創立100周年を迎えたウォルト・ディズニー・カンパニーの記念作となる最新映画「ウィッシュ」が12月15日に劇場公開され、公開から3日間で動員43万人、興行収入6億1200万円を突破し、週末興行収入1位スタートを切った。同作の主人公は、願いがかなう魔法の王国に暮らす少女・アーシャ。幼い頃からディズニー作品を愛してやまない生田絵梨花が初めてディズニーヒロインを務めることや、同じく初ディズニー作品出演で“ディズニー史上最恐のヴィランマグニフィコ王役を福山雅治が担当することも大きな話題を呼んでいるが、こと日本版声優において“ディズニー作品の声と言えば山ちゃん”と言われて久しい山寺宏一ももちろん参加。長年のキャリアを誇る彼にとって初めての役どころとなる“子ヤギ”のバレンティノを演じ、観客を楽しませてくれている。そこで今回は山寺がかつて演じてきたディズニー作品(アニメーション、吹き替え)キャラクターを幅広いエンタメに精通するジャーナリスト・原田和典氏が主観も交えて紹介する。

【写真】かわいいいたずらっ子…!スティッチの声も山寺宏一が担当

■世代を超えて愛される“山ちゃん”とディズニーの関わり

アニメーション、実写吹替問わず引く手あまたの名声優を“ちゃん”呼ばわりするのも実に失礼だとは思うが、ついそう勝手に呼びたくなる軽やかさ、親しみやすさがある山寺。あの声が聞こえてくるだけでうれしさが止まらなくなる、という人たちは、世代を超えて存在するはずだ。歳月を重ねてもなおポップでキャッチー、しかも常に新しいファンを引き込み、一家そろって楽しませてくれる。よく考えてみたら、これはディズニー作品にもそのまま当てはまる。なるほど、両者の相性が抜群に良いのも分かる話ではないか。

たくさんの作品に参加して人々に喜びを与えてきた山寺とディズニーアニメーションの関わりについて語り出すとあまりにも膨大な数に及び、すべてを紹介し終える頃には2023年も終わってしまいそうなので、今回はその一部を簡潔に紹介。あらためて「ああ、これ知ってる」とか「これも山ちゃんだったのか!」など、ワイワイ楽しんでいただければ、こんなにうれしいことはない。

■山寺が担当した主なキャラクターたち(カッコ内の年数は日本公開基準)

●「シンデレラ」(1992年)のジャック

シンデレラを助けるネズミたちのリーダー格。太目でのんびりした“ガス”の兄貴分といったところか。口先を絞ったようなタイトな発声で、リーダーシップや頭の良さを感じさせる発言を行なう。

●「美女と野獣」(1992年)の野獣(王子)

いかにも野蛮な奴だなと思わせておいて、途中でキャラ変。深みのある低音が、かれんな“ベル”の声と快いコントラストを描く。ちなみに実写版の吹替は山寺ではない。

●「アラジン」(1993年)のジーニー

アニメーションの原語版はロビンウィリアムズが声を、実写版(2019年)はウィル・スミスが演じていた。山寺は両作でジーニーの声を担当。アニメーション版で声を入れ、さらにこれまでにいくつものウィル登場作品の吹き替えを担当していた山寺が実写版でも日本語吹き替えにキャスティングされたのは、しごく当然だ。ジーニーは体が伸び縮みするのだが、それにぴったりとあわせた声の抑揚は、まさに山ちゃんの名人芸。

●「ムーラン」(1998年)のムーシュー

中国を舞台とした初のディズニー作品に登場した、赤い竜にして主人公・ムーラン守護霊。とても“根はいい”キャラクターだ。存在感、声、共に「すっとんきょう」の一言に尽きる。

●「リトル・マーメイドII ~RETURN TO THE SEA」(2000年)のセバスチャン

カニの執事で、歌が得意。いまはダミ声だが、若いころはボーイソプラノだったらしい。おせっかいなところもあるけれど、それも主人公・メロディをしっかり世話したいという責任感ゆえのこと。ちなみに「リトル・マーメイド」(1989年)のセバスチャンは山寺ではない。

●「101匹わんちゃんII~パッチのはじめての冒険」(2002年)のサンダーボルト

主人公・パッチが憧れるシェパードの役者犬で、テレビ番組「サンダーボルト・アドベンチャー・アワー」の花形スター。自分大好きなキャラクターでもある。

●「リロ&スティッチ」(2003年)のスティッチ

実在のアメリカ人歌手、エルヴィス・プレスリーのファンであるリロと呼吸を合わせる生物兵器(試作品)。犬のように見えるがそうではない。息が漏れているかのように発声しながら、当然ながら言葉は細部までしっかり聞き取れる。「エイリアンのキャラクターに、どう人間の声を合わせていくか」という命題に向かい合う、声優の姿がある。

●「トレジャー・プラネット」(2003年)のB.E.N.

