佐々木蔵之介が主演を務めるドラマ「マイホームヒーロー」がスゴいことになっている。劇場版が2024年3月8日(金)に公開されることも発表されている本作は、累計発行部数360万部を突破した大人気コミックが原作の“ノンストップファミリーサスペンス”。本作は「娘よ、君の彼氏を殺しました…」というキャッチそのままに、佐々木演じるおもちゃ会社の営業マン、鳥栖哲雄が、娘の零花(齋藤飛鳥)を傷つけるDV彼氏、麻取延人(内藤秀一郎)を殺害する衝撃のシーンからスタートした。今回は、ドラマ最終話に向けてこれまでの展開を振り返り、キャスト陣の熱演も光るそのおもしろさに迫っていきたい。

【写真を見る】佐々木蔵之介が娘を守るために殺人を犯し、闇組織と戦うごく普通(?)のお父さんを熱演する「マイホームヒーロー」

■娘の彼氏を殺害した父親が妻と共に死体を処理する衝撃のスタート!

第1~2話にかけていきなり、零花や、延人が所属していた凶悪な半グレ犯罪組織に気づかれないよう、妻の歌仙(木村多江)と一緒に死体を解体、処理してしまうというとんでもない行動に出る哲雄。その残虐な描写は映画にもなった桐野夏生の小説「OUT」を想起させるが、それを深夜枠とはいえ地上波で、しかも普段は温和な役を演じることが多い佐々木をキャスティングするなんてビックリ!それだけでも攻めているのがよくわかるが、佐々木のパブリックなイメージも活きることにより、普通の父親が家族を守るためにとるあり得ない行動や「これが自分の人生を変える1週間の始まりだった」というナレーションがリアルなものになっていた。

それに加えて、哲雄はミステリー小説を書くのが趣味で、その手の本を読み漁り、殺害の方法や犯罪のトリック犯罪者の心理を読み解く術に優れているだけでなく、デジタル機器の機能や扱いにも精通しているというのも大きなポイント。死体処理にも無駄がなく、犯罪者なのに、冷静にことを行う哲雄には妙な信頼感すら覚えてしまう。

さらに、哲雄の犯行を知って怯えたり、「自首しましょうよ」などというありきたりのことは言わず、「(零花の前に交際していた女性を2人も殺している延人と)同じことをすればいいわけでしょ」と言って背中を押す歌仙の天然っぽいキャラも絶妙!彼女を演じる木村多江のひょうきんな芝居も最高で、第3話での市販の生ゴミ処理菌を混ぜた土に延人の肉片を入れるくだりでは、「ドバッと行きましょう!」の声と共に「パパパパ~ン!」と結婚行進曲を口ずさみ、挙げ句の果てには「哲雄さん、人を殺すの初めて?」なんて真顔で聞くから思わず笑っちゃう。

■哲雄を疑う組織のメンバー、恭一とのスリリングな攻防

そんなコミカルだけど愛にあふれた夫婦の会話をフックに、生々しい残虐サバイバル路線には向かわず、2人が次々に襲い来るピンチの数々をギリギリでくぐり抜けていく展開になるのが本作の醍醐味だ。なかでも、延人と同じ組織のメンバー、間島恭一との心理戦はスリリング。恭一をクールに演じる高橋恭平と佐々木の表情や視線による演技バトルに息をのみ、最初から哲雄が延人を殺害したと睨んでいる勘の鋭い恭一をどうやって哲雄が欺くのかが大きな見どころになっていた。

そんなキーとなる2人が初めて対面するのが第2話。零花が住むマンションの部屋で、延人の行方を追って来た恭一に遭遇した哲雄は、「出張お掃除サービスの鈴木です」とバレバレの変装で切り抜ける。また、自宅のリビングに盗聴器を仕掛けられたことを知った際には、娘のストーカーをでっち上げ、自ら台本まで書いて歌仙と機器に向かって芝居をすることで、延人殺しの真犯人をほのめかそうとするくだりもサスペンスドラマとは思えないくらい微笑ましい。この、スリルと笑いが同居した不思議な味わいも本作ならではのものだろう。

■恭一に協力を持ちかけ、驚きの行動力を見せ続ける哲雄

物語が大きく動きだすのが第4話だ。ストーカーの存在の虚偽を見破った恭一に、「オマエが延人を殺したんだろう?」と哲雄は詰め寄られるが、その恐ろしい状況でも驚くほど冷静で、嘘がバレないように言葉を選び、恭一の心理に探りを入れていく。ピンチをチャンスに変えるシミュレーションをどこか楽しんでいるようにも見える彼は、恭一が組織から「1週間以内に延人を探せ!さもなければ…」と言われて追い詰められていることを察知すると、思いがけない事件によってそのなかにある個人的な想いまでも知ることになる。

