大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー歌広場淳による連載が、約2年ぶりに再開する。連載タイトルも「歌広場淳フルコンボGO!!!」に変更して生まれ変わった再開第1回は、活動自粛期間をどんな心境で過ごし、格闘ゲームにはどのように向き合ってきたのか、そして『ストリートファイター6』の登場による格闘ゲームシーンの変化をどう受け止めているのかなど、存分に語ってもらった。(編集部)

参考:【写真】ついに連載再開! 歌広場淳の別カット

■「甘えてはいけない」を心がけた

 2021年以来の連載ということで、最近のゲーム事情からお話したいと思います。ざっくり2つに分けることができて、それは6月2日より前か、それ以降か。そう、7年ぶりの「ストリートファイター」シリーズ新作『ストリートファイター6』が出た日ですね。

 6月2日以降は現在に至るまでずっと、『スト6』を一生懸命プレイしています。2022年の12月にゴールデンボンバーとしての活動に復帰させていただいて以来、ライブイベントに出演したり、メンバーや事務所の方々と日々接したりできるようになりました。ただ、ゴールデンボンバーとしての活動と同時に、やっぱりゲーマーとしての歌広場も鈍らせてはいけないんだと、自粛期間にもすごく感じていたんです。6月2日以降、少しずつ表立ってゲームをするという気持ちになっていったのは、そういう理由でした。

 自粛期間はMildomでの配信もストップして、外にも出ないような1年を過ごしていたんですが、そのときにマネージャーからもらった言葉が印象的でした。「復帰したらゲームが下手になってるっていうのは、やめてくださいね。ゲームを一生懸命やれというわけでも、遊んでていいというわけでもないですよ」と。つまり、「ゲームが下手になってたら話にならないよ」ということですね。これには「たしかに」という気持ちになりました。

 とはいえ、当時はゲームをオンラインでプレイすることはほぼありませんでした。ゲームを触ることはあってもオフライン。基礎練習をずっとやっていました。6月2日以前だと、2022年に出た「THE KING OF FIGHTERS」シリーズの最新作『THE KING OF FIGHTERS XV』をプレイしていました。以前お世話になったSNKさんから「ぜひプレイしてください!」と言ってくださったんです。

 直接の連絡先を知っている方はゲーム関連の方が多かったんですが、連絡をいただいても「ここに甘えてはいけない」という気持ちもありました。

 みなさんとまた一緒になにかやれるようになるためには、復帰してから新しい歌広場の姿を見せなくてはいけない。だから、まずはライブツアーを頑張るという気持ちでした。でも、いろいろな方々がすごく気にかけてくださっているというのは感じていました。当時は「自粛を頑張る」という感覚でしたね。

 その1年間があったことは、いまの自分にダイレクトにつながっています。いろいろなことを考えたし、マネージャーたちとはそれまで話してこなかったこともたくさん話しましたね。それまでのようにはいかないんだから、“新しい歌広場”をどうしていくか、と。そのなかで、こうやってリアルサウンドさんをはじめ、いろいろな媒体の方々に会う機会が少しずつ増えていることは、とてもうれしく思います。

 少し話は戻りますが、まずゴールデンボンバーの活動に復帰させていただくことが第一だったので、そのために必要なことをメンバーたちとも話したんです。「大変かもしれないけど、もしまたステージにいられたら、それってすごいことだよね」と……。少しずつ、そこを目指して頑張っていました。今年のツアーもとても素晴らしいものになって、「これこれ!」という気持ちにもなりました。

 もちろん、ファンの方々の反応はそれぞれ、いろいろありますが、支えになったのは「3人より4人がいいよ」と言ってくださった方がいたこと。あらためて頑張ろうと思いました。

■「おじリーグ」参加で感じた成長と社会とのつながり

 今年のツアーは8月まで続いたのですが、その途中の6月に『スト6』が出ました。それまではゲームに関することをSNSなどで積極的に発信することはセーブしていたんですけども、僕が『スト6』をやっていないというのは、逆に不自然すぎるだろうと思いまして、オンラインでのプレイを始めたり、そのなかでマスターランク(※1)まで行ったりしたことを報告したんです。そういうなかで「Mildomで配信していた頃に戻ったみたいで懐かしい」と言ってくださる方がいらっしゃいました。

