「中にはイタリアから職人を呼んで、ホテル全体に36億円もかけて建てられた昭和ラブホもあるんです。そんな時代だったからこそ生み出せた美しさなんでしょうね」と話すゆなな氏
「中にはイタリアから職人を呼んで、ホテル全体に36億円もかけて建てられた昭和ラブホもあるんです。そんな時代だったからこそ生み出せた美しさなんでしょうね」と話すゆなな氏

1960〜80年代に建てられたラブホテル、"昭和ラブホ"を全国津々浦々巡り続けるゆななさん。

訪れた昭和ラブホの内装などを収めた写真や動画を投稿するSNSは、総フォロワー数5万人超え。2023年3月には、撮りためた写真を集めた自身初の著書『回転ベッドを追いかけて』を出版した。

昭和ラブホの何が、平成生まれの彼女を惹(ひ)きつけるのか。そこには、現代にはない昭和特有の"ムダ"や"バカバカしさ"があった――。

【書影】『回転ベッドを追いかけて』(hayaoki books)

* * *

――初めて昭和ラブホに行ったときのことを教えてください。

ゆなな 20歳くらいの頃に、当時の自宅近くにあった大田区の隠れ家的昭和ラブホに行ったのが最初です。

もともと、別の昭和ラブホをインスタで見て「かわいい! 行ってみたい!」ってなっていたんですけど、ラブホテルに誰かを誘うのは意味が伴っちゃうかなと思って、まずはひとりで近かった昭和ラブホに行きました。

――そのときの第一印象は?

ゆなな 全室鏡張りで、衝撃を受けたのを覚えています。なんというか、独特のにおいがありましたね。

最近のおしゃれなホテルとは違って、ずっと閉め切っているからか少しカビ臭いというか。たとえるなら、おばあちゃんの家の倉庫みたいな。

昭和ラブホあるあるなんですけど、鞄や服にそのにおいがついちゃうんですよ(笑)。でも、そういうところも醍醐味(だいごみ)なんです。

初めて訪れた瞬間から、その不思議な魅力に取りつかれてしまって、もう「自分は昭和ラブホの文化を発信するために生まれてきたんだ!」とさえ思っています。

北海道から沖縄まで、まだまだ回れていない昭和ラブホがたくさんあるので、これは全国行かねば、と。

――基本的にひとりで行くそうですが、そこでは何を......?

ゆなな ほぼ、写真や動画を撮るだけで時間が過ぎてしまいます。あとはホテルのオーナーさんとお話をします。ほとんどが高齢のオーナーさんで、私がお会いした中で最高齢の方は当時88歳でした。

ご両親からホテルを受け継いだ方や、もともと不動産経営をされていた方が跡地を買い取って経営されている場合もあります。ただ、このご時世、営業が厳しいホテルも多数あって......。

それでも、「売り上げよりも、お客さんに楽しんでほしい!」というモチベーションで頑張っていらっしゃるオーナーさんが多いので、応援したくなっちゃうんです。

――本書には、ひと月に3軒の昭和ラブホが閉業してしまうこともある、と界隈(かいわい)の窮状についても触れていますね。

ゆなな 「行きたい!」と思ったらすぐにでも行かないと、明日にはお目当ての昭和ラブホがなくなってしまう世知辛さがあります。

ただ、中にはコスプレイヤーさん向けに撮影プランを用意するなど、工夫している昭和ラブホもあったりするんですよ。わざわざ撮影スタジオを借りることを考えたら格安ですし、それでいて内装も豪華だったりするので。

撮影した写真をインスタグラムに投稿して、それを見た人が同じ場所に訪れる......という宣伝効果もあります。撮影には最適だし、フードメニューが充実している昭和ラブホもあるので、女子会をやるにも絶好だと思います。

――女性が楽しむイメージは湧くのですが、男性はどう楽しむのがオススメですか?

ゆなな 男性はビジネスホテル代わりに昭和ラブホを活用されるのはどうでしょう? 終電を逃したり出張で地方を訪れたりしたときに、昭和ラブホを利用している男性の話も聞きます。

仕事終わりにビジネスホテルに泊まるのって、仕事と地続きの感覚が拭えなくてなかなか休まらなそうじゃないですか。一方で昭和ラブホに泊まれば非日常に浸れますし、場所によってはお風呂も大きい上に映画も見放題。

おいしいごはんを提供する昭和ラブホもありますし、ビジネスホテルより安く済むことも多いですよ。まあ会社の経費として落ちるかどうかは微妙なところですが......(笑)。

――では、初めて昭和ラブホへ行くときの心得は?

