ことしは12月24日(日)のクリスマスイブ開催となった「M-1グランプリ2023」決勝。決勝の行方も気になるが、週プレNEWSでは最後の1枠を狙う敗者復活戦に注目する。

決勝当日の午後3時から生中継で放送される戦いはルールも大きく変化。21組をA、B、Cの3ブロックに分け、会場の500人の観客が審査。ブロックを勝ち上がった3組を石田明(NON STYLE)、柴田英嗣(アンタッチャブル)、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、山内健司(かまいたち)、渡辺隆(錦鯉)の5人の芸人審査員が審査し、無記名投票で多かった1組が決勝の舞台に立つという二段構えの審査方式となった。

これまで人気投票と一部で揶揄されたスマホの国民投票で決めるルールから一変し、ハイブリッドに進化した審査方法となった今回の敗者復活戦。果たしてこの変更がどんな変化を生むのか。このルールで勝ち上がるのは誰なのか。M-1への強すぎる愛から"Mおじ"の愛称で知られ、自身も2017年に敗者復活戦で勝ち上がった「スーパーマラドーナ」武智さんが思いを語った。

【画像】武智さんの敗者復活戦予想

■敗者復活戦のルール変更について

M-1の敗者復活戦は何年かに1回ルールは変わってきているけれど、その時期が来たかと思いましたね。今まではネット投票でどっちかというと知名度があるコンビが有利と言われていましたし、もっと公平にしたいという思いからこのルール変更になったんだろうと率直に思います。

僕自身、知名度あるコンビは強いし、前年、前々年決勝に行っているコンビは票が入りやすいなという感覚はずっとありました。会場のウケと実際に勝ち上がるコンビに大きなズレはないんですけど、やっぱりここ一番で順位が1コ、2コ変わっている。一番ウケているコンビが突破できるわけではないんだなとも感じていて、正当に評価してほしいなという思いもありました。

敗者復活戦は全員のネタを見て投票する人もいれば、このコンビは昨年決勝に出ていたからという理由で投票する人もいるでしょうし、敗者復活戦を見ずにコンビの名前だけで投票する人も結構おると思うんです。実際に敗者復活戦を全部見ている視聴者さんって僕は60~70%くらいじゃないかなと思います。

今回のルール変更は知名度がある人にも相変わらずチャンスはあるし、知名度がないけれど面白い人にもチャンスが出てくるようなシステムだと思います。

3ブロック制にしたのも、すごくいいなと思いましたね。21組全体を見るとなると、最初の方の組のことは忘れちゃいがちです。しかも今回は「THE W」と同じ勝ち残り方式。あのやり方はすごくいいと思っていて、さっきの組より面白かったかどうか一組一組を冷静に判断できる。M-1の決勝ってどうしてもトップが不利なので、勝ち残り方式はM-1の決勝に取り入れてもいいんじゃないかなと思うくらいです。

会場審査員の是非については、このコンビを応援しようと来ている人が複数名選ばれることもあるでしょうし、笑いの好みが人によって違うので、本当にM-1で活躍できそうな面白い人を選んでくれるとは限らない。100%このやり方が間違いないとは言えないですけど、これまでの審査方式よりは全然いいかなと思います。

なんか、ちゃんと戦って負けた感があるじゃないですか? 諦めもつくというか。そういう意味で一組一組にスポットライトが当たるようなシステムですし、そもそもどのルールにしても100%納得いくルールってないと思う。でも、今回ルール改正したことで100%にちょっとは近づけたんじゃないかな。

最終的にブロックの勝ち上がりは芸人が選びますけど、審査員も納得のメンバーだし、やっぱり最後は芸人が選ぶというのはめちゃくちゃいいシステムだなと思いますね。A、B、Cの3ブロックがそれでも人気投票になって人気者が上がったとしても、最後の関門として芸人が冷静に見るので人気だけで上がってきた人は落とされる。そういう意味ではこの二段構えはめちゃくちゃいいですね。

芸人と一般の人の審査の違いですか? 芸人はより"ニュアンス"が強い方を好みます。なんか笑っちゃうとか、玄人がうなるようなボケをしてくるとか、そういうことをされると芸人は弱い。僕らは普段お金を払って見に来てくれているお客さんを笑かせてるわけで、分かりやすくないとお客さんって笑わない。でも芸人って分かりにくくても自分で想像して笑えるんで。そこの差は結構あるなって思いますね。あんまり受けてなかったとしても、ちょっと新しすぎることをやってお客さんがついてこれてなくても、芸人審査員がそこを拾ってくれる可能性はある。そういう意味ではすごくいいシステムだなと思います。

