2024年1月から「新NISA」が始動することもあり、投資への関心が高まっています。投資対象として特に有望視されているのは「米国株式」ですが、JPモルガン・アセット・マネジメントでファンドマネージャーを務めた中山大輔氏は、懐疑的な見方を示しています。なぜでしょうか。中山氏の著書『日本株で30年 好成績を上げたファンドマネージャーが明かす逆転の思考法』(PHP研究所)から、一部抜粋してお伝えします。

この先、アメリカでは景気が低迷しても「金融緩和」ができない

過去30年くらいにわたって、米国株式の好調が続いてきました。しかし、米国株式の展望については、今後もこれまでのような上昇トレンドを続けることができるかどうかは、慎重に検討すべきで、特に「米国一強、一択」の考えには懐疑的にならざるを得ません。

なぜなら、その上昇トレンドを支えてきた要因が大きく変化しているからです。

一般的に、景気が悪化すると、「利下げ」をはじめとする「金融緩和」が行われます。それによって世の中にお金がたくさん回るようになるため、その一部が株式市場に流れ込み、株価が上昇します。いわゆる「不景気の株高」と呼ばれる現象です。

米国においては、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けて経済活動が停滞し、世界で一斉に未曾有の財政出動が発動された2020年、2021年が、まさにその状況でした。

実際、ニューヨーク・ダウは2020年3月23日に、コロナショックによって1万8,591ドルまで急落した後、2022年1月3日には3万6,585ドルという過去最高値を更新しました。

ちなみに、2022年はこの最高値後に一旦大きく下落した後に反発し、2023年12月1日時点で過去最高値に近いところまで戻してきていますが、大きなトレンドが生じているとはいえない状況です。

しかし、問題は米国経済がこの先、本格的な景気低迷局面に入った時にどうなるのかということです。

前述したように、景気が悪化すると金融緩和政策が行われるため、本来であれば株式市場に資金が向かいやすくなるはずですが、今回はそうなるかどうか、わかりません。

地政学リスクや根深いインフレ懸念など複雑な要因が絡み合って、安易に緩和の姿勢に転じることはできないでしょう。

新型コロナウイルス感染拡大による景気悪化を避けるため、米国では家計や企業を支援する目的で、莫大な額の財政出動が行われました。総額で600兆円超ともいわれています。

これに加えて、FRB(連邦準備制度理事会:中央銀行)による大幅な金融緩和も実施されました。

そこにウクライナ侵略が絡み、米中対立問題も深刻化しました。こうした地政学リスクの高まりによって、米国は今、「サプライチェーン」の大幅な見直しを求められています。

中国からの「デフレ輸入」の終焉

サプライチェーンとは、原材料の調達から製造、物流、販売までの、商品が消費者の手に届くまでの流れを指しています。

これまでは製造コストの安い国・地域で製品を作るため、たとえば中国に製造拠点を設ける米国企業がたくさんありました。アップルのiPhoneなどは、まさにその典型で、製造は基本的に中国です。

ところが、その中国と米国間の経済摩擦によって、米中関係は非常に悪化しています。そのうえ台湾問題もあり、下手をすれば軍事的な小競り合いがいつ生じてもおかしくない状況にあります。

そのような状況下で、いつまでも中国を「世界の工場」として頼り続けるわけにはいきません。

そのため、中国の製造拠点を、他の国・地域に移転させる動きが徐々に出始めていますが、何しろこれまで多額の投資を行って開発した製造拠点だけに、そうやすやすと他の国・地域に移転させるわけにもいきません。

というわけで、いずれ製造拠点を中国以外の国・地域に移転させるにしても、一気に、ドラスティックに移転させることはできません。

このように過渡期にある今、サプライチェーンの問題は深刻で、米国経済がインフレに襲われている最中でも、より製造コストの安い国・地域での製造が自由に行えず、しかもこれまで世界の工場として機能し続けてきた中国でも、労働コストが大幅に上昇しており、製品価格を安く抑えるのが極めて困難になってきているのです。

過去30年近くに及ぶ長さで続いてきた強い米国経済は、中国を世界の工場として、そこから安い製品を世界中に輸出して成り立ってきました。

しかし、ここまで説明してきたように、米国が、労働力など中国の潤沢でコストの低い経営資源を用いて成長するというビジネスモデルは、徐々に通用しなくなりつつあります。

そのうえ、パンデミックによる経済活動の低迷を避けるため、大規模な財政出動と大幅な金融緩和が重なってしまいました。このような状況下で、今後、景気が悪化したからという理由で金融を緩和すれば、瞬く間に物価は上昇傾向をたどり、インフレが昂進するリスクが高まります。

景気が低迷した時に、その対策として行われる財政出動、ならびに金融緩和のいずれも、インフレに阻まれてしまったのです。

金融緩和ができなければ、景気はいつまで経っても回復せず、株式市場にとってもネガティブな要因でしかありません。

中山 大輔

元JPモルガン・アセット・マネジメント ファンドマネジャー

(※写真はイメージです/PIXTA)