親が元気なうちにはなかなかしづらいのが、「お墓」や「葬式」に関する話。しかし、生きているうちに知って備えることで、かかる費用や時間を節約することができます。『老後の心配はおやめなさい』の著者で、経済ジャーナリストの荻原博子氏が、最近増えている「墓じまい」や「永代供養」、「生前葬」について、わかりやすく解説します。

「墓地管理料」の滞納で、お墓が撤去されてしまう可能性も

親が上京して、お墓は遠く離れた田舎にあるという方は意外と多いようです。

ところが親の代では、田舎に親戚や顔見知りも多いですが、子供の代になると、どんな親戚がいるのかわからないというケースはままあること。

そうなると困るのは、「お墓」です。田舎に、先祖代々のお墓があっても、あまりに遠ければお墓参りをするのも難しい。中には、みんな都会に出て来てしまっていて、お墓を守る人がいなくなってしまったというようなことも起きています。

墓がある人は、墓地管理料を支払いますが、これを何年も滞納すると「無縁墓」ということで、最悪の場合にはお墓そのものが撤去されてしまう可能性があります。

2018年2月に中日新聞が行ったアンケートでは、公営墓地を持つ全国の政令指定都市県庁所在地など計73の自治体のうち、「無縁墓」を抱えている自治体は約7割にのぼるとのこと。全国には、放置されたままのお墓が多いということです。

これをどうすればよいのか、親が法事や墓参りに行った折などに聞いておいた方がよいのです。墓地管理料を自分で支払うことにするのか、あるいは「墓じまい」をするのか、考えておくのです。

管理が難しい場合は、早い段階で「墓じまい」をするという手も

墓があまりに遠いというのでは、親にもしものことがあった時に困りますし、自分たちも死後に家族を戸惑わせることになります。

そういう人は、早い段階で「墓じまい」、つまり、お墓の「改葬」をしておいたほうがいいでしょう。

「墓じまい」をするには、墓地埋葬法に基づいて行政手続きをしなくてはなりません。遺骨の移転先の受け入れ証明書と、墓の改葬許可申請書、埋葬証明書を、現在の墓を管轄している自治体に提出し、改葬許可を得ます。墓石の撤去や整地は、一般的に1平方メートル10万円程度からといわれています。

お墓を移す先が決まったら、古い墓の魂を抜く供養をしてお布施を払います。墓が菩提寺にある場合は、檀家を離れるための「離檀料」が必要となります。離檀料の相場は3〜10万円程度。新しく移った先にも、納骨料などを支払います。

「墓じまい」は、やったことがない人がほとんどなので、手続きで戸惑うことも多くあります。自分でやるのが大変なら、20万円から40万円で一律料金で代行してくれる業者もいます。ネットなどで、実績のある業者を選ぶといいでしょう。

霊園や寺院が、遺族の代わりに遺骨の管理と供養をしてくれる「永代供養」

最近は、「永代供養」といって、様々な理由でお墓参りにいけない遺族に代わって、霊園や寺院が遺骨を管理して供養してくれるという埋葬方法もあります。

「永代供養」では、「永代供養墓」の中の区画をそれぞれの家が利用したり、他の遺骨と一緒に埋葬したり、一定期間安置してから他の遺骨と一緒に埋葬する方法があります。「永代供養墓」は、契約時に費用を支払えば、その後はお金がかかりません。

自分の死後に子供達に個別のお墓まいりをしてほしいというなら、「永代供養料」に「墓石料」を支払って、個別のお墓に本骨(のど仏)を納骨し、他の骨は共同の納骨堂に納めてもらうといった方法もあります。

千の風になって」の歌のように、遺骨の灰を海や空に撒いてほしいという人も増えています。

刑法第190条では、「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する」とありますが、法務省は「葬送のための祭祀で節度を持って行われる限り、問題はない」という見解を示しています。

