為替市場は例年、12月のFOMCが終わると投資家たちが長期休暇(クリスマス休暇)に突入し、相場は薄商いとなるのが基本でした。しかし今年は、「日銀金融政策決定会合が終わるまで予断を許さない状況」だと、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏はいいます。いったいなぜか、足元の円高進行の理由と、日銀会合後の米ドル/円の動きについて、吉田氏が解説します。

12月19日~25日の「FX投資戦略」ポイント

〈ポイント〉

・先週の米ドル/円は前週の反動から反発する場面もあったが、上値が限られるなかで、FOMCの「ハト派サプライズ」により米金利が大きく低下したことから一時140円台まで急落

・米ドル下落が広がるなかで、大量に膨らんだ米ドル買いポジションの損失懸念が拡大、その処分売りが米ドルの上値を重くさせ、米ドルの下落拡大にも影響している可能性

・今週の米ドル/円は140~144円で予想する

先週の振り返り…「FOMCショック」で141円割れ

先週の米ドル/円は、注目されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の後から下落が再燃し、一時141円割れとなりました(図表1参照)。FOMCが予想外の「ハト派」姿勢を示し、米金利が大幅に低下したことに連れた面が大きかったでしょう。

そんな米ドル急落再燃の前に、前週の急落からの反発を試す局面もありましたが、それは結果的には146円半ばで一巡しました。

146円半ばという水準は、米ドル/円の過去半年平均値である120日MA(移動平均線)と一致するので、米ドル買いにとっては重要な損益分岐点の可能性がありました(図表2参照)。そんな重要な分岐点を割れたことが、前週一気に141円台まで米ドル一段安になった本質的なきっかけでした。

一方で、先週の米ドル反発局面でも結局120日MAを大きく越えられずに終わったのは、米ドル買いポジションの利益回復が限られるとの判断から、同ポジションの処分売りが強まった影響が大きかったのでしょう。

これまでみてきたように、最近の米ドル/円の取引は、損益分岐点による影響が大きくなっている可能性があります。それは、投資家たちが米ドル買い・円売りポジションを大量に抱え、損益に過敏になっているということがあるのではないでしょうか。

ヘッジファンドなどの取引を反映しているとされるCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジション(対米ドル)は一時2017年以来約6年ぶりの高水準に達しました(図表3参照)。

ただ、日米金利差はそんな2017年を大きく上回る拡大となっており、そういった意味では実際の米ドル買い・円売りポジションは、CFTC統計が示す以上に拡大している可能性もあります。そうであれば、そんな米ドル買いの損益分岐点の影響が大きくなっていることも腑に落ちるところではないでしょうか。

FOMCで起きた「ハト派」サプライズ

こういったなかで、13日に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)は予想外の「ハト派」姿勢を示しました。

このFOMCでは、事前にはむしろ金利市場の行き過ぎた緩和期待をけん制する「タカ派」の可能性が高いと見られていました。ところが、結果的には2024年中に0.25%×3回の利下げといった具合に、これまでより利下げ回数を増やす、いわゆる「ハト派」サプライズの結果となったのでした。

これを受けて米金利が大きく低下したことから、米ドル下落も再燃し、一時は前週の米ドル安値を更新し、141円割れとなりました(図表4参照)。

このような米ドル/円の「FOMCショック」をもたらしたのは、FOMCの「ハト派サプライズ」とともに、すでに見てきたように大量の米ドル買いポジションが利益回復の可能性が低下したことにより、処分売り拡大に動いた影響も大きかったでしょう。

米金利低下に伴う日米金利差米ドル優位の縮小を受けた米ドル買いポジションを処分する動きは、この先も米ドルの上値を重くするなどの影響が注目されそうです(図表5参照)。

今週の注目点…年内最後の注目イベント、日銀会合

例年、年内の米ドル/円など為替相場の値動きは、12月FOMCで一巡し、その後は実質的にクリスマス休暇入りで市場参加者も減ることから、薄商いの小動きが基本でした。

ところが、そんな為替相場の静寂を破る結果となったのが昨年のことでした。2022年12月20日の日銀会合で、10年債利回りの上限拡大といった「サプライズ」により、米ドル/円は137円からその日のうちに130円まで急落となったのでした。

さて、そんな「日銀ショック」から1年後となる日銀の金融政策決定会合が19日に予定されています。

昨年の記憶もあることから、少なくともこの日までは為替相場もクリスマス休暇入りを控え、予断を許さない状況が続きそうです。では、2年連続の「日銀ショック」はあるのでしょうか。

一時、植田総裁の「年末年始はチャレンジング」と言った発言が飛び出したタイミングで円金利と円相場の急騰が起こったことから、マイナス金利解除をふくめた大規模な金融緩和見直しを、前倒しで行うとの見方も浮上しました。

ただ、これまでの日銀の説明では、大規模な金融緩和の見直しの大前提は、脱デフレと継続的な賃上げとされていたので、それをあえて変更、前倒しすることはないでしょう。

今回の会合でありうるのは、そういった金融緩和の見直しと切り離し、YCC(イールドカーブ・コントロール)政策の中の10年債利回り上限を、米金利低下をチャンスとして捉えて撤廃することではないでしょうか(図表6参照)。

では、そんなYCC撤廃もふくめ、日銀会合で政策変更がなかった場合、それは失望の円売りになるでしょうか。

継続的な円売りになるのは、円金利の低下により、日米金利差米ドル優位が拡大することが基本です。ただし、米金利の影響を強く受ける円金利は、独自の低下余地にはおのずと限度があるでしょう。

以上のように見ると、日銀会合で円金利上昇をもたらす「サプライズ」とならなくても、その反動の円売りは限られるのではないでしょうか。

そして実際に米ドル高・円安への戻りが限られた場合は、なお大量に残っている可能性のある米ドル買いポジションの処分売りの影響に注目が集まります。

以上を踏まえると、今週の米ドル/円は引き続き反発が限られる可能性から、140~144円中心での展開を想定したいと思います。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタントマネックス・ユニバーシティFX学長

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