「傷ついた事実はいつまでも変わらない。それは謝られても、反省されても。その傷はいつまでもふと瞬間に疼く。でも、そんな傷があったからこの作品を描けたと言う事実が作れました」そう語る吉本ユータヌキ(@horahareta13)さんの「あした死のうと思ってたのに」を紹介する。ラストまで読んだ人からは「涙が止まらない!」と、12万いいねの感動の声が集まっている。

【漫画】明日死のうと思ってたのに1

■自身の体験談をあのとき「誰かに話せたらよかったのにな」という思いを込めて描いた作品

本作がSNSに投稿されたのは、2023年6月。「涙なしに読めない」「悩みを抱える辛さ、それをわかってもらえる有り難さ、心をラクにする事の大事さ。子どもの頃にこの本に出会えていたらと思える作品」などのコメントが集まり、大きな反響を集めた。本作の描き下ろしを収録した書籍が発売されたことをきっかけに、今回、本作の制作秘話や思いを作者の吉本ユータヌキさんにインタビューした。

――本作は、実体験が元になっていると拝見しました。描いたきっかけを教えてください。

中学時代にいじめられたことがキッカケで、人間関係が苦手になってしまい、新しい自分になりたくて同じ中学からの進学が少ない高校に入学したものの、それでもやっぱり人の目が怖くて変われず、そんなときに両親が不仲で、夜な夜な父親が母親を怒鳴る声が聞こえてきたりしました。幼少期から父親が怖かったこともあって、家にいても学校にいても息苦しい毎日を過ごしていて、気がつけば住んでいた11階のベランダの手すりに足をかけていました。

この漫画を描くまでは、当時のことを思い出すたびに「なんで、こんな人生やったんやろ」「もっと明るい人生だったよかったのに」と思っていたので、漫画にすることで少しは気持ちが軽くなるんじゃないかと願いを込めて描くことにしました。なので、主人公の「死にたいと思った気持ち」は自分自身を投影したもので、漫画自体は「こうして誰かに話せたらよかったのにな」というものなんです。

実際描き終えて、たくさんの方が読んで、感想を送ってくださったことで「この漫画を描けてよかった」と思えて、その瞬間から当時のことを思い出しても「でもこんな人生だったから、これが描けた」と思えるようになり、事実は変わらないけど、心は救われています。

――1コマ目の「明日死のうと思って…」と言うセリフに対して「そっか、そっか」と返す友人の軽い口調がとても好きで、この人聞いていたのかな?と思えば「最後の飯行こうぜ」と、ちゃんとわかってたセリフまであって…その流れが、絶妙でうまいなぁと感じました。このくだりも実際に体験がベースになっているのでしょうか?

「こうして誰かに話せたらよかったのにな」という思いで描いたので「そっか、そっか」は、ぼくがもし相談したら言ってもらいたかった言葉なんです。背中を押すような言葉や励ましの言葉も想像してみたんですが、今よりも捻くれた当時の自分には、まっすぐに受け入れられなかったと思いました。

――現在12万いいね、2万リツイート、と大変多くの方に読まれています。今の気持ちをお聞かせください。

素直にうれしいです。「描いてくれてありがとう」という感想が多く、自分の暗くて後悔だらけの人生を肯定してもらえたようです。あのとき、飛び降りなくてよかったと本気で思いました。

――セリフのないコマや「明日」とか「今度」とか、そんな小さな言葉がグッと刺さります。吉本さんのおすすめポイント、見どころなどを教えてください。

正直、自分ではあまり「ここを見て!」ってポイントはないんです。今までしっかり計画立てて、見どころを意図的に設計して漫画を作ることも多かったんですが、この「あした死のうと思ってたのに」に関しては、衝動的に描いたもので、読む人に伝わらなくてもいいから、とにかく自分の気持ちを全部出し切りたいと思いながら作った作品なんです。なので、読んでくださった方が逆にどんなところにグッときたのか教えてもらいたいです。

――12月2日に本が発売されましたが、どのようなラインナップになっていますか?

「あした死のうと思ってたのに」「あした死のうと思ってたのに(2)」「今日からこっそり聴いちゃいます 」「今日からこっそり聴いちゃいます(2)」「青春大どんでん返し」「ただそこにいただけで」「心の傷は」が収録されています。

これは、3年前に初めて描いた創作漫画「今日からこっそり聴いちゃいます」から、3年間で描いた作品を全部詰め込み、最後に「あした死のうと思ってたのに」の別エピソードを描き下ろししました。

――読者の方にメッセージをお願いします。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました!背中を押せるようなパワーもつらい気持ちを消化できるパワーもないですが、ひざ掛けみたいなあったかさを持てればいいな、と思いながら作りました。よかったら一度、開いてみてください。

「明日」「また」そんな次に繋がる約束の1つひとつで、環境は変えられないけど考え方は変えられる。小さな積み重ねを経た、今を感じられる。

取材協力:吉本ユータヌキ(@horahareta13)

誰も認めてくれない人生を彼は認めてくれた/画像提供:(C)吉本ユータヌキ/扶桑社