ゆなな 昭和ラブホの中には、駅からかなり遠い場所にあるものや、山奥の僻地(へきち)にポツンとあるものも多いんです。そういうところだと近くにコンビニや飲食店がないので、フードメニューが充実していない場合は前もって食事を済ませておくか持参することをオススメします。

あとは宿泊をする際に、シャンプーや洗顔料なども用意したほうが無難です。アメニティが置いてあっても、使い回しの固形せっけんだけ......なんてこともあるので。潔癖性の方には、ちょっとだけ厳しいかもしれないですね。

私もこれまでの経験から、普段使っているアメニティをまとめた必需品セットを常備するようにしています。

――平成生まれのゆななさんにとって、そこまで昭和ラブホが刺さる理由は?

ゆなな 昭和ラブホには、逆に"新しさ"があると思うんです。それを感じたくて通い続けているんだと思います。

正直言って、昭和ラブホの華美な外装や内装を見ていると「だから、何?」って思っちゃうんです。ラブホテルに行ってする行為なんて決まっているのに、関係のない設備がたくさんあるじゃないですか。

私が行った中には、スペースシャトル形のベッドとか、回転しながら上昇するベッドがあったり、ウオータスライダーがついたバスタブとか、真下からのぞける透明のバスタブとかもあったり。ちょっと自由度が高すぎますよね(笑)。

「いったいなんのために?」と思ってしまうような無駄な設備がバカバカしくて、いとおしくてたまらなくなるんです。

イマドキの平成や令和のおしゃれでシンプルなホテルと比べて、昭和ラブホには無駄な余白がある気がします。今なら、コストカットのために真っ先にそぎ落とす部分なのに、わざわざお金をかけて演出している。

中にはイタリアから職人を呼んで、ホテル全体に36億円もの総工費をかけたり、ひと部屋に4000万円かけて建てられたホテルもあります。今じゃ考えられない金額ですよね。

ちなみに多くのラブホテルは、当時5年くらいで元が取れたそうで、そんな時代だからこそ生み出せた美しさなんでしょうね。

コストをかけて、ホテル名を入れたオリジナルのマッチやライターを作るのも、昭和ラブホならではの文化です。すべてが古いのに、どこか新しい。その新鮮さがたまらないんです。

●ゆなな
昭和ラブホの魅力に取りつかれた、平成生まれの"昭和ラブホテル"愛好家。内装などの写真や動画を投稿するXのフォロワー数は4万人以上、Instagramにも約1万人のフォロワーがいる。ほぼ単身で北海道から沖縄まで日本全国の昭和ラブホを巡り、メディアでの記事執筆、ラジオ出演などを通じてその魅力を発信中。これまで訪ねた昭和ラブホは100軒以上。運転免許は持っているがペーパードライバーであるため、駅から遠いラブホテルへは数時間かけて歩くこともしばしば

■『回転ベッドを追いかけて』
ゆなな hayaoki books 2530円(税込)
昭和ラブホ愛好家・ゆなな氏による初の著書。全国の昭和ラブホを4年間、渡り歩いて収めてきた500点以上の写真が、160ページ全編カラーで楽しめる。地域別のオススメ昭和ラブホや、初めて昭和ラブホを訪れるときの心得、さらには回転ベッドの生みの親で伝説のラブホテルデザイナー・亜美伊新(あみい・しん)氏へのインタビューも。ちなみに、ゆなな氏によると名前に「ニュー」と入っているラブホテルは雰囲気がいい場合が多いとか

『回転ベッドを追いかけて』(hayaoki books)
『回転ベッドを追いかけて』(hayaoki books)

取材・文/北村 有 撮影/鈴木大喜

「中にはイタリアから職人を呼んで、ホテル全体に36億円もかけて建てられた昭和ラブホもあるんです。そんな時代だったからこそ生み出せた美しさなんでしょうね」と話すゆなな氏