公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(以下、GHIT Fund)は、2013年以来、総額約18.5億円の投資を通じて、小児用プラジカンテル・コンソーシアムによる就学前児童における住血吸虫症の治療薬であるarpraziquantelの開発を支援してきました。12月15日、同コンソーシアムは、arpraziquantelについて、欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)の欧州医薬品委員会(Committee for Medicinal Products for Human Use: CHMP)が肯定的な科学的見解を示したこと発表しました。arpraziquantelはGHIT Fundが投資するプロジェクトの中で、肯定的な科学的見解を受領した初めての開発中の治療薬です。

住血吸虫症は78カ国にまん延し、51カ国で流行している疾患です。また、2億4,000万人以上が罹患しており、そのうち約5,000万人が就学前の子どもたちです。GHIT Fundは顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)との世界的な闘いにおいて、日本のイノベーションとリーダーシップを活かし、グローバルヘルス領域における研究開発への投資と、国際的な官民パートナーシップを促進しています。

欧州連合域外を対象とした優先度の高い医薬品のためのEU-M4all制度に基づき、小児用プラジカンテル・コンソーシアムを代表してメルク(本社:ドイツ)が申請資料を提出しました。arpraziquantelの詳細については、本コンソーシアムのプレスリリースをご覧ください。( https://www.pediatricpraziquantelconsortium.org )

GHIT Fund CEOの國井修は、「治療を必要とする子どもたちに画期的な製品を届けるというグローバルヘルスにおける使命を実現する上で、これは大きな前進です。コンソーシアムとのパートナーシップは、まさにGHIT Fundの戦略の三本柱、すなわちイノベーションの加速、パートナーシップの促進、投資インパクトの最大化を具現化するものです。日本の知見や技術が世界のパートナーと結びつくことで、日本の革新的なイノベーションはより大きな進化を遂げ、グローバルに重要な役割を果たすのです。」と述べています。

住血吸虫症は成人や学齢期の子どもには安全で効果的な治療薬が存在しています。一方で、小児に適した治療薬がないために5,000万人の就学前児童が公的な医療プログラムで治療されていません。日本のアステラス製薬株式会社(本社:東京都中央区)は、小児用プラジカンテル・コンソーシアムの創設メンバーとして、arpraziquantelの初期製剤開発において、独自の技術を活用することで極めて重要な役割を果たしました。水に溶け、気候の影響を受けにくく、幼い子どもが服用できるよう、味を改良した錠剤を開発しました。この製剤はメルク最適化され、メルクとブラジルのフィオクルス財団の連邦政府医薬品研究所であるファルマンギーニョスにより製造の上、臨床試験用として供給されました。GHIT Fundは、日本のイノベーションとノウハウが世界中の優れたパートナーと連携することに貢献し、これからも世界の健康に大きなインパクトをもたらすよう努めていきます。

EMAが発表したCHMPの肯定的な科学的見解は、arpraziquantelが世界保健機関(WHO)の事前認証や必須医薬品モデルリストに収載される根拠となるものです。肯定的な科学的見解とともに、この事前認証はアフリカ諸国における薬事承認への道筋の後押しとなります。ブラジルでは、コンソーシアムパートナーであるファルマンギーニョスが薬事申請の準備をしています。ファルマンギーニョスは、製造と流通に精通しており、まん延国における新しい小児用医薬品を導入するための製造拠点となります。また、ケニア・ナイロビにあるユニバーサルコーポレーションと連携し、アフリカ諸国での大規模な現地生産計画を支援します。

この規制当局による審査と並行して、コンソーシアムの実施研究「ADOPTプログラム」を通して、アフリカのまん延国におけるarpraziquantelの導入準備を進めており、GHIT Fundも本プログラムを支援しています。治療薬への公平かつ持続可能なアクセスを提供するためには、原料の調達や資金調達の新たな仕組みを確立することが不可欠で、コンソーシアムやステークホルダーと協力して、こうした新たな仕組みも検討しています。また、ADOPTプログラムではサハラ以南のアフリカ諸国で原価ベースでの製品供給を目指しています。

1. 住血吸虫症について

住血吸虫症(別名ビルハルツ住血吸虫症)は、世界で最もまん延している寄生虫疾患の一つで、公衆衛生上の負担が大きく、経済的な影響をもたらします。貧困との関連が高く、清潔な水にアクセスできない人々が多い熱帯、亜熱帯地域にまん延しています。住血吸虫によって引き起こされる疾患で、人々が生活の中で淡水に触れる際に寄生虫に感染します。小さな幼虫は人間の皮膚から血管に入り込み、臓器を攻撃します。特に小児で高い感染率となっています。住血吸虫症は慢性疾患であり、世界保健機関(WHO)によって分類される20の顧みられない熱帯病(NTDs)のひとつです。

https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/schistosomiasis

2. arpraziquantelについて

現在、住血吸虫症の標準治療であるプラジカンテルはすでに承認されており、就学児や成人の治療に適しています。arpraziquantelは、未就学児のマンソン住血吸虫症およびビルハルツ住血吸虫症に対する治療選択肢を広げるために開発されました。メルクが主導した臨床開発において、arpraziquantelは、水に溶ける錠剤(150mg)でした。この小児用製剤のプロトタイプは日本のアステラス製薬が開発し、ドイツメルクがさらに最適化しました。製造工程で、メルクとブラジルのファルマンギーニョスにより臨床試験用製剤として供給されました。今後の製造はファルマンギーニョスとケニアユニバーサルコーポレーションが行う予定であり、同社はアフリカにおいて大規模な現地生産の準備をしています。

arpraziquantelの開発にあたり、小児用プラジカンテル・コンソーシアムは、前臨床開発、臨床開発、登録、アクセスの4つの主要なステップに分けた、小児用医薬品開発プログラムを確立しました。詳細はコンソーシアムのウェブサイトをご覧ください。

https://www.pediatricpraziquantelconsortium.org/what-we-do/development-and-registration-program

3. EU-M4all

EU-M4allと呼ばれる制度を通じて、欧州医薬品庁(EMA)は世界保健機関(WHO)と協力し、欧州連合(EU)域外を市場とするワクチンを含む優先度の高いヒト用医薬品について科学的見解を提示することができます。この制度は、欧州議会及び理事会規則(EC)No 726/2004の第58条に法的根拠があることから、以前はArticle 58 procedureとして知られていました。

4. 小児用プラジカンテル・コンソーシアムについて

小児用プラジカンテル・コンソーシアムは国際的な官民パートナーシップで、就学前児童の医療ニーズに対処することにより、住血吸虫症という世界的な疾病による負荷を軽減することを目的としています。生後 3 カ月から 6 歳の小児の住血吸虫症を治療するための適切な小児用医薬品を開発、登録、および持続的なアクセスの提供をミッションとしています。詳細については、コンソーシアムのウェブサイトを参照ください。

https://www.pediatricpraziquantelconsortium.org

5. コンソーシアムパートナー

メルクドイツ

・ アステラス製薬株式会社(日本)

スイス熱帯公衆衛生研究所(スイス

・ リガチャー (オランダ

ファルマンギーニョス(ブラジル)

アンリミットヘルス(イギリス

ケニア中央医学研究所(ケニア

フェリックス・ウフエ=ボワニィ大学(コートジボワール

ミュンヘン工科大学付属病院(ドイツ

コートジボワール保健省(コートジボワール

アフリカ健康開発研究所(ケニア

小児用プラジカンテル・コンソーシアムのミッションを支援するその他協力者:

・ マケレレ大学公衆衛生学部(ウガンダ

ケニア保健省、ベクター媒介性感染症および顧みられない熱帯病部(ケニア

ウガンダ保健省、ベクター媒介性感染症および顧みられない熱帯病管理部(ウガンダ

【グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)について】

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、日本政府(外務省厚生労働省)、製薬企業などの民間企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム、国連開発計画が参画する国際的な官民ファンドです。世界の最貧困層の健康を脅かすマラリア、結核、顧みられない熱帯病(NTDs)などの感染症と闘うための新薬開発への投資、ならびにポートフォリオ・マネジメントを行っています。治療薬、ワクチン、診断薬を開発するために、GHIT Fundは日本の製薬企業、大学、研究機関の製品開発への参画と、海外の機関との連携を促進しています。詳しくは、https://www.ghitfund.org/jpをご覧ください。

配信元企業:公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金

企業プレスリリース詳細へ

PR TIMESトップへ