※1 ゲーム内ランクマッチの最上位ランク。11月からさらに上位のレジェンドランクが追加された。

 すぐにはできないと思っていましたが、いずれゲームを通してコミュニケーションを取っていくような場所を、配信やイベントなどで作っていけたらと考えていました。そして、最近はそうしたことができるようになってきて、先日も渋谷でeスポーツのイベントに出演させていただき、配信も新たにTwitchで始めさせていただきました。やりたいと思っていたことができるようになり、とてもうれしいです。

 ゲームに関して以前のような状態を取り戻すひとつのきっかけとなったのが、「おじリーグ」ですね。格闘ゲーム業界に関わる裏方のおじさんたちが集まって開催される、いまのeスポーツの流れと逆行するような(笑)、煽り合いもアリの昔のゲームセンターのような雰囲気の大会です。

 復帰してからわりと早い段階の今年5月、「おじリーグ」に参加させていただいて、そのときに主催のこく兄さんから「もう関係ねえから、逃げんなよ」と言われたんです。本当にありがたかったですね。こく兄さんはやっぱりすごい人。「おじリーグ」のときは「こいつを呼んだらおもしろいことになる」と思ってくれたんだと思います。

 実際に大会に出てみると、僕なんて“腫れ物”のように扱われて当然だと思っていたんですが、みんな体当たりしてくるような感じだったんです。結果的に僕は2位になったんですが、「あ、こいつやってんな」という雰囲気になったんです。「やってたんだな。じゃ、つえーわ」と言われたときに、「ただいま」という言葉を思わず口にしていました。あのときのことは、すごく覚えています。それに、おじリーグにはなないくん(※2)がいて、彼とそこで会えていたんです。出ないという選択肢もあったなかで、「やっぱり出る」と決めておいてよかったなと思いました。

※2 eスポーツキャスター。心不全のため8月9日に逝去した。

 そのときに僕が弱かったり負けたりしていたら話にならなかったですし、どうしようもなかったんですが、自粛中の練習が活きました。おじリーグは、試合の内容がすごく良かったんです。僕はそれまで「怖くて攻めてしまう」という特徴があり、それゆえに勝利が安定しなかったんですが、今年のおじリーグはどっしりと待つことができました。これはつまり、強くなっているということなんですね。

 どっしりと待てるということは、相手が怖くないということ。相手が怖いから、なにかされる前になんとかしようとするんですが、そうしたプレイは当然、隙も生みます。どっしり待って、最終的に立っているのが僕、という状況にできていました。もしゲームプレイに自分自身が反映できているとするならば、僕は少し強くなったのかもしれない。これは、周囲から言われて気づいたことです。

 いまは「このままじゃダメだ」と思ったときに、うまく割り切ったプレイができるようになったんです。それまでの僕は、普通にやっても勝てない相手に対して、自分の持っている引き出しのなかでなんとか戦おうとしていましたが、前回のおじリーグはそれまでと違う戦いを見せることができましたし、それによって勝利を拾ったシーンがたくさんありました。

 おじリーグではゲーマーたちに会って成長を実感すると同時に「やっぱり社会にコミットしないとダメだ!」とも思いました。おじリーグに出て、本当に良かったと思っています。

■ストリーマーという考え方が格闘ゲームに生まれた2023年

 おじリーグ以外でも、ゲーマーのみなさんから『スト6』について「リリースされたらやろう」と言っていただいたり……。僕にとって、未来のことを考えるのはつらく、粛々と1日を過ごしていたんですが、ゲーマーたちとはどうしても未来の話をしたくなってしまうんです。「『スト6』どうだろう」「『スト6』が出たら絶対やろう」「こんな技があるらしいよ」とか、なにかあるたびに連絡が来ていました。

 2022年8月には、『Evolution Championship SeriesEVO)』という大会があり、知っている人たちがたくさん出ていて、すごく勇気をもらったんです。それまでは時差の問題もあって、興味のあるジャンル、つまりストリートファイターしか見なかったんですが、『EVO2022』では「日本人プレイヤーの試合を全部見よう」という気持ちになって、すごくたくさん観戦しました。知っている人たちが勝ったり負けたり、喜んだり悔しがったりしているのを見て、自分のことのように感じていたんです。そして今年の「EVO」には『スト6』があって、すごく盛り上がっていましたよね。ますます「いつか行きたい」という気持ちになりました。

 今年は本当に『スト6』が盛り上がっていて、CRカップやREJECT FIGHT NIGHTなど、それまで格闘ゲームをやっていなかったストリーマーやVTuberの方々や、FPSなど他ジャンルのプロゲーマーの方々が参加していました。そうした方々がいると、こんなにもすごく盛り上がるのかと思いましたね。

 他ジャンルだとプロシーンで活躍する選手とストリーマーは役割が分かれていることがほとんどですが、格闘ゲームはプロゲーマーがストリーマーの役割も担っているんです。競技シーンで戦いながら、ゲームの魅力を分かりやすくライトなユーザーにも広めていく。両立することのようにも見えて、実際には難しさもあるということは、僕もなんとなく思っていたんです。そんななか、『スト6』では格闘ゲーム自体が初めてというプレイヤーたちにスポットが当たった、めちゃくちゃ熱狂的な大会が開催されて、すごい視聴者数の配信にもなっていました。“ストリーマー”という考え方が格闘ゲームに生まれたんだと、すごくワクワクしましたね。

 だからこそ、ウメハラさんは『スト6』のプロリーグであるSFLストリートファイターリーグ)に参加しないという決断をしたんでしょうね。プロの競技シーンで戦うことと、多くの人に魅力を伝えることのどちらかを取るとなったとき、『スト6』1年目は後者を取ったということなのかなと思いました。

 もちろん、格闘ゲームの配信がこんなに盛り上がるとは、誰も予想はできなかったんじゃないでしょうか。なんだか『ONE PIECE』みたいですよね。グランドラインを目指して海賊がたくさん来ているような。『スト6』が出てからは毎日が本当に楽しいですね。

 大会の影響もあって、大手のストリーマーさんが『スト6』で何万人も集めているのはめちゃくちゃすごいことですよ。これまで、格闘ゲームって結果の世界だったんです。でも、過程のおもしろさに格闘ゲーマーが気付かされた。それがCRカップやREJECT FIGHT NIGHTだったんだと思います。

 「一生懸命やっても、ダメなやつはダメ」というのが、それまでの格闘ゲームのシビアな世界だったんですが、カジュアルな大会では「一生懸命やったやつが(結果はさておき)優勝!」みたいな雰囲気が生まれました。格闘ゲーム界にはなかった考え方ですし、それってすごいことだと思うんですよね。

カプコンは「こうなったらいいのにな」を本当にやってくれる

 ここまで『スト6』が盛り上がるとは、誰も予想していませんでした。ただ、昨年末にβテストがあって、「すごいぞ」ということは格闘ゲーマーみんなが感じていたことだと思います。YouTubeやSNSでの反響を見ていても、「来年はすごいことになるぞ」と。だからこそ、僕も「早くみんなと一緒にやりたいな」とあらためて思ったところでもありましたね。実際の盛り上がりは、予想以上のものになっていましたが……。

 『スト6』では、「モダンタイプ」の導入も大きなトピックでした。僕が過去に言ってきたことのひとつに「実力に差があるふたりが戦うためには情けが必要だ」ということがあります。必要なのは愛情なり友情なりであり、どちらも「情け」という言葉がつくから、こう言ってきました。でも、それって“強者の言い分”なんです。挑戦者側は、そんなことは別に考えていないですから。そこにモダンタイプが現れた。格闘ゲームの新しい姿なんだと思います。

 モダンタイプを使えば、格闘ゲーム本来の醍醐味、読み合いのおもしろさのところまで、すぐ行けるんです。これってめちゃくちゃいいことですよね。お箸を使えなくても、スプーンとフォークとナイフでちゃんと食べれたらいい、みたいな。そういう時代なんでしょうね。プロ選手もモダンタイプを普通に使いますし、現代において難しい練習は流行らないのかもしれません。

 もちろんモダンタイプに対して批判的な声があることも知っています。たとえば、「広告」が“良い”か“悪い”かは、それ自体で測ることは難しくても、結果的にユーザーが増えたなら「良い広告」と言えますよね。モダンタイプの場合はシステムですが、その新システムはユーザー数を明らかに増やしています。その目的を達成しているんだから、「良いシステム」と言っていいんじゃないでしょうか。

 CRカップではウメハラさんが劇的な優勝を果たして、初心者のプレイヤーもおもしろい試合を見せてくれました。すごく豊かなゲーム体験だったと思うんです。『スト6』の豊かさが垣間見えたし、これからもっと見えてくるんじゃないでしょうか。『EVO2023』では、配信された試合で盲目のプレイヤーが目の見えるプレイヤーに勝つこともありました。これを可能にしたサウンドアクセシビリティというのは、それまででは考えられなかったことですし、カプコンはどこまで先を行っているんだろうと思いました。

 「こうなったらいいのにな」というのを、本当にやってくれるという安心感があるんです。「ここまでやってくれる会社の作るものなんだから、絶対にいいものだ」という信頼と言いますか……。とにかく、このタイミングで『スト6』をプレイすることができて、感謝してもし切れないくらいですね。

 それに、これからも『スト6』にはいろいろな可能性があると思います。この前、リアルサウンドさんで初めて対談して以降、仲良くさせてもらっているミートたけし川村竜)さんとリアルイベントを開催したんです。80人くらいのお客さんが集まった会場で、9割は女性だったんですが、『スト6』のトーナメントを開くことができたんですよ。オフラインでだけ使えるダイナミックタイプ(※3)を使用していて、プレイしている女の子たちは、なにが起こっているのかわけが分からないんだけど、ボタンを押したらなにかが起こっている。これって、ゲームの原体験というか、一番根底にあるものですよね。

※3 ボタンを押すとAIが適切な行動を入力してくれる操作タイプ

 80人くらいの女の子が格闘ゲームで対戦しているなんて、ほぼ誰も想像したことがなかったと思うんです。でも、誰かひとりが想像していたかもしれない。そんなことが実現している。だからウメハラさんが「国技館に1万人呼びたい」というのも、すぐではなくても、いつかは実現するんだと思います。そのなかで、僕もプレイヤーとして楽しみながら貢献していきたいですね。プロではないからストリーマーに近いけど、ストリーマーでもないという、自分の立ち位置を最大限に活用していきたいです。

 そのなかで、いま考えていることがひとつあります。実はオフラインイベントに来ていた女の子たちのうち、15人くらいから「スト6を買ってプレイしています」と報告があったんです。格闘ゲーム業界では、誰かのファンのことを「◯◯ガール/ボーイ」のように呼ぶ習慣があり、僕のファンは「歌ガール」と呼ばれているんですが、歌ガールたちが強くなって活躍すると、勝手に僕の株が上がる(笑)。だから、歌ガールたちをより魅力的なプレイヤーにしていきたいと思っているんです。

 もちろん、僕はプロじゃないので、コーチングしたりとかではないですが、僕が一生懸命プレイしたり、楽しそうにしていたり、良い内容の試合をしたりしていたら、それが『スト6』を買った歌ガールたちの心の中に残りますから。そこからプレイヤーとして成長していくことが、想像できるんです。

 いまは2人ほど、可能性を感じる歌ガールがいるんです。「この子、強いんだけど!?」みたいな子がいるので(笑)、「配信してくれないかな」と思っています。もしそのまま強くなって、EVOの本戦に出るまでになったりしたら、もはやひとりの強豪プレイヤーですし、ファンとかは関係なく勝負してみたいですよね。

 イベントに来る女の子たちはさまざまな職業、さまざまな年齢で……イベント後にはご飯を作って、明日の朝には子どもを送っていくみたいな人もいるんですよ。昔は、「どうしたら女の子に格闘ゲームをプレイしてもらえるんだろう」と考えていたと思うんですが、こういう形でプレイヤーを増やすのは、僕だからこそできることでもあります。

 これまでは握手会やトークイベントだったところに、僕にはゲームイベントという新しい軸ができたということは、本当にうれしいですね。今後もオフラインイベントは継続していきたいと思っていますし、来年以降もゴールデンボンバーの活動と並行する形で、僕を支えてくれる方々とのコミュニケーションの場を作っていきたいと思っています!

(文・取材=片村光博/写真=西村満)

歌広場淳、変化した“格ゲーへの向き合い方”