逆にルール変更で有名な芸人、過去にMー1決勝に出たことある芸人が割を食うんじゃないかなと僕は思いますね。「オズワルド」とかは有利な立場ではない。でも、そんなことは本人たちもわかってると思うんで、そこをどうしてくるかがすごい楽しみです。オズワルドもこのまま終わるつもりはないと思ってるでしょうし。

■準決勝で見られた大阪芸人の東京の舞台での苦戦

大阪のM-1予選会場は吉本興業の芸人がほぼ牛耳っている感じなんですが、東京っていろんな事務所あるじゃないですか。そこにいろんな芸人がいて、それぞれにファンの方がいらっしゃってる。だから会場も結構ごちゃ混ぜな感じだと思うんです。なので、いつも思うんですけど、東京の方がひいきが少ないなと感じますね。

大阪の方が結構、閉鎖的やなというのはあります。なので東京、大阪の違いというよりは知名度の違いで笑いの量は変わってくるかもしれない。ただ敗者復活戦の会場に集まるのは「M-1サポーターズクラブ」の人たち。基本、コアなお笑いファンの人たちなので、もはや知名度も関係ないかもしれないです。

大阪の芸人が東京で思ったほどウケないという流れは敗者復活戦でも起こり得ると思いますが、それは芸人側が対策をちゃんとしないといけない。大阪ではすでにキャラがわかってもらっていて、そいつが舞台に出てきてしゃべるだけで笑いが起こる、ウケすぎちゃっている場合がある。でも、それって東京のお客さんからしたら知らない話じゃないですか?

キャラとかじゃなく、ネタの中身で、内容で沸かせているコンビ「ヘンダーソン」とか「バッテリィズ」はちゃんと東京の準決勝でもウケていた。逆に大阪でキャラで受けすぎちゃっていたコンビは準決勝で結構えらい目みただろうなって。

■M-1で感じる"配信問題"

準決勝全体としてはお客さんの空気がちょっと重たいなと思いましたね。ぶっちゃけ言ったら、準々決勝の配信も会場のお客さんは買って見たんやろなっていう。ほとんどの芸人が準々決勝でやったネタを準決勝でやってたんで、1回見てんねんやろうなっていう空気はビンビン感じました。

ダンビラムーチョ」と「モグライダー」は歌ネタだったので、権利の関係で配信でもほとんどネタがカットされてるんですよね。あれもちょっと不公平かなと思いますよね。配信で見てない人が会場で見たらそれはあのネタは絶対ウケます。決勝も前の250人くらいのお客さんはM-1サポーターズの皆さんなんで、配信でカットされてる「ダンビラムーチョ」と「モグライダー」のネタはおそらく見れてない。そうなってくると他の組と比べて、ウケの量もちょっと変わってくるのかなって正直思っちゃいますね。だから歌ネタ問題は意外と根深いなと思っています。

■準決勝と敗者復活戦でネタは変えるべきか

一度配信で見られているネタの話をしましたが、準決勝と敗者復活戦でネタを変えるべきかというと、有利、不利の両方あると思います。

例えば、今年、決勝ファイナリストに選ばれている「令和ロマン」と「ダンビラムーチョ」は2022年の敗者復活戦では準決勝とネタを変えてきた。

去年の「ダンビラムーチョ」の歌ネタはたぶん受かる気はなくて、面白くて変なやつがおるという爪痕を残しに行って、それが見事にハマったというパターン。「令和ロマン」はドラえもんのネタやったんですけど、国民投票ということで分かりやすいネタを選んで、それは見事的中して国民投票で2位になった。

なので今回敗者復活に臨む人たちが準々決勝、準決勝でやっていない、まだお客さんが見てないネタをやった方がいいのかどうかっていうのは、もし今年の準々決勝、準決勝でやったネタより受けるネタがあるなら絶対そっちの方がネタバレもしないしいいと思いますけれど、変にネタを変えてウケ、面白さが下がるんやったら僕このそのまま行った方がいいんじゃないかなと思います。

会場に集まった「M-1サポーターズ」の方々を笑かすというのが一番の焦点です。わかりやすく言ったら会場いっぱいのコアなお笑いファンを突き刺して、最後、芸人審査員の関門も突き刺せるようなネタが僕は一番いいと思いますね。

去年の令和ロマンドラえもんのようなわかりやすいネタをやって仮にウケたとしても、次の芸人審査員のところで「ドラえもんか」ってなるじゃないですか? だから目の前のお客さんを笑かす、爆笑させるのは当然として、その先の芸人審査もちゃんと見とかなあかんと。今回のルール変更で本当にサンドウィッチマン、トレンディエンジェル以来の敗者復活枠からの優勝というのがグッと近づいたのかなと思いますね。本物を選んでくると思うんで。

