スターバックスに環境配慮型店舗の国際認証「Greener Stores Framework」を取得した「グリーナーストア」日本1号店として「スターバックス コーヒー 皇居外苑 和田倉噴水公園店」がオープンしたのは2021年12月1日のこと。2024年1月には認証店舗は100店舗に広がる見込みだという。

「グリーナーストアで大切にしているのは、環境に配慮したお店づくりであると同時に、そこで過ごすお客様、パートナー(従業員)にとって快適な空間を両立させることです」とは、機器の導入など設備面を担う杉山さん(店舗建設部)と、デザイン面からアプローチする柳さん(店舗設計部)。

環境配慮型店舗で行われているのは、省エネや節水など表面的には見えづらい部分が中心だ。そこで実際にどのような取り組みがされているのか、話しを伺った。

■「Greener Stores Framework」とは?

Greener Stores Frameworkは、水の使用量、CO2や廃棄物を削減して環境負荷を低減した店舗づくりをする枠組みで、スターバックスと世界自然保護基金(WWF)とが共同策定したもの。スターバックスは25年までにグリーナーストアを世界で10000店舗展開することを目指し、日本では22年10月以降の新店舗のほとんどがこの基準を満たしている。

Greener Stores Frameworkには以下の8つの基準があり、それぞれに細かい要件を設定。その基準を満たすことで従来の店舗に比べ、CO2排出量約30%、水の使用量約20%の削減を実現している(日本でのLEED認証取得(2010年)前の店舗との比較)。

エンゲージメント

一人ひとりの行動と地域のつながりを通して、持続可能な文化をつくります。

●エネルギー効率

エネルギー効率の高い機器の採用や消費エネルギーを管理し、消費量を削減します。

●水の管理

節水器具の採用とオペレーションなどを通して、水の使用量を削減します。

●責任ある素材の調達

店舗で使用する素材や商品を責任をもって、持続可能な調達を行います。

●廃棄物削減

店舗建設時の廃棄物の管理や適切な分別により廃棄物を削減します。

●再生可能エネルギー

店舗で使用する電力は再生可能エネルギーを採用します。

●立地基準

サステナブルな店舗運営のために、適切な敷地や建物を計画、選定します。

●ヘルス&ウェルビーイング

パートナーとお客様のために、快適で過ごしやすい店舗環境を作ります。

では、一つひとつの基準を事例とともにひも解いていこう。

エンゲージメント

スターバックスには新店舗のオープン時、サポートセンター(本社)から店舗へ引き継ぎを行うイベント「G.I.F.T」がある。ディストリクトマネージャー(地区担当マネージャー)や設計担当者がお店として地域に果たしてほしい役割、デザインに込めた想い、グリーナーストアの取り組みや意義、知識を共有する時間だ。そうすることで、パートナーがお客に自分たちの言葉としてきちんと伝えられるようになることを大切にしているという。

また、グリーナーストアで働くパートナーは、気候変動の影響などを学ぶ「グリーナー エプロン プログラム」の受講が推奨されている。

サステナビリティについて基礎的な共通認識を持つことで、パートナーとエンゲージしていくもの。例えば、なぜ水栓をきちんと閉めなければいけないか?というような、日ごろのアクションの理解や気づきにつながります」(柳さん)

■エネルギー効率

洗浄や空調などの日本の機器は省エネに優れたものが多く、その中から適切なものを選択する。さらに日本では地域の気候の特性にフォーカス。外からの暑さや寒さを遮る壁や屋根の仕様を用い、快適に過ごす空間を省エネルギーで実現している。例えば北海道など特に寒い地域の店舗の窓に使用するペアガラス(二重構造ガラス)には、特殊金属膜が貼られた遮熱効果が高いものを採用。室内で作った熱を反射して暖房効果を高め、空調の消費電力を抑えている。

店内の照明も過剰にならないよう、バーカウンターは作業のしやすさを、客席は各店の客層に合わせた照明を選択し、それぞれに必要な光量が決められている。

「地域や店舗の特性に合わせたものを選ぶことでエネルギーをコントロールしつつ快適性を保っています。工事の時にもCO2が排出されるので、必要なものを必要なだけ使うことも大切な視点です」(杉山さん)

■水の管理

手洗い用の水栓は、センサーに手をかざして水が出た後は、水が落ちる力で発電し、その電力で水をさらに出す仕組み。“小さな発電所”のようなこの水栓は、グリーナーストアは全店、そのほか全国の多くの店舗で導入している。ほかにも、バーカウンターの中では一定時間水が出て、自動的に止水する水栓など、節水型水栓を導入。

「衛生面でも、店舗でのオペレーション面でも使い勝手を確認しながら採用する機器を決めています。パートナーやお客様が“負担なく”節水できるものであることが前提です」(杉山さん)

■責任ある素材の調達

素材の調達には倫理性と安全性の2つの側面があるという。倫理性とはトレーサビリティのある資材を使うこと。そして安全性では、シックハウスの原因とならない資材を利用するなど、健康に配慮した素材の調達を行うこと。また日本ならではの取り組みに、店舗の建材や家具に国産木材を利用し、林業への貢献にもつなげている。

リサイクルマテリアルの利用もそのひとつ。スターバックスの豆かすをリサイクルした壁材を、内装に使用している店舗も多くあります」(杉山さん)

■廃棄物の削減

資源のリサイクルを増やすためには、しっかり分別を行うことが大切だ。そのため客席のごみ箱は「紙類・プラスチック・食べ残し・飲み残し」の4つの分別表示がベーシック。バックルームでも、店舗によりコーヒー豆かすのリサイクルのための分別を行っているという。

「ほかにも、リサイクルしにくい素材をなるべく減らすなど、店舗建設時から廃棄物削減に配慮し取り組んでいます」(杉山さん)

■再生可能エネルギー

全国のスターバックスの店舗で再生可能エネルギーへの変換が完了している。例えば一部の店舗では屋根の太陽光パネルで発電し、店舗内や災害時の非常用電源として活用。ほかにも再生可能エネルギーには、水力、バイオマス、地熱などがあり、店舗のある地域の特性に合わせた電力を選択している。

「地域のためにつくられているエネルギーを購入することで、店舗のある地域に恩返しにつながればと思っています」(杉山さん)

■立地基準

お客の利便性や環境の観点から、駐車場などを含め各所に適した建物の構造を実現する。そのひとつがヒートアイランドへの対応。建物に太陽光を吸収して地球を温めないよう、屋根には太陽光を反射しやすい資材を採用する。しかし、国土の狭い日本では店舗の周囲に立ち並ぶ住宅やビルに反射し、光害につながる可能性も。そこであえて反射のスペックを基準よりも抑え、代わりに植栽面積の基準を設置。植物は吸収した水分を葉から蒸発させる際に周囲の熱を奪うので、ヒートアイランドの低減に役立たせている。

「日本特有の問題を解決するため、いくつかのソリューションを組み合わせて基準を達成する工夫をしています」(杉山さん)

■ヘルス&ウェルビーイング

主なものは、音環境。布製のタペストリーなど柔らかな素材を使い、音を適度に吸収する工夫をし、ストレスなく過ごせる音環境を提供。照明も、居心地を意識して、店舗ごとに確認し調整している。

「ほかの7つの基準も含め、全体を通してヘルス&ウェルビーイングを達成していく枠組みになