60歳から資産運用をする場合、若い世代と比べると時間に限りがあります。そこで、CFPの藤川太氏は、新NISAの制度を上手に使って「使いながら増やす」ことにより、資産の寿命を延ばす工夫が重要だといいます。どのようにすればいいのでしょうか。藤川氏の著書『60歳からの得する! NISA大改正』(株式会社ART NEXT)から一部抜粋して紹介します。

資産寿命を「長持ち」させるための「新NISA」の活用戦略

長く運用し、取り崩すタイミングをできるだけ遅くする

60歳から新NISAで資産運用をする場合、おすすめする対象商品は、投資信託の中でも比較低リスクな「バランス型」と呼ばれる商品です。異なる地域や資産を組み合わせて投資するものです。特にリスクが低めなのは、「国内債券」や「外国債券」の割合が高い投信です。

新NISAの非課税投資枠は総額1,800万円で、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」がありますが(成長投資枠の上限は年間240万円、総額1,200万円まで)、基本的には1,800万円の枠をすべて「つみたて投資枠」で使い切るイメージで、毎月一定額を分散投資することをおすすめします。

新NISAで運用する資産は、将来的には取り崩して、老後の生活費の補てんやイレギュラーに発生する特別支出として使っていくものです。しかし、あまりにも早く資産を売却し、現金化してしまうと資産寿命を延ばす効果がなくなります。

特に、60歳から運用を始めた人は、取り崩すタイミングを遅くするようなプランを設計しましょう。値上がりしていると売却したくなるかもしれませんが、資産は運用期間が長くなるほど、複利で増える効果が高まります。

投資信託の利益は「値上がり益」と「分配金」です。分配金は再投資すると複利効果で資産が雪だるま式に増えるしくみになっています。

たとえば、月10万円ずつ、15年間、年利5%で複利運用をした場合、元本合計1,800万円が、2,672.9万円へと872.9万円(約48.5%)増加します([図表1]参照)。

なお、補足しておくと、実際にはシミュレーションのように常に「右肩上がり」で増えるわけではなく、市場の状況で価額が上がり下がりしながら少しずつ資産が増えていきます。

積み立て中は、労働収入や年金、預貯金等で生活費をまかない、積み立てが生涯非課税保有限度額に達しても、すぐに売却せずに運用を続けましょう。

積み立てが終了しても、新NISAでの非課税運用は継続できます。長く運用すれば、非課税投資枠である1,800万円が倍に増えるという可能性だってあるのです。

すなわち、投資枠が埋まった場合、新規積み立てはできませんが、元本が値上がりすれば、非課税のまま資産が増えます。したがって、必要に応じて売却しながら運用を継続することをおすすめします。

そうすることは、投資信託の分配金を再投資するうえでもメリットがあります。なぜなら、投資枠が埋まっていると、課税口座で投資を行わなければならないからです。そこで、こまめに売却して、空いた投資枠を利用するという方法が有益です([図表2]参照)。

そのうえで、健康寿命や余命などを考慮して、夫婦ならば「夫のNISAは10年後から取り崩し、妻のNISAは20年後から取り崩す」というような目標を設定しておくのもよいでしょう。

新NISAを取り崩すうえで心得ておくべきことをまとめると、以下の通りです。

【新NISA取り崩しの心得】

・リスクを抑えた商品でできるだけ長く運用を継続

・長く働き、公的年金は繰り下げて増やす

・いざというときのために預貯金などの安全資産を多めにキープしておく

・分配金は再投資する。取り崩すタイミングは遅ければ遅いほどよし

新NISAで「使っても増える」ようにするには

資金に余裕があれば「一部売却して再投資」

新NISAで運用中の資産は、いつでも自由に売却し、現金化できます。ある程度利益が出たら、その分を売却し、旅行や子どもの住宅取得資金の援助などに充てたいと考えている人もいるかもしれません。

新NISAでは、資産の一部を売却しても、運用を継続していれば再び資産が増えることも期待できます。また、新NISAは、非課税運用期間が無期限であるのに加え、売却した分の枠が翌年復活するしくみもあるため、売却して空いた枠に翌年再投資することができます。これにより、「使いながら増やす」ということがしやすくなるのです([図表3]参照)。

このことを考慮に入れると、実質1,800万円以上の資金を投資できることになります。投資する資金に余裕があるという人は、このしくみを上手に活用し、ライフプランに合わせて必要額を引き出すという使い方をしてもよいと思います。

その場合、預貯金等の安全資産や生活費をまかなう年金収入と併せてNISA資金の使い道を考えることが大切です([図表4]参照)。

頻繁に売却すると資産寿命を縮める

ただし、あまり頻繁に売却してしまうと資産が増えるスピードが減速し、資産寿命を延ばす効果も得にくくなってしまいます。若い世代であれば、結婚資金や住宅資金のために一部解約したとしても、その後の運用にたっぷり時間がかけられます。しかし、60歳からは運用できる時間に限りがあることも考慮しなければなりません。

短期間で売却を繰り返し、お金を引き出してしまっては、運任せの運用になりやすく、資産が複利で増える効果をドブに捨てるようなもの。すぐに使うのであれば預貯金として持っていたほうが、元本割れリスクもなく安全です。

資金に余裕があり、「楽しみのためにNISAの運用をしている」という人は別ですが、資産寿命を延ばしたい人は、売却する目的や必要性を十分検討しましょう。

取り崩すなら「定額」ではなく「定率」で計画的に

増やした資産を計画的に取り崩す

新NISAの資産は、使う段階になっても運用をやめないことが大事です。「運用しながら取り崩す」ことで、資産の減少がゆるやかになり、お金の寿命が長くなります。

たとえば、人生100年と考えれば、少なくとも75歳ぐらいまでは資産をしっかり増やし、そこから25年かけて計画的に取り崩すということをイメージしてみましょう。

資産を運用しながら取り崩す代表的な方法として「定額取り崩し」と「定率取り崩し」があります。前者は、「毎月〇万円」「毎年〇万円」など、毎回一定の金額を定額で取り崩します。後者は、「資産残高の〇%」と割合を決めて取り崩すので、金額は毎回異なり、残高が減るに従い、受け取る金額も減っていきます。

[図表5][図表6]は、75歳から資産2,000案円を年3%で運用しながら取り崩す場合の「定額取り崩し」と「定率取り崩し」の比較シミュレーションです。

毎月8万円の「定額取り崩し」を行うと、98歳で残高が21万円となります。これに対し、年率6.0%での「定率取り崩し」を行うと、受取額は年々減りますが、100歳時点でも937万円の資産が残ります。

このことからわかるように、定額取り崩しよりも、定率取り崩しのほうが資産を長持ちさせることができます。

定期的に解約するサービスもある

ただし、どちらがよいと一概にはいえません。家賃や食費といった生活費に使うなら、毎月いくらと決めて定額で取り崩したほうが生活設計は立てやすいでしょう。一方、生活費は公的年金や預貯金でまかなう見通しが立っていて、旅行に行ったり、孫のお小遣いにあげたりといった余裕資金の取り崩しならば、定率取り崩しがよいと思います。

まずは、資産の用途を考えて、取り崩しの方法を検討しましょう。

最近は、一部の金融機関で投資信託を定期売却するサービスが始まっています。まだ、NISA口座に対応しているのは、楽天証券など一部の金融機関に限られているようですが、今後、このようなサービスが増えれば、計画的な解約がしやすくなるかもしれません。

藤川 太

ファイナンシャルプランナー

CFP認定者

生活デザイン株式会社 代表取締役