そのうえで恭一に「僕と組みませんか?」と持ちかけるのだが、心のなかでは“僕たち家族が生き残るために残された方法は一つ。証拠をでっち上げ、延人が生きていると偽装する。これしかない”と決断。怒りもショックも、後悔さえも乗り越え、逃げるのではなく、臨戦態勢になるのだから、観ているほうはどんどん前のめりになってしまうのだ。

実際、そこからの哲雄の行動力はハンパない。延人の恋人だったキャバ嬢の響(水上京香)から組織も知らない彼の秘密を入手。恭一と条件付きで共闘関係を結ぶが、ここでもベタなバディものへと雪崩込むことはなく、哲雄に対する疑いを捨てない恭一と、彼をだまそうとする哲雄による一進一退の頭脳戦が激化していくから目が離せない。

■なりふり構わない歌仙の胆力にも見える家族の結束力

第5話では、哲雄の指示で歌仙が大学時代の演劇サークル仲間、田端(原田龍二)に依頼し、延人が生きていると見せかける動画を撮影してSNSにアップ。しかし、組織のメンバー、竹田(淵上泰史)らによる調査でフェイクと見破られ、延人の肉片を土に還した植木鉢を疑っていた恭一が哲雄の自宅を訪問。このピンチもまた、歌仙が夫をも欺く驚きの方法でかわし、ガッツポーズを見せたところも印象的だった(第6話)。

一難去ってまた一難の第7話。零花の部屋に付着しているはずの目には見えない血痕や指紋をASLライトで浮かび上がらせ、延人殺害の証拠をつかもうとする恭一と、それに気づき、ミステリーファンだからこそ知り得る知識でスピーディに回避する哲雄。そんな両者の駆け引きがスリリングに、時にコミカルに展開し、零花に仕掛けた恭一の罠を歌仙がなりふり構わない大芝居で阻止するシーンでは家族の結束力と愛すら感じるのだ。

■組織の幹部、窪や延人の父、麻取義辰を相手に哲雄たちはどう立ち回っていくのか?

とはいえ、状況は悪くなるばかりで、問題はなにも解決していない。一筋縄ではいかないクセのある登場人物はまだウヨウヨいて、恭一に指示を出す犯罪組織の幹部である窪(音尾琢真)はキレるとなにをしでかすかわからないし、恭一と馬が合わない竹田もなにを考えているのか不明だ。

それこそ、哲雄がバーで偶然出会った延人の父親、麻取義辰は息子を溺愛し、その時点では素性を知らない哲雄に「息子を傷つけた奴は殺す。家族もろとも皆殺しにする」と吐き捨てるかなりヤバい奴(第5話)。詐欺師でもある彼を粘着質な高い声とドスの効いた低い声を使い分け、相手のリアクションを無視して自分のノリでしゃべるキャラを体現した吉田栄作も(いい意味で)めちゃくちゃ気持ち悪くて、このあと起こるであろう惨劇の恐怖を増幅させる。それに、両親がなにかを隠していることに気づいた零花も、今後は物語に大きく絡んでくるのは間違いない。

そして第8話、麻取から提示された延人捜索の期限が迫り、窪らによって哲雄が犯人に仕立て上げられそうになるなか(実際にそうなのだが…)、歌仙の体を張ったファインプレーもあって恭一に罪を着せることに成功。しかし、すべてが終わったとホッとしたのも束の間の第9話。逃亡した恭一が麻取に、零花の部屋に延人殺害の痕跡が残されていること、ほぼ間違いなく殺害したのは哲雄であることを告げる…。かくして、零花の部屋で哲雄と麻取は最悪の再会を果たしてしまう。

果たして哲雄は、恭一や麻取を相手に、愛する家族を守ることはできるのか?実際に殺人を犯している彼の運命は?大ピンチが次々と襲いかかり、とてつもない緊迫感と絶妙な間合いの笑いを交錯させながらノンストップで突き進んでいく「マイホームヒーロー」。ドラマの最終話はもちろん、劇場版からも目が離せない!

文/イソガイマサト

ドラマ「マイホームヒーロー」のスリルと笑いが同居した不思議な味わいを再確認!/[c]山川直輝・朝基まさし/講談社/ドラマ「マイホームヒーロー」製作委員会・MBS