ただひとつ懸念があるとすると敗者復活戦も全国放送ということで決勝戦を観覧しに行くお客さんたちはTVerとかで見るわけで、敗者復活戦でやったネタをやったらウケが下がる。そこだけは準決勝で1回やっぱり負けてるわけだから、ハンディはある。

僕らは2017年に敗者復活戦から決勝にいったときにネタを変えましたけど、変えんかったらよかったなってちょっと思った部分もあったんで。難しいですね。でも僕は観覧のお客さんは敗者復活戦でのネタを見てはるんやろなと思ったんで変えたんですけど。たらればですけど、どっちが良かったかわかんないですね。

2001年から2010年までのMー1の敗者復活戦はスカパーで放送やってたんで、ほとんどの人はネタを見てなかったんです。決勝を観覧するお客さんもネタを見てなかったんで、だからよかったんですよ。でも今は敗者復活戦は全国放送されるようになってます。ただ準決勝で1回負けてるんですから、一本ネタを損するぐらいのハンディはもちろんあっていいし、そこを乗り越えて優勝したらすごいなと思いますね。

<敗者復活戦予想>

本命:シシガシラ(吉本興業

本命は「シシガシラ」にしました。「シシガシラ」はこれまで何度も準々決勝でウケたのに落ちてきたコンビなんですよ。だから準々決勝でめっちゃウケたネタが何本もある。敗者復活戦で1個ネタを消費するぐらいアイツらからしたら屁でもないというか。まだ、めっちゃウケるネタを今年のM-1ではやってないと聞いているんで、その辺も押し出してくるんやったら「シシガシラ」が本命かなと思います。

お客さんの投票を越えて芸人審査になったら「シシガシラ」が強いですね。芸人の評価がすごく高いんですよ。「シシガシラ」ってただのハゲネタじゃないんです。見たことのない設定のハゲネタだったり、この角度からくるというハゲネタであったり、ただしゃべくり漫才がうまい人がたまたまハゲてただけなんです。ハゲを使って面白くしているんじゃなくて、もともと面白い人らがハゲてる。

対抗:フースーヤ吉本興業

対抗は「フースーヤ」。今回の準決勝の序盤の組は特に重かったんですが、その中でも「フースーヤ」は決勝行くかなと思ったんです。けど審査員の方も彼らを決勝に出す勇気がもう一歩でなかったのかもしんないですね。「フースーヤ」自体はちゃんとネタも受けていて、本人たちも決勝に出るつもり満々やったと思います。僕は「フースーヤ」についてはウケの量とかネタのクオリティでは決勝に行っててもおかしくない、行ってなおかしいぐらいに思ったんで。

お客さんも同じで「なんで決勝じゃないんねん」と思ってる人が多いと思うんですよ。だから応援ムードになるんじゃないかなと読んでます。準決勝から決勝メンバーが出るまでの会場レポでも、「フースーヤ」は誰でも予想に入れてたんじゃというくらいウケてたんで。だから納得いってないM-1サポーターズの方もたくさんいらっしゃるんじゃないかなって。お客さんを味方につけれてるなと思います。

フースーヤ」がやっていることは一昨年くらいから変わってないんですけど、やっとお客さんが慣れてきたっていう感じです。大阪では一昨年の準々決勝でめっちゃ受けてたんだけれど落とされて。でも、そこで東京にも名が轟いた。「フースーヤ」について一発屋というイメージが強い人も多いと思うんですけど、ちゃんとネタも面白いんやって一昨年ころからなって。去年は3回戦で落ちたんですけど、今年はまた準々決勝に上がってきて、東京にも大阪にも「フースーヤ」のやってるお笑いの見方、笑い方がわかってきたっていうふうになったのかなと思います。

逆に「フースーヤ」は今年、決勝に行っとかないけない。彼らは見慣れられちゃうとしんどくなっちゃうんで。ここで行っとかんと、チャンスはそう何回も来ないやろうなと思います。

大穴:ヘンダーソン(吉本興業

大穴は「ヘンダーソン」。大阪の面々が東京の準決勝に苦戦している中で、「フースーヤ」と「ヘンダーソン」だけはなんでか受け入れられてるんですよね。東京のお客さんにお披露目がちゃんとできているのか、じわじわと東京で人気が出てきてるのか、それとも「ヘンダーソン」はラストイヤーなんで応援してる人が多いのか、理由は何かわかんないんですけど、準決勝で面白いようにウケてたんで。これは敗者復活戦でも変わらないだろうなと思います。

プラスして「シシガシラ」もですが、「ヘンダーソン」も芸人が選びたくなるタイプです。センスがある人にも面白く見えるし、センスがない人でもわかるという。面白いのに見やすい、わかりやすいのが「ヘンダーソン」の一番の武器かな。どこで回収してくれるんやろうって見ている側をわくわくさせてくれるはずです。

<注目コンビ>

ほかに注目してほしい組は大阪の「バッテリィズ」と東京の「スタミナパン」、あと「トム・ブラウン」ですね。

注目コンビ①:トム・ブラウンケイダッシュステージ

トム・ブラウン」のネタは涙流しました。何をやってるんだ、こいつらはって(笑)。リズム芸なんですよ。でも何回見ても意味がわからないただおもろいんですよ。ほんまに。

トム・ブラウン」と僕らは2018年に一緒に戦ってるんですよ。そこから5年たってますけど、よく準決勝まで戻って来れたなと。お客さんもあの時とはガラッと入れ替わっている。「あんたら『有吉の壁』も出ているし、お金ももらっているでしょ。M-1でなくてもいいでしょ」という冷たい空気の中であそこまで持って行けるのはすごいと思います。「トム・ブラウン」が3組に残ったら芸人は選ぶんじゃないですかね。破壊力はすごい。

注目コンビ②:バッテリィズ(吉本興業

「バッテリィズ」は、身近にあって実は誰も気がつかなかった部分、頭悪いアホな方が正論を突っ込みぶちかましてくるっていう。新しいところを見っけたな、面白い子らが出てきたなと思いましたね。あれが全国ネットで放送されるわけですから、ぜひ注目してみていただきたい。

注目コンビ③:スタミナパン(SMA)

スタミナパン」は本当に一番笑っちゃいましたね。なんていうバカバカしいネタだって腹を抱えました。でも、ちゃんと緻密に計算されていて、メインのワードがちゃんと最後に効いてくるあたり、まぐれできたんじゃないという。聞いたら前年まで1回戦落ち、2回戦落ちだったのが、いきなり準決勝に来るっていうのは余程のことがあるんだろうなと思ってたら、やっぱりよっぽどのネタだったんで。バカバカしさは「トム・ブラウン」にも負けないですね。でも「トム・ブラウン」よりは笑いやすくてマイルドなんで。そこら辺がスタミナパンの強みかなと思いました。

準々決勝から準決勝でまたネタ変えてきてたんですけど、その変えた部分がめちゃくちゃ受けてたんで。なので敗者復活戦でもう一回変えてくるかもしれない。まだ「スタミナパン」は決勝を諦めてないだろうなと思います。「スタミナパン」はこんだけの経験を今までしたことがないでしょう。芸歴も長いでしょうし、ここが勝負所って思ってるんじゃないですか。「そう簡単には負けへんよ」っていう。

敗者復活の周りを見たら結構食えてる芸人が多いじゃないですか? 敗者復活戦の中で一番給料低いんじゃないですかね。だからハングリー精神が一番あると思う。たぶん借金とかもあると思うし、ほかのぬくぬくした、飯が食えている芸人とはわけが違う。敗者復活戦で爪痕を残せば人生変わりますから。それは命懸けですよ。

最後にMー1全体としては一番面白い人に優勝してほしいなって思いますね。審査員にもテコ入れがあって、敗者復活にもテコ入れがあって、ますます盛り上がってるので、ちゃんと一番面白い人に優勝してほしいなって。今年も思うのはそれだけです。すごいエゴを出すと、自分が面白いと思った人に優勝してほしいですね。

あとはさっきも話しましたけどネタバレの件はM-1戦士、みんなが苦しんでいるところです。以前は配信もなければ、YouTubeに載せることもなかったんで、強いネタが1本あれば勝負できてたんだけど、今はそこで全M-1戦士が泣いてますからね。

以前より強いネタの数がないと難しくなっているから結局10年以上15年未満の芸人が強くなっちゃうじゃないですか。ネタの作り方がやっとわかってくるのがその頃なので。10年未満の子が活躍できないM-1というのは配信も関係しているのかなと思いますし、ネタバレしない方法ってないのかなってめっちゃ思います。

【スーパーマラドーナ武智】
NSC大阪校22期生2003年12月に田中一彦と「スーパーマラドーナ」を結成。M-1グランプリにはコンビで過去4度決勝に進出。「M-1グランプリ」への熱狂的愛から「Mおじ」と呼ばれる。現在、結成20周年記念の全国ツアー「なんとか、ここまで来れました」を実施。
2/18(日)福岡、2/24(土)大阪、3/1(金)愛媛、3/9(土)東京。詳しくはFANYチケットホームページまで。

取材・文/徳重龍徳

「スーパーマラドーナ」武智さんがM-1について語る