カタールW杯直前、右膝のリハビリに取り組む板倉

サッカー選手にとって、避けて通れないのがケガの危険性。去年のW杯直前に靱帯を部分断裂、今年は足首の手術という修羅場を乗り越えてきた板倉だからこそ語れる、対処の仕方とは――。

【写真】サッカー日本代表 板倉滉、ケガの真相とは

■左足首の手術、その真相を語る

アスリートという職業は、常にケガのリスクがつきまとう。僕の場合は、去年のW杯直前での右膝内側・側副靱帯の部分断裂、そして今年の秋は左足首の慢性的なケガにより、手術を受けた。

悪化を恐れすぎて、積極的なパフォーマンスをためらうのは良くないが、多少の故障なんて大丈夫だろうと思って我慢し続けることはもっとひどい。ケガとの向き合い方について、僕なりの考えをまとめようと思う。

まず、今回の左足首のケガについて。手術に踏み切ったのは、左足首のくるぶし内側の骨が剥がれかかっていたので、それを切開して除去するためだった。スポーツをする人ならば「関節にある〝ねずみ〟を取ることになってしまった」という話を聞いたこともあるだろう。

関節の中で小さな骨片が遊離して動き回ることから〝関節ねずみ〟と呼ばれる。僕の剥がれかかった骨は、普通の〝ねずみ〟よりもやや大きく、1~2cm程度の大きさだった。これが慢性的な痛みを発して、周辺の部位にも炎症を起こしていた。

実は、今シーズンの開幕あたりから痛みはうっすらと感じていた。ただ、不思議なもので試合中はアドレナリンが出まくっているせいか、さほど気にならなかった。練習中、たまに軽い痛みを感じる程度。

所属クラブのボルシアMGからは、ありがたいことに主力としての活躍を期待してもらっていたり、開幕からしばらくはチームの成績が悪かったりで、休めるような状況ではなかった。

こうやって、クラブでは我慢しながらプレーを続け、日本代表でも9月9日ドイツ戦は無事乗り切ったものの、10月17日チュニジア戦では痛みがついにピークへ。

9月12日トルコ戦や10月13日カナダ戦は大事を取って欠場したけど、チュニジア戦は局所麻酔を打って出場することを決意した。

ウォームアップ前にまずは1本。試合前に2本目を打った。打つたびに痛みが消えた。効力は1時間弱。いいコンディションとは言い難いが、自分なりに最善を尽くせた。

ハーフタイムには3本目の麻酔も打った。でも、悔しいことに痛みは徐々にぶり返してくるもの。後半15分過ぎ、3本目もまったく効果がなくなり、万事休す。

後半24分に2点目が入ったところで、タイミングを見計らって森保(一)監督の元へ。「すみません。限界です」。後半27分、僕はベンチに下がった。

試合後、ドイツとんぼ返りした僕は早朝からボルシアMGのクラブハウスへ向かった。ドクターの部屋には、監督や強化部の人たちがそろっていた。

協議の末、まずは薬を打って、様子を見ることに。効果が出てくるのは2、3日後、そのタイミングを見計らって、軽くランニングをしてみたけど、痛みは消えていなかった。そこで、手術以外に選択の余地がないことを悟り、踏み切ることにした。

意外かもしれないが、足首にメスを入れることの不安はまったく生まれなかった。なぜなら、去年の大ケガのほうがよっぽどタチが悪かったから。

「あのときに比べれば、今回はそれほどでもない」と思えていたのだ。昨年のケガはキツかったけど、それを乗り越えた経験は今の僕を確実に強くしてくれた。

代表期間中、足首のケアを入念にしていた僕を見て、かなり心配してくれた周りの選手も、そこまで深刻ではない〝ねずみ〟だとわかると「どう、今日は足首チューチュー鳴いてないの?」といじってくる始末(笑)。だから、応援してくれている方々も安心して待っていてほしい。

■日本人はみんな我慢強い......?

手術はドイツ国内で無事に終わり、リハビリも順調、完全復活まではあと一歩。やはり、こうやって回復していく自分を見ていて、我慢のしすぎはかえって良くないものだと痛感させられた。

海外の人は日本人を非常に忍耐強いとイメージしているようで、たまに「コウ、おまえなら大丈夫。サムライスピリッツがあるだろ」と言われることもある(笑)。

確かに、我慢強いのは間違いないけれど、もちろん限界はある。ケガを通じて、自分のキャパシティは自分がしっかり把握する必要性を感じた。

大事な大会があって、それに出ないと今後の立場がなくなる......。そんな窮地に立たされることは、どんな年代の選手でもありえる。

僕も小学校時代から幾度となく、こうした試練にぶつかった。忍耐力に自信があったせいか、強行して試合に出たことも一度や二度ではない。出るのか、休むのか、非常に判断が難しいけれども、やっぱり今となっては、大事を取ることが最良の選択だと考えている。

事実、僕は左足首に問題を抱えていたせいで、それをかばうためにほかの部位にも負担がかかり、手術前は走り方がおかしくなっていた。これがやがて何を引き起こすのか。例えば、膝にダメージが蓄積して、大ケガにつながる可能性だってある。そんなことになれば、元も子もない

だから、僕は今回のケガでの長期欠場は、次につながるいい休養だと解釈している。この期間でほかの部位まで回復させて、万全な体に戻れば、今より良いパフォーマンスを発揮できることは確信している。くれぐれも無理はせず、ケガを経て強くなる。それが今の僕のケガとの付き合い方だ。


板倉滉プロフィール
板倉滉(Ko ITAKURA) 
1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。日本代表CB。川崎Fでプロ入り、2019年に1シーズン在籍したベガルタ仙台からイングランド1部マンチェスター・Cへ移籍。その後、オランダ1部フローニンゲンドイツ2部シャルケへと移り、現在はドイツ1部のボルシアMGに在籍。現在は戦列復帰に向けてリハビリ中。

構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸

サッカー日本代表 板倉滉、ケガの真相とは