アメリカ軍V-22オスプレイ」が日本で墜落し、その直後、生産終了の話が報じられて話題になりました。「不具合や事故が多いため」とも言われていますが、生産終了の理由は実際のところ、至極まっとうなものです。

「オスプレイ」生産終了は必要数を満たしたため

2023年12月9日沖縄県のあるマスメディアが、2026年までにアメリカ軍のティルトローター機であるV-22オスプレイ」の生産が終了すると報じました。

そもそも、この2週間ほど前、11月29日鹿児島県屋久島沖で、アメリカ空軍所属のCV-22(V-22の特殊作戦仕様機)が墜落事故を起こしていたことから、インターネットのSNSなどでは両者を結び付けて、墜落事故を起こしたから生産終了に至ったとする書き込みなども見受けられました。

冒頭に記したマスメディアの報道でも、機体の不具合や事故の多発などにより海外における調達が伸び悩んだことが生産終了を決定づけた要因の1つとしていたことから、それもまた関連付けられる一因になったのかもしれません。

しかし、V-22オスプレイ」の生産終了は本当にそれが原因なのでしょうか。実際のところはどうも違うようです。

まず、V-22の生産終了は、すでに2022年の段階でアメリカの軍事専門誌やメディアにおいてその可能性が報道されていました。理由は、アメリカ軍が予定していたV-22の調達数が満たされるためです。もともと、アメリカ軍の装備調達計画では、V-22シリーズは、海兵隊仕様のMV-22が360機、空軍仕様のCV-22が56機、海軍仕様のCMV-22が48機、トータルで464機の調達が計画されていました。

これらは現段階ですべて発注済みです。ただ、これから生産する機体もあるため、生産ラインが実際に閉じられるのは2026年ということになります。

ただし、生産ラインが閉じられるといっても、V-22の運用自体は2050年代まで継続されます。そのため、生産ラインを閉じることと併せて、今後の整備や能力向上改修などに必要な部品などを生産し、保管するための取り組みも行われることとなります。

海外への輸出が伸び悩んだ要因

またV-22オスプレイ」は、もともと海外への輸出を進めることにより、その単価を低減することが可能と考えられてきましたが、実際には日本の陸上自衛隊が17機を導入しただけで不振に終わりました。

では、こちらの理由は、日本で報じられているように「事故や不具合の多発」に起因するのでしょうか。その関連性は極めて低いと、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

そもそもV-22の最大の特徴は、ヘリコプターと固定翼機の両方の特性を併せ持つことにより、限られた発着スペースしかない洋上の艦艇などからでも運用が可能でありながら、長大な距離を飛行し、飛行場以外の場所にも着陸できるという点です。しかし、実際そのようなニーズは極めて特異なものです。

通常であれば、長距離の移動はたくさんの兵員や物資を輸送できる固定翼の飛行機を使えば済みますし、飛行場以外の場所には、近くの拠点からヘリコプターを使えば降り立つことができます。

結局、V-22が持つ最大の特徴は、艦艇などを使って海外に展開する能力が極めて高く、実際にその頻度も高いアメリカ軍においてのみ、最大限活かされるということになるのです。

V-22は、ローターの角度を傾けることでヘリコプターと固定翼機の特徴を併せ持つ「ティルトローター機」という特殊な機構ゆえに、通常の航空機と比較して維持や整備にコストを要する、との指摘もあります。それを踏まえると、アメリカ以外の国がV-22を十分に運用できるかといえば、実際には困難だったという事情もあるでしょう。

日本では、陸上自衛隊をはじめ民間企業などもアメリカに準じた体制が採れたため、滞りなく運用できているようですが、維持整備が大変という声は聞こえます。ということは、日本ほど航空機運用のノウハウがなく、アメリカを頼れない国ではV-22オスプレイ」を運用するのは厳しいといえそうです。

すでに新たなティルトローター機がスタンバイ済み

とはいえ、V-22と同様のティルトローター機としては、初の民間機となるAW609がイタリアの大手航空機メーカー、レオナルドの手で量産目前の段階に迫っています。

また、汎用ヘリコプターUH-60ブラックホーク」の後継として開発されたV-280「ヴァロー」がアメリカ陸軍に採用されるなど、V-22の跡を継ぐ機体も登場してきています。

こうして見てみると、V-22オスプレイ」の生産こそ終了するものの、ティルトローター機の新造は終わらず、より広まろうとしていることがわかるでしょう。やはりティルトローター機が持つ、長大な滑走路を必要とせず、それでいて飛行機同様の高速飛行が可能というメリットは、VIP輸送や救助・救難用途としては魅力的なようです

とうぜん、その流れの中で改良・発展は続くでしょうし、高性能かつ安全なニューモデルが生まれることは間違いありません。

今後はV-22でなくとも、より各種ニーズに即した合致したティルトローター機が世界の空を飛び回るようになると筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は捉えています。

アメリカ海兵隊向けのMV-22「オスプレイ」(画像:アメリカ海軍)。