記憶回路の一部を奪われていたロボット。歯切れ良さと速さの両方を併せ持つ口調で、話の流れを一層引き締める。

●「シュガー・ラッシュ」(2013年)のラルフ 

ヴァネロペ(初のユダヤディズニー・プリンセス)との、いわば凸凹コンビの、凸のほう。縦も横もヴァネロペの数倍もありそうな大柄な体格の持ち主。こもり気味だが、ボリューム豊かな声で存在感を発揮する。

ドナルドダック

ミッキーマウスと並ぶ、言わずと知れたディズニーの大人気キャラクター。少年の頃から動物の鳴き声やモノマネで回りを喜ばせていたという山寺にとって、世界一有名なアヒルであろうドナルドダックを演じることは、とんでもなく感慨深いことだったのではなかろうか。

●「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2014年~)シリーズのピーター・クイル(クリス・プラット)

本作はマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品だが、吹き替えでの山寺の良さがとても発揮されている映画なので、大きなくくりでの“ディズニー作品”として紹介させていただく。ピーター・クイルはエイリアンと地球人を親に持つ、トレジャーハンター。このクイルの活躍と葛藤(加えてちょっと軽薄気味のキャラクター)が、この「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズの肝となる。山寺は、主演のクリス・プラットから「すごくうれしい」と言葉をかけてもらったという。

■100周年記念作「ウィッシュ」でヒロインの相棒に

そんな山ちゃんの最新作となる映画「ウィッシュ」が12月15日に全国公開され、最新の“雄姿ならぬ雄声”が味わえる。ウォルト・ディズニー・カンパニーの、記念すべき創立100周年記念作品であり、まさに「社運をかけて」と表現するにふさわしい一作だ。監督のクリス・バック、脚本のジェニファー・リー、製作のピーター・デル・ヴェッコは「アナと雪の女王」「アナと雪の女王2」にも関わった辣腕。もう一人の監督であるファウン・ヴィーラスンソーンは「アナと雪の女王」の他に「ズートピア」にも携わっている。選ばれし面々といっていい。

主人公の少女・アーシャは、WISH(願い)が叶う魔法の王国に住んでいる。彼女の望みの一つに、「100才になる祖父の願いが叶うこと」がある。だが、いくら願ったところで、その願いが叶うかどうかは謎。というのは、すべての“願い”は王様の気持ち次第だからだ。が、そこからがアーシャの力の見せどころ。これまで数々の歴史を彩ってきたディズニー作品へのオマージュも思いっきり込めながら、夢いっぱい、希望いっぱいのミュージカルの世界へと案内する。

そして山寺は、この「ウィッシュ」の中で、主人公・アーシャの相棒キャラクターである子ヤギのバレンティノを演じた。

演じるにあたって「まず、参加することができて非常にうれしく、光栄に感じています!100周年記念の作品が作られると聞いてから、何とかして参加したいと思っていたんですが、これまであまりにたくさんの作品に参加させていただいているので、もうないかなぁと思っていたんです。ですが、非常に重要な役を頂きまして、本当にそういう意味では“願い”が叶ったという感じでございます!」とコメントを寄せた。題名のウィッシュと“願い”をかけているあたり、さすがだ。

バレンティノは「ギャップがとても魅力的だなと思います」

百戦錬磨の声優は、どんな気持ちで子ヤギのバレンティノを演じたのであろう。「まさに見た目のかわいさと声のギャップですね。生まれてそんなにたっていない子ヤギなので、見た目は本当にかわいいんですが、スターの魔法によって渋い声になっていて、声質だけじゃなくて喋り方も、何かいろいろなことを心得たベテランというか、大御所の風格があるんです。ギャップがとても魅力的だなと思います」と話しているが、しゃべれることに気付いたバレンティノが、深みのある声質をしていることに驚くシーンは、つい吹き出してしまうほど面白い。

ディズニー作品はどうしてこんなに時代を超えて、心に訴えてくるのだろうか。山寺は「ウォルト・ディズニーさんの思いをずーっと、ディズニーに関わる方々が、見事に継承しているからだと思います。ディズニー・アニメーションに関しては圧倒的なクオリティー、それは技術的なことだけじゃなくてストーリーや、思いがとても高く、そして誰が見ても楽しめるという、そういうところじゃないかと思うんです」と語っており、「ウォルト・ディズニーさんは一切の妥協を許さない方だと伺っていますが、関わる方みんながこだわりにこだわって、思いを込めて作っているんじゃないかと感じます。そうでなければこんなに長い間、これだけたくさんの作品で、皆さんに夢を届けたりはできないと思うんですよね」と分析しながら、ディズニー作品の魅力を語った。

映画「ウィッシュ」は、全国公開中。「アラジン」や「リロ&スティッチ」など山寺出演のディズニーアニメーション過去作はディズニープラスで配信されている。

◆文=原田和典

実写もアニメも映画「アラジン」で山寺宏一が日本版声優を務めるジーニー/ディズニープラスで配信中/(C) 2023 Disney