一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、対照的な結果がでた失業率と貿易収支についてみていきます。

フィリピン最新労働統計:失業率、18年ぶりの低水準

フィリピンの失業率は10月に18年ぶりの低水準になり、国の労働市場の強さが示されました。フィリピン統計局(PSA)によれば、失業率は4.2%で、2005年4月以来の最低水準で、昨年11月と同水準です。雇用率も95.8%に上昇し、18年ぶりの最高水準で、持続的な労働需要が経済の勢いの原動力となっています。

PSAの労働力調査(LFS)の予備結果によれば、10月の失業率4.2%は、去年の同月の224万人から15万人減少した209万人の失業者に相当します。失業率は2022年と9月の4.5%からの改善となりました。一方で首都圏は10月に最も高い失業率で5.4%を記録。ダバオ地域が最も低く、2.9%でした。

国家経済開発庁(NEDA)は、政府が貿易と投資を促進する取り組みを通じて、労働市場はさらに改善すると述べました。新しい技術をもたらす投資が進めば、労働市場をより活性化すると見られています。

年初から10月までの失業率は4.6%で、フィリピン開発計画の2023年の目標である5.3%から6.4%を下回っています。2028年までにフィリピンの失業率を4%から5%に引き下げるというマルコ大統領のビジョンに近づいているといえるでしょう。

PSAのデータによれば、10月に労働力の規模は前年同月の4,930万人から58.9万人増加し、労働力参加率(労働年齢人口に占めるフィリピンの労働力の割合)は10月に63.9%となりました。これは昨年同月の64.1%よりも低い水準です。また雇用率は10月に95.8%に上昇し、これは2005年4月以来の最高率です。

10月は、労働集約型産業や政府のインフラプロジェクトからの労働者への需要が高まっているため失業率が低下したと見られています。現在、熟練した労働者と建設労働者への需要が高まっています。産業別では、サービスセクターは4,708万人を雇用し、総雇用者の60.1%を占めています。農業と産業セクターはそれぞれ22.2%と17.8%を占めています。

また宿泊施設および飲食サービス(29.1万人増)、管理およびサポート(22.4万人増)、輸送および保管(14.9万人増)で雇用が著しく増加しました。一方で、卸売および小売販売、自動車およびオートバイの修理(19.3万人減少)、鉱業および採石(7.5万人減少)、製造業(7.3万人減少)では雇用が減少しています。

農林業は10月に、第三四半期の始まり(7月)から109万人増加しています。農業セクターが労働市場を支えた格好です。10月は主要な作物の収穫が始まる時期で、米などの作物の植え付けの時期でもあり、10月に増加する傾向があります。

フィリピン最新貿易動向:10月貿易収支、3ヵ月ぶりの赤字

フィリピンの貿易収支は、10月に3ヵ月ぶりに37億ドルの赤字となり、輸出が世界的な需要の停滞に伴い2桁の減少を記録しました。

フィリピン統計局(PSA)の予備データによれば、輸出の額は17.5%減の63.6億ドルとなり、これは9月の6.3%の減少と1年前の20.1%の増加からの逆転です。輸出の減少は4月の20.2%減以来の最も急激なものでした。

輸入の額は10月に4.4%減の105.4億ドルとなったものの、減少幅は9月の14.1%の減少よりも緩やかでした。輸入が9ヵ月間連続で減少しましたが、3月の1.2%減以来、減少幅は緩やかでした。

これにより、10月の貿易収支は37億ドルの赤字となり、2015年5月以来、8年以上にわたり赤字が続いています。また年初から10月までの10か月間で、輸出は7.8%減の609.1億ドル、輸入は9.6%減の1,049.7億ドルとなっています。開発予算調整委員会は、今年の輸出と輸入の成長率をそれぞれ1%と2%と予測しています。

PSAのデータによれば、電子部品などの製造業が国の総輸出の81.5%を占め、10月に21.1%減の51.9億ドルとなりました。エレクトロニクスの輸出の急激な減少が全体の輸出に影響を与えた格好です。輸出の急激な減少は、世界的な需要の減少によるもので、継続しそうです。

電子部品は10月に総輸出の56.9%を占めていましたが、1年前の51億ドルから28.9%減の36.2億ドルとなりました。輸出の減少は、アメリカ、中国、および他の主要な取引先での経済減速のリスクを反映しています。

輸入については、原材料および中間財が7.5%減の38.2億ドル、資本財の輸入は4.6%減の28.6億ドル、一方で消費財の輸入は4.8%増の20.2億ドルとなりました。主要な輸入品別には、電子製品の輸入(総輸入のほぼ5分の1を占める)が10月に21%減の21.9億ドル、鉱物燃料、潤滑油、および関連物資の輸入が5.3%減の17.9億ドルとなりました。

写真:PIXTA