ゲーム『ストリートファイター』シリーズボーナスステージで定番となっている“クルマ破壊”。30年以上にわたってゲーム内で受け継がれているイベントですが、そのきっかけというのはあるのでしょうか。

初出はストIIではない?

1987年に第一作目『ストリートファイター』がゲームセンターで稼働して以来、30年以上の歴史を持つ「ストリートファイター」シリーズ。2023年6月2日に発売された最新作『ストリートファイター6』(スト6)、ボタンひとつで技を出せる「モダンタイプ」や、ボリュームのある1人用モードなどで新規ユーザーも多数獲得しています。

そのなかで、ボーナスステージの定番となっているのが、制限時間内にクルマを破壊するゲームです。

この“クルマ破壊”のボーナスステージが最初に登場したのは、歴代タイトルで爆発的な人気を博し、「格闘ゲーム」というジャンルを作り上げた1991年3月稼働の『ストリートファイターII』(ストII)でした。しかし、そもそもなぜ、壊す対象がクルマなのでしょうか。

実は、この“クルマ破壊”の初出はストIIではありません、初めてクルマを破壊するボーナスステージが登場したのは、1989年12月に稼働開始した横スクロールアクションゲーム『ファイナルファイト』です。ガソリンスタンドに置いてある悪党のクルマを破壊するという設定でした。ストIIは、このボーナスステージのシステムを継承しています。

なお、『ファイナルファイト』で破壊される車両は、ナンバープレートの位置に露骨に「JAPAN」と書かれており、どこかセルシオを彷彿させるようなセダンタイプのクルマでした。この車両デザインに関しては、ストIIも似たようなものになっています。

貿易摩擦という世相を反映!?

ファイナルファイト』のボーナスステージが「JAPAN」と書かれたクルマを破壊する形式になった理由は、『ファイナルファイト』や『ストリートファイターII』の生みの親で、現在はゲーム制作会社アリカの代表取締役社長である西谷 亮さんが公式X(旧:Twitter)で次のように明かしています。

「車壊しのボーナスステージ。もちろん車を壊すことは決まっていた。(当時日本車が売れすぎていて、海外で日本車を破壊するという事件が本当に起きていた)」

1980年代、日本はアメリカとの自動車をめぐる貿易摩擦で大きな政治問題を抱えていました。日本車に押され、アメリカではゼネラルモーターズ(GM)が生産規模を大幅に減らしリストラを行うなど、失業者が続出。怒った全米自動車労働組合(UAW)の組合員などが、自身らを脅かす日本車をハンマーで叩き壊すパフォーマンスなどをしていました。

なお、『ファイナルファイト』は元々、初代『ストリートファイター』の続編を出して欲しいというカプコンUSAの要望から、『ストリートファイター'89』の仮タイトルで開発をスタートした経緯があります。そのため、クルマ破壊のほかにも“最も危険な公共機関”と言われた1980年代ニューヨーク地下鉄風景を意識したステージを作るなど、アメリカの当時の世相を強く反映していました。

ちなみに、歴代タイトルでは、クルマ破壊ボーナスステージが登場しなかったものもあります。ストIIの続編である1997年2月稼働の『ストリートファイターIII -NEW GENERATION-』では、最初クルマ破壊はなく、1999年5月から稼働開始した『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』で復活。この時は三菱「パジェロ」やトヨタハイラックスサーフ」を彷彿とさせるSUVが破壊する対象になっています。

続く『ストリートファイターIV』も最初はクルマ破壊がありませんでしたが、2010年4月から販売を開始した『スーパーストリートファイターIV』で、セダンタイプのクルマを破壊するボーナスステージが追加されました。『ストリートファイターV』ではシリーズ通してクルマ破壊はナシ。そして『スト6』でアメリカの大型トラックを思わせる車両を破壊する形式となりました。

『ストリートファイターII』のゲーム画面をキャプチャー(c)CAPCOM)。