中部のヌセイラトの自宅が爆撃され、脚を負傷した3歳のアフマドちゃん。合併症を引き起こしナセル病院へ移送されたが、医薬品が十分になく、脚を切断することとなった。(ガザ地区、2023年12月6日撮影) (C) UNICEF_UNI488692_Zaqout

【2023年12月15日 東エルサレム発】

ガザ地区を訪れたユニセフ(国連児童基金)のジェームズ・エルダー広報官が、戦争が子どもや家族にもたらした惨状を以下のように報告しています。また、報告に続いて、ユニセフによるガザの最新情勢レポートをお届けします。

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つい最近、ユニセフ広報官としての任務のために訪れていたガザ地区から戻りました。ガザの子どもたちが直面している壊滅的な状況は、いかなる想像も上回るものでした。私はこれまで20年間、ユニセフのスタッフとして、飢饉や洪水の被災地域から、戦闘地域、難民キャンプに至るまで、人道的危機に直面している場所を次から次へと訪れてきましたが、ガザで起きているような荒廃と絶望を目の当たりにしたことはありません。

ガザにおける激しい攻撃、大勢の子どもの犠牲者、すでに何もかも失くして退避する人々の絶望とパニックは明らかでした。人道的惨禍に人道的惨禍が重なっているようなものなのです。

南部のラファにある自宅が空爆を受け、泣きながら避難する女の子。(ガザ地区、2023年12月6日撮影) (C) UNICEF_UNI488859_El Baba

一時的な戦闘休止がなされた先日、私たちは、エジプトとの国境にあるラファを早朝に出発しました。極めて重要な人道支援物資を積んだユニセフのトラック車列は、支援物資が数週間届いていないガザ市内へ向けて、北へ北へと過酷な道のりをゆっくりと進みました。ラファとガザはわずか35キロしか離れていないのに、戦闘地域では、こうした移動距離がいつも非常に長く感じます。

道中、いくつもの建物や民家が爆撃で倒壊している様子を目にし、ディストピア(暗黒郷)のような光景が何マイルも続きました。

ガザ市で車から降り、がれきと化した建物をよく見てみました。中には血痕が残っていましたが、このコンクリートの塊から引き出された人たちが生き延びたのかどうかは、知る由もありませんでした。

爆撃に遭い廃墟となったアパートから、歩いて出てきた60代の男性のことを、私はこの先も忘れることはできないでしょう。私は最初、彼が「10」と言っているのだと思いました。10人が亡くなったという意味で。しかし、彼はそれを訂正し、棒を使って地面に「30」と書いたのです。亡くなった人の数ではありません。爆撃によって亡くなった彼の家族と親族の数です。

この男性は、家族と親族のすべて、愛する人たち全員を失ったのです。この戦争が始まった時、ユニセフはガザを「子どもたちにとっての墓場、それ以外の人々にとっては生き地獄」と表現しました。爆撃と戦闘が続く中、状況は悪化の一途をたどっています。

爆撃により破壊された自宅の前を走る5歳のモハメドちゃん。(ガザ地区、2023年12月7日撮影) (C) UNICEF_UNI488791_Al-Qattaa

戦闘が再開されたとしても、一時的な戦闘休止前のような惨状が繰り返されることはないだろう、という期待はありました。しかし、何百発、何千発という砲弾の音と、さらに多くの爆発音を耳にして、期待は破られました。そして数時間も経たないうちに、戦闘の人道的休止はあまりにも遠い昔の出来事にさえ思われました。

かつては結束の固いコミュニティだったと言う場所の足元には、ガラスやがれき、鉄骨が砕け散っています。家々の壁は破壊され、ドールハウスのように中身がむき出しになっていました。そして、灰色のがれきの中に、壁のないアパートの3階の部屋のソファーや、爆発の後に唯一残った壁に描かれた絵といった、日常の不気味な名残が浮かび上がっていました。

ある家の子ども部屋には、ピンクの毛布、食器棚、本でいっぱいの棚、ぬいぐるみがありました。世界中のどこにでもある、ごく普通の家庭の女の子の部屋のようでした。ほとんど手つかずのままで残されていました。この家が爆撃に遭った時、他の部屋で家族と一緒に過ごしていなかったならば、この部屋の主である12歳の女の子は無事だったでしょう。

ガザを車で走っている間、物思いにふける時間はあまりありません。支援物資を積んだ車列は前進し続けなければならないのです。

沿道では、どの区域でも同じ課題を繰り返し目のあたりにしました。基本的ニーズが満たされていないのです。人々は、水と、栄養の摂れる食べ物を求めています。病院には薬が必要です。物資を運ぶトラックはそれらすべてを積んでいます。しかし、十分な量ではありません。ユニセフや他の国連機関は懸命に努力をしていますが、届けられている支援物資の量は、到底、十分ではないのです。

ハンユニスの避難所で、家族と生活する5歳のアミルちゃん。北部のベイトラヒアにある自宅に戻れる日を願っている。(ガザ地区、2023年12月6日撮影) (C) UNICEF_UNI488840_El Baba

戦争が始まって数週間たったころにユニセフの同僚の一人が指摘したように、子どもたちの殺傷、拉致、病院や学校への攻撃、人道的アクセスの拒否は、私たち人類が共有する良心に泥を塗るものです。そのことは当時も今も変わりません。