自由度の高い「生前葬」という選択肢も…最近の「葬式」事情

お墓も大事ですが、お葬式も大事です。

親も、かなり高齢になると、そうしたことが気になるようです。

私の父は、生前に、自分の葬式に呼ぶ人の一覧表をつくり、葬儀委員長まで自分で指名してから逝きました。

「遺影」も生前に自分で一番気に入ったものを選び、95歳で旅立ちました。

私の父のように、自分の葬式を自分の思いどおりにやって、多くの人に惜しまれながら人生の最後を綺麗に締めくくって逝きたいという人は、他にもいらっしゃるのではないかと思います。

「誰を呼びたいか」は、親の生前に確認しておきたい

「どんな葬式にしたい」などと、いきなりこうした話を切り出すのもおかしいので、本人に聞くのははばかられると思うかもしれません。

ただ、親が葬式のことを口にしたら、せめて誰を呼びたいのかくらいは、聞いておいたほうがいいでしょう。

親戚の方の葬儀や、両親が親しかった方の葬儀にいっしょに出かけた折にでも、それとなく聞いてみるといいかもしれません。

また、お盆などに家に帰り、先祖の墓参りをした時にでも、それとなく「葬式って、みんな、どこまで人を呼んでいるのかな」などと、親と話してみるのもいいのではないでしょうか。

葬式については、どこまで人を呼ばなくてはいけないといった決まりはありません。最近は、内輪だけでひっそりと葬儀を済ますというケースも少なくありません。

ですが、親、子、孫、兄弟姉妹など、二親等内の血縁親族については、声をかけておいたほうが、あとでいろいろと言われることを避けられます。

葬式は、故人のために行うものと思いがちですが、実際には、残された遺族のために行うという側面も少なくありません。

残された遺族の悲しみを和らげ、故人とのお別れをして手を合わせ、成仏を心から祈る。最後に火葬場で、遺骨となった故人を骨壼に納めることで、心の整理ができるという人も多いのではないでしょうか。

また、葬式は、故人が生前に付き合っていた仕事仲間や友人、知人などに、他界したことを広く知らせる儀式でもあります。ですから、最後にお別れを言いたい人を呼ぶべきで、故人のリストになくても、来たいという人はすべて来ていただくのがいいでしょう。

家族だけでひっそりと済ませる時も、故人と親しかった人には、電話でいいので連絡だけはしましょう。訃報の連絡は、基本的には葬式が終わってからで大丈夫です。

その際、家族葬だったので呼べなかったこと、故人が生前にとても良くしてもらって感謝していたこと、折を見て線香をあげに来てほしいということも伝えましょう。

手紙で事後報告する場合には、「拝啓」などの言葉や時候の挨拶などは使わず、「益々」や「次々」といった重ね言葉は、不幸を繰り返す、不幸を重ねると言われるので避けましょう。また、「苦しむ」「浮かばれぬ」などの忌み言葉も避けましょう。

生命保険の「リビングニーズ特約」を活用し、「生前葬」の費用に充てる

最近は、生きているうちに葬式を済ませる「生前葬」も行われるようになりました。

通常の葬式には、遺族の気持ちの整理という側面がありますが、「生前葬」は、すべてを自分で決めることができ、葬式の作法や段取り、しきたりにもしばられることがありません。

私もちょっと出演させていただいた映画「老後の資金がありません!」では、主人公の義理の母を演じた草笛光子さんが、楽しい「生前葬」をしました。生前葬のお金は、葬儀を企画する本人が出すので、家族の経済的な負担は減ります。

生前葬をする人には、医者からガンなどの余命宣告を受けたケースも少なくありません。生命保険には、余命6ヶ月を宣告されると、その時点で保険金が出る「リビングニーズ特約」がついているものも多くあります。

「リビングニーズ特約」は、死にゆく人が生きているうちに豊かな暮らしを送るための特約ですから、こうしたものを活用してもいいでしょう。

荻原 博子

経済ジャーナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)