多くの企業では、12月29日から翌年1月3日までを年末年始休暇と定めています。旅行や帰省などで長めに休みたい場合、年末年始休暇の前後に有給休暇を取得する人は多いのではないでしょうか。

 ところで、有給休暇の申請時に、勤務先から人員不足や繁忙期などを理由に取得を断られるケースがあるようです。企業が従業員の有給休暇の取得を断った場合、法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

労働基準法違反の可能性

Q.そもそも、企業が従業員の有給休暇の取得を断った場合、法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。それとも、理由があれば取得を断っても問題ないのでしょうか。

佐藤さん「企業は、労働基準法のルールに従い、従業員に対して有給休暇を与える義務を負っています(労働基準法39条)。そのため、従業員からの有給休暇の申請を拒否することはできず、拒否した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります(同法119条)。

原則として、有給休暇は、従業員が請求する時季に与えなければなりませんが、請求された時季に有給休暇を与えると事業の正常な運営を妨げる場合は、他の日時に取得してもらうことができます(同法39条5項)。ただし、有給休暇の取得自体を断れるのではなく、あくまで、時季を変更できる場合があるということです。

判例上、『事業の正常な運営を妨げる場合』とは、単に『人員不足で仕事が回らない』というだけでは足りないと考えられています(最高裁1987年7月10日判決)。『事業の正常な運営を妨げる場合』に当たるかどうかは、企業側が、人員配置を工夫したり、代替要員を確保したりするなど、従業員が希望する日時に有給休暇を取得できるよう、配慮を尽くしたかどうかという点も考慮されます。

上司などが有給休暇の取得を妨げるような言動をすると、従業員の有給休暇取得の権利を違法に侵害したものと判断され、発言した上司およびその使用者である企業が損害賠償責任を負うケースもあります」

Q.退職時に残っている有給休暇を使い切ろうとしたところ、断られるケースがあります。この場合、有給休暇の消化を企業側に求めることは可能なのでしょうか。

佐藤さん「有給休暇の消化を企業側に求めることはできます。先述のように、有給休暇の取得は労働者の権利であり、企業はそれを拒むことができません。

ただし、退職の申し出をしてすぐに有給休暇を消化しようとすると、企業としては、引き継ぎが行われず、業務上困ることもあるでしょう。労働者としても、有給休暇消化中に、引き継ぎのための連絡が来て、落ち着かない状況になることも考えられます。

そこで、退職の意思が固まったら、早めに企業にその旨を伝え、引き継ぎなどを済ませてから有給休暇を消化して退職できるよう、スケジュールを調整することが大切です」

Q.正当な理由があるにもかかわらず、企業側がなかなか有給休暇の取得を認めてくれない場合、どのように対処するのが望ましいのでしょうか。

佐藤さん「有給休暇の取得は、労働者の権利であるため、取得に当たって『正当な理由』は必要なく、企業に取得理由を伝える必要もありません。

企業側がなかなか有給休暇の取得を認めてくれない場合、上司が労働基準法を理解していないだけという可能性もあります。勤務先に相談できる部署があるのであれば、まずはそこに相談してみるのもよいでしょう。

企業側に相談しても解決しないのであれば、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。労働基準監督署は、立ち入り調査などを行い、労働基準法違反の状態が確認できた場合には、企業に対して指導などをしてくれます。企業が、労働基準監督署からの指導などにも従わない場合には、弁護士に相談し、法的解決を目指す方法があります」

Q.有給休暇の取得に関する事例、判例について、教えてください。

佐藤さん「進学塾で働く従業員が、3日間のリフレッシュ休暇の取得直後の時期に有給休暇も取得しようと申請したところ、上司が『リフレッシュ休暇を取る上に、有給を取るのでは、非常に心証が悪いと思う』『こんなに休んで仕事が回るなら、会社にとって必要ない人間じゃないのかと、必ず上はそう言うよ』などと発言し、従業員が有給休暇にしようとしていた日に、もともと上司が担当する予定だった業務を割り当てた事案があります。

裁判所は、上司が過去にも有給申請を撤回させたことがあることなども踏まえ、上司の発言について『違法性の程度は極めて高い』と判断し、上司と会社に対して慰謝料の支払い義務を認めています」

オトナンサー編集部

企業が従業員の有給休暇の取得を拒否した場合、法的責任を問われる?