ガザ市からさらに北上し、ジャバリヤへ向かいました。最初に目についたのは、病院やオフィス、学校の外に積まれた腐りかけた生ごみの山でした。もちろん、衛生施設やゴミ収集サービスは完全に機能不全に陥っています。ゴミを集めるトラックを走らせるための燃料がなく、紛争によってこれらの仕事に従事する労働者のほとんどが退避を余儀なくされたからです。私たちが訪れた病院の一つ、アル・アハリ・アラブ病院は人であふれ、騒然とし、まさに混沌としていました。ユニセフのトラックが積んできた医療物資を降ろして運んでいる間中、負傷者が血を流して運ばれてきていました。

やがて、ガザ南部にある、私たちが「連携活動センター」と呼んでいる場所に戻りました。そこは、何十人もの国連職員が集まり、次の任務について話し合う所です。沈痛な雰囲気が覆っていました。私たちは皆、パレスチナの家族が何を必要としているのかわかっているのです。彼らは、医薬品や水、燃料、食料をはじめ、あらゆる物を必要としています。

ラファの避難所にある水道から、タンクに水を汲む男の子。(ガザ地区、2023年12月6日撮影) (C) UNICEF_UNI488874_El Baba

しかし、ガザの子どもたちの真の安全は、人道支援従事者が妨げられることなく、あらゆる場所にいる市民に支援を届けられることを、紛争当事者が保障することにかかっています。私たちユニセフが、水や食料、栄養補助食、燃料、その他の人道支援物資を、ガザ地区に搬入できるかどうか、そして紛争当事者が人道的停戦を速やかに実施できるかどうかにかかっているのです。

これらの条件が満たされない限り、ガザの子どもたちは、空からの攻撃、地上での疾病、そして飢えと渇きによる死の危険に、さらされ続けることになるのです。安全な場所はどこにもありません。

ガザの子どもたちが苦しむのは、もうたくさんです。人道的停戦と平和が今、必要なのです。

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ユニセフパレスチナ情勢レポート No.10

(報告対象期間:2023年12月7日~13日)

要旨

  • ガザの人口の85%近くにあたる最大190万人が避難民となっています。

  • 避難所では、最多で36万件の感染症の症例が報告されています。髄膜炎、黄疸、とびひ(伝染性膿痂疹)、水痘、上気道感染症がWHOによって確認されています。

  • 気温が低く雨の多い天候の中で子どもたちが温かくいられるよう、ユニセフは、子どもたちに冬服支援を提供しています。ユニセフは、ガザの子どもたちのために子ども用の防寒着を調達している唯一の支援機関です。

  • 生活環境と衛生状況の悪化に対応するため、ユニセフは下水処理プラントを稼働させるための燃料を提供し、廃水の処理および安全な廃棄を支援しています。これにより、ラファで暮らす27万5,000人以上(うち子ども14万250人)が恩恵を受けています。

  • ユニセフは、ヘルプラインを通じて、ガザ地区の415人に心理社会的支援を提供しました。

  • ユニセフはパートナーとともに、ガザ地区において、1万1,569人の女の子と265人の障がいのある子どもを含む、1万8,350人の子どもと青少年にレクリエーション活動を提供しました。

  • ユニセフはパートナーとともに、10月7日以来、1万4,994人の子どもと4,532人の養育者に心理社会的支援を提供している。

  • この数週間で、ユニセフのトラック35台がガザに入り、11万人分の水容器、15万人分の医薬品医療キット、3万人分の医療消耗品、7,200人分の衛生キット、2,450人分の栄養不良の子どものための栄養治療食(RUTF)、2,000人分の子ども用防寒着、7,500人分の乳幼児用防寒着、5,000人分の毛布を搬入しました。

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ユニセフ「ガザ人道危機 緊急募金」 ご協力のお願い

ガザの最も支援を必要としている子どもたちとその家族に支援を届けるため、(公財)日本ユニセフ協会は、ユニセフ「ガザ人道危機 緊急募金」を受け付けています。詳しくはこちらをご覧ください。

https://www.unicef.or.jp/kinkyu/gaza/

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ユニセフについて

ユニセフUNICEF国際連合児童基金)は、すべての子どもの権利と健やかな成長を促進するために活動する国連機関です。現在約190の国と地域※で、多くのパートナーと協力し、その理念をさまざまな形で具体的な行動に移しています。特に、最も困難な立場にある子どもたちへの支援に重点を置きながら、世界中のあらゆる場所で、すべての子どもたちのために活動しています。ユニセフの活動資金は、すべて個人や企業・団体からの募金や各国政府からの任意拠出金で支えられています。( www.unicef.org )

ユニセフ国内委員会(ユニセフ協会)が活動する33の国と地域を含みます

日本ユニセフ協会について

公益財団法人 日本ユニセフ協会は、33の先進国・地域にあるユニセフ国内委員会の一つで、日本国内において民間で唯一ユニセフを代表する組織として、ユニセフ活動の広報、募金活動、政策提言(アドボカシー)を担っています。(www.unicef.or.jp)

配信元企業:公益財団法人日本ユニセフ協会

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