株式会社アカリク(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:山田 諒、以下アカリク)は、「博士人材のキャリアと企業での活用」に関する、2023年の総括と2024年の展望レポート」を発表いたします。

  • 1.大学に残らず企業に就職する博士人材が増加中

大学院卒業後、ポストドクターの道を選ばず企業に就職する博士人材が増えています。令和4年度の学校基本調査(※1)で、博士号取得者の民間企業等における専門的・技術的職業従事者は38.4%であり、平成3年に比べて約1.7倍に増加しています。

博士人材を採用した企業側の満足度は高く、文部科学省が研究開発を行なう企業に対して実施した調査(※2)では、企業が研究開発者を採用した後の印象として「期待を上回った」「ほぼ期待通り」の回答が76.6%にのぼります。また、53.3%の企業が「博士人材を今後も積極的に採用したい」と考えており、今後も企業での前向きな採用が期待されます。実際に、2023年8月、富士通が優秀な理系人材を獲得するため、大学院の博士課程に進む学生を正社員として処遇する取り組みを本格展開することを発表(※3)しており、年間1~2人を雇用する計画です。

また、研究職以外のキャリアを求めて企業に就職する博士人材もいます。当社が研究者(研究職)から研究職以外へ転職した方を対象に実施したアンケート(※4)では、研究職以外への転職理由として「経験や知識を他の領域に活かしたかった」「研究職以外で、社会にダイレクトに影響を与えたいと感じたから」といった声が挙がりました。

さらに、昨今では博士人材の起業や大学ベンチャーでの活躍に注目が集まっています。大学発ベンチャーは増加傾向にあり、2022年度調査(※5)では2021年度から477社増加し3,782社と、過去最高を記録しました。これらのベンチャーにおいてCEO、CTOを担う人材には「大学・公的機関の教職員、研究者」が最も多く、一般企業研究職より博士人材を積極的に活用する傾向がうかがえます。

※1)学校基本調査 / 令和4年度 高等教育機関《報告書掲載集計》 卒業後の状況調査 大学院

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000032265103

※2)文部科学省 科学技術・学術政策研究所 民間企業の研究活動に関する調査報告(2022)

https://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-NR199-FullJ.pdf

※3)博士課程進学者を正社員に 富士通、優秀な人材確保

https://www.47news.jp/9766229.html

※4)研究者の転職に関する実態調査

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000144.000017667.html

※5)経済産業省 令和3年度 大学発ベンチャー実態等調査

https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/reiwa3_vc_cyousakekka_gaiyou.pdf

  • 2.世界と比べれば企業で活躍する博士人材は少ない

企業に就職する博士人材が増えているものの、世界や米国と比較するとその割合は非常に低いのが現状です。

例えば、米国では大学で働く博士人材と企業で働く博士人材の数に大きな差はありません。日本と米国の博士号保持者についての条件が異なるため一概に比較はできませんが、日本において博士人材が籍を置く場は大学が圧倒的に多く、企業在籍者は大学の2割に及びません。(※6)

さらに、日本企業の経営者は8割以上が大学卒、米国では約7割が大学院卒と、経営者の最終学歴においても差が出ています。(※6)

また、世界的に見れば、日本企業の研究者に占める博士号取得者の割合は4.4%であり、この数はオーストラリアの1/4と、非常に低い状況と言えます。(※7)

以上のように、日本の企業内で活躍している人材の多くは「大卒」であり、「院卒」のキャリアの場はいまだに大学が主で、研究職であっても経営者であっても、企業内における活躍の場は多いとは言えない状況です。

※6)文部科学省 科学技術指標2023

https://nistep.repo.nii.ac.jp/records/2000006

※7)内閣官房 「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/teigen.html

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/pdf/sankou.pdf

  • 3.博士人材が日本の大企業とミスマッチする理由

他国と比較し、日本において企業で博士人材の活用が進まない背景には、旧来の日本型雇用システムがあります。

「新卒を採用し、企業で育てる」という終身雇用制度が残る企業において専門人材は不要とされてきました。昨今では、欧米で主流である「ジョブ型雇用」を進める企業も増えていますが、そもそも博士号取得者を含めた専門性を有する人材を十分に活用しにくい体制ができています。

そのため、「研究者」や「専門家」、「大学院卒」と聞くと、「扱いにくそう」というマイナスなイメージが定着してしまっているのです。経済産業省の調査(※8)によれば、博士人材を採用しない理由として「企業が必要とする人材像に合う人材であれば採用に値し、必ずしも博士号を持っている必要はない」という意見が企業規模に関わらず高い割合を占めました。また、企業規模が小さくなるほど、「博士人材に見合った処遇ができないため」という理由も大きくなっています。

つまり、「博士号」という資格そのものは、採用において必ずしもアドバンテージとされていないのです。

さらに、企業が求める博士人材像にもミスマッチが起きています。今後の企業(部署)で採用したいと思う博士人材像については、「自社産業分野との親和性が高い分野の専門性を有する人材」が最も求められています。この結果から、企業は自社が行っている研究の即戦力となる人物を求める場合が多く、博士人材の柔軟性や汎用的能力はまだまだ理解・評価されているとは言い難いことがわかります。

ただし、研究開発部門の者、または自身が博士修了者である者には、分野の専門性に加え、「高度な研究活動により培われた課題設定・解決力」にも同程度期待しています。これは、

博士人材自身が、現在の仕事に役立っているスキルとして実感している、「論理性や批判的思考力」「自ら課題を発見し設定する力」「自ら仮説を構築し、検証する力」とも合致しており、博士人材の能力を的確に理解し活用している例だと言えます。(※9)これまでの自身の専門分野に限らず広い分野で課題設定・問題解決を行えるということは、言い換えれば、博士人材は専門分野を横断して新たなエキスパート分野を開拓できる素養を備えているということです。博士人材の持つこれらの高度な能力が評価されれば、企業での活躍の場は広がってゆくでしょう。

※8)経済産業省 企業における博士人材の活用及びリカレント教育のあり方に関するアンケート調査(2020年)

https://www.mext.go.jp/content/20211020-mxt_kiban03-000018518_5.pdf

※9)文部科学省 科学技術・学術政策研究所 博士人材追跡調査第4次報告書(2022)

https://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-RM317-FullJ.pdf

  • 4.企業で博士人材を活用するには 

博士人材の能力を生かせるかどうかは、企業の受け入れ体制によって大きく異なります。特に、採用・キャリアパス・働きやすさ・処遇の4点について、専門人材に向けた制度を整える必要があるでしょう。

各項目のポイントと、具体的施策を大手企業やベンチャー企業の事例からご紹介します。

(1)採用:ジョブ型雇用の導入。高度な能力評価でミスマッチを防ぐ

ジョブ型雇用の導入を検討し、兼業・副業の推進などに取り組み、日本型雇用システムの転換を目指すことが重要です。採用に際しては、各部署や事業所で採用を実施するなど、現場ニーズを組み上げることで入社後のミスマッチを防げるでしょう。また、博士人材の社員が博士人材の採用を担当することで、より高い精度で応募者の研究能力を評価でき、業務適性の高い人材の採用が可能となります。

<事例>

・入社希望者と各事業所が直接面談を実施し配属先を決めたうえで採用を行う、ジョブマッチング制度を導入(三菱電機株式会社

・博士人材の社員が博士人材の採用を担当(旭化成株式会社・ダルマ・キャピタル株式会社)

インターンシップや博士人材の新卒採用時には博士人材のメンターを設定(みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社)

・専門性評価の面接では、面接官のうち一人は応募者と同じ領域・専門分野を有する者が担当(IBM Research, UK)

(2)キャリアパス:管理職以外のキャリアパスを用意し、将来の展望をクリアに

これまで、「会社で偉くなる=管理職になる」という道が主流でした。しかし、博士人材など専門職を増やし、活躍を期待するには、管理職以外の複数型キャリアパスを用意することが大切です。

<事例>

・複数のキャリアパスを用意し、スペシャリストを養成(三菱電機株式会社

・高い専門性を持つ人材が必ずしも管理職とならずともキャリアを重ねることのできる「高

度専門職制度」を創設(旭化成株式会社)

・キャリア展望を持ちやすくするため、大幅な業務の変更や異動を実施しない(大和証券株式会社)

(3)働きやすさ:専門分野に集中できる環境づくり

企業が求める研究と、博士人材がしたい研究が完全一致することは少ないでしょう。もちろん、企業に勤める以上、将来的に企業の利益につながる研究業務に従事してもらうことは大切ですが、そのなかでもわずかな「自由」の幅を用意することが専門人材の働きやすさにつながります。

・専任スタッフやマネジメント層が博士人材の雑務を肩代わりし、専門的業務に集中できる体制を構築(ダルマ・キャピタル株式会社)

・業務時間の10%~20%を専門性に即した自由な研究開発にあてられる(旭化成株式会社)

・得意分野に集中して業務に取り組み、活躍できる体制を構築(株式会社pluszero)

・海外チームとの研究等、魅力的なキャリアパスを提示(大和証券株式会社)

(4)処遇:総合職とは異なる給与設定

複数のキャリアパスを用意するだけではなく、専門職の道を選んだとしてもマネジメント職と遜色ない適切な給与制度を整備するなどの処遇・評価制度を構築することがモチベーション維持には欠かせません。また、研究内容によっては結果が出るまで時間がかかるため、マイルストーンを設定し、中長期的な研究も評価するなど、独自の評価制度を整えましょう。

事例

・マネジメント職へ移らずともキャリアアップができる処遇制度(三菱電機株式会社

・初任給月額40万円~(固定残業代30時間含む)のエキスパートコースを設置。短期的な評価が難しいため、通常の総合職よりも基本給の水準を高く設定しウェイトを高めることで、モデルの開発に時間をかけ、集中して取り組むことができる(大和証券株式会社)

  • 5.2024年は、高度専門人材が増えていく時代に備えた体制づくりを

「AI失業」という言葉も話題となっているように、すでに多くの仕事がAIにとって代わられようとしています。「大企業であってもいつ倒産するかわからない。企業で出世するより、独立できるよう手に職をつけたい」と考える方も増えているかもしれませんが、今後はそれに加えて「人にしかできない高度化された仕事」を深く追求していく方も増えていくことでしょう。そうなれば必然的に、博士人材にかぎらず「高度専門人材」が増えていきます。

画一された正攻法が示されているわけではない時代だからこそ、2024年は高度専門人材増加に向けた体制づくりをはじめ、多様なキャリアの門戸を広げ支援することが重要となります。そうすることで組織における多様性が育まれ、変化に対応して生き残っていけるような強い企業へと成長できるでしょう。

  • 会社概要

会社名:株式会社アカリク(https://acaric.co.jp/

創業 :2006年11月

代表者:代表取締役社長 山田諒

所在地:東京都渋谷区渋谷2-1-5 青山第一田中ビル2階

資本金:1億1500万円

事業 :大学院生・ポスドク向け就活情報サイト「アカリク」の運営、研究分野・業種・職種別イベントの企画開催、大学等でのキャリアセミナーの実施、新卒大学院生・若手研究者・大学院出身者の人材紹介、オンラインLaTeXエディター「Cloud LaTeX」の運営など

配信元企業:株式会社アカリ

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