

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メルセデス・ベンツC 111

マツダ・カペラ・ロータリークーペ/RX-2

マツダ日本国外で販売するロータリーエンジン車向けの「RX」というネーミングは、1970年に始まった。RX-2はカペラロータリークーペの輸出名で、ファミリアルーチェの間に立つミドルサイズモデルであった。

マツダはこの時点で、ロータリーエンジンに最も熱心なメーカーとしての地位を確立していた。その生産台数はカペラ発売時で10万台に達する。対照的に、ロータリーパイオニアであるNSUは、1964年から1978年までの間に4万台未満しか生産していない。

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マツダ・カペラロータリークーペ/RX-2

マツダRX-500

RX-500は、日産126x、トヨタEX-7と並んで、1970年に発表された3台のコンセプトカーのうちの1台である。そのファッショナブルなウェッジシェイプ、バタフライドア、ガルウィング式エンジンカバーが目を引くが、主に「安全性」に新しい観点をもたらそうとしていた。(日産も同じだが)加速しているのか、減速しているのか、一定速度を維持しているのかを後続車に示すテールライトを備えているのだ。

日産は3.0L V6を、トヨタは5.0L V8を搭載するが、マツダは当然ながらロータリーを選択した。RX-500のフロントアクスル前方に搭載されたツインローターユニットの最高出力は約250psと見積もられている。世界に1台しかない実車は大切に保管され、熱心なレストアを経て走行可能な状態にある。

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マツダRX-500

マツダ・サバンナ/RX-3

1971年のRX-3は、車名の数字とはあべこべに、前年のRX-2よりも小型だった。日本ではサバンナの名で知られているが、基本的にはグランドファミリアロータリー版である。セダン、クーペに続いて1972年に追加されたスポーツワゴンは、世界初のロータリーエンジン搭載ステーションワゴンである。

7年間にわたって販売され、セールスにおいては大成功を収めた。3タイプあわせて28万6757台が販売され、ピーク時の1973年だけで10万5819台(1970年までのマツダロータリー総生産台数を上回る)を記録した。当時においてはロータリー車ベストセラーであり、現在でも第2位にランクされている。

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マツダサバンナ/RX-3

マツダ・ルーチェ/RX-4

RX-4は、2代目ルーチェの輸出用ロータリー版(もうお馴染みのアイデア)であり、以前のルーチェR130の直接的な後継車であった。

1972年に登場し、セダン、クーペ、そして後にステーションが用意された。年間販売台数は10万台には届かなかったが、1974年以降は毎年サバンナ/RX-3を上回る販売台数を記録した。

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マツダ・ルーチェ/RX-4

日産サニー

日産は1960年代から1970年代初頭にかけてロータリーエンジンに本気で取り組み、1972年の東京モーターショーではツインローターのサニー(輸出名:ダットサン1200)のプロトタイプを展示するまでに至った。

しかし、翌年のモーターショーにはロータリー車の展示はなく、サニーロータリーの市販車も発表されなかった。日産は1974年、これ以上ロータリーエンジンの開発に取り組まない方針を示した。

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日産サニー/ダットサン1200

シボレー・エアロベット

現在エアロベット(Aerovette)として知られるこのクルマは、6.6LのシボレースモーブロックV8エンジンを搭載しているが、もともとはGMのロータリーエンジン計画によって開発されたロータリーのコンセプトカーであった。

1973年の初公開時には市販化の可能性が高いと思われていた。2ローターのXP-897 GTと、これを2基繋げた4ローターのXP-895が存在するが、石油危機の影響もあってV8へと変更された後、プロジェクト事態がお蔵入りとなった。

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シボレーエアロベット

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