老後の生活のベースになる公的年金。一方で「いくらもらえるか」は、老後が見え始めている50代でもきちんと把握していないという事実があります。将来を見据えて準備するためにも、ある程度の金額は把握しておきたいものですが、その金額を知ったとき、高給取りのサラリーマンほど「えっ⁉」と声を挙げてしまうかもしれません。みていきましょう。

老後が見えてきた50代でも「将来の年金額がいくらくらいか、分かりません」が6割

――将来、いくらの年金をもらうことができるのか?

多くの人にとって大きな関心ごとではありますが、実際の支給額がどれほどか、意外と知らない人は多いようです。

Ueda Keisho Corp.が50代の男女2,000人に対して行ったアンケート調査で、「自分が将来、受け取る公的年金のおよその金額を把握していますか」と尋ねたところ、把握している人は42%。半数以上が「把握していない」と回答しています。「定年」や「老後」という言葉が身近に感じられるようになる50代ですらこの状況ですから、自身の将来の年金額を知らなくても、珍しいことではありません。

公的年金は国民年金(老齢基礎年金)と、厚生年金(老齢厚生年金)の2つ。国民年金の受給額は、40年間の保険料納付(=満額)で、79万5,000円(令和5年度)。

厚生年金は「報酬比例年金額+経過的加算+加給年金額」で求めることができ、大部分が「報酬比例年金額」を占めます。これは厚生年金の加入時期ごとに、①②の式を合わせた額によって求めることができます。

①平成15(2003)年3月以前

平均標準報酬月額×7.5/1,000×平成15年3月以前の加入月数

②平成15(2003)年4月以後

平均標準報酬額×5.769/1,000×平成15年4月以後の加入月数

「平均標準報酬月額」は平均月収、「平均標準報酬額」は賞与(ボーナスなど)を含めた平均月収で計算します。

これらを求めるには、基本給など月の報酬すべてを合計した金額である「報酬月額」から、「標準報酬月額」と「等級」を確認し、「平均標準報酬月額」と「平均標準報酬額」の平均値を合計して「報酬比例年金額」を算出します。

何とも難しい話ですが、もっと簡単に年金の見込額が分かるのが「ねんきん定期便」。毎年1回、誕生月(1日生まれの人は前月)に届くもので、50歳未満であればこれまでの加入実績に基づく見込額、50~60歳は現在の状況が続いたらと仮定した場合の見込額が記されています。また35歳、45歳、59歳の節目年齢では、全加入履歴と全期間の年金加入記録が記載された封書が届きます。

いまは簡単に年金の見込額を知ることはできるので、年に1度くらいは将来のためにも確認しておきたいものです。

エリート部長と、万年係長…「圧倒的給与差」も年金額はほぼ同じの衝撃

――「ねんきん定期便」なんて、まじまじと見たこともなかったけど……衝撃だった

そんな言葉は、高収入サラリーマンほど思わず口にしてしまうかもしれません。たとえば、大卒で大企業の部長にまで上り詰めたエリートサラリーマン。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、定年前、59歳時の年収は平均1,326万円です。一方、同期で係長の年収は957万円。その差は400万円近くにもなっています。

会社では圧倒的に差がついてしまっているエリート街道を上り詰めた部長と、万年係長と揶揄される2人。しかし、どちらも「標準報酬月額」は32等級の月額65万円。標準報酬は32等級が上限で、どんなに年収が高かろうが、この2人は同じ年金額になる可能性が高いというわけです。

――えっ、おれがあいつ(万年係長)と同じ年金額⁉ 何かの間違いじゃないの?

そう思う気持ちも分かりますが、日本の年金制度は積立制度ではないので、これが現実。実際の年金額は、サラリーマン時代の全体の給与額に関係するので、1年の給与だけで年金額が同額になるか分かりませんが、現役時代の給与差ほど、年金受給額には差は生じないということです。

理論上、厚生年金の最高額は年間337万円ほど。そこに国民年金を合わせると426万円ほどになります。どんなに現役時代に「1億円プレイヤーでした」とブイブイ言わせていた人でも、年金は400万円強がマックスだということになります。

そして高収入の人ほど気をつけたいのが、定年後の収入落差。高所得者の場合、生活水準も他の人より高いケースが多いでしょう。現役時代の生活水準のまま年金に頼る老後を迎えると、老後の収入落差に対応できない場合も。徐々に生活水準を見直し支出を抑えるようにするか、もしくは現役時代の生活水準を保てるほどの資産を築くかの二択に迫られます。

50代にして「将来、いくら年金をもらえるか分からない」のままだと、「老後資金が足りない!」という非常事態に陥る可能性も。この機会に改めて、将来の年金額を把握し、しっかりと老後生活について考えてみてはいかがでしょうか。

[参考資料]

Ueda Keisho Corp.『年金受給に関するアンケート調査』

日本年金機構『は行 報酬比例部分』

厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』

(※写真はイメージです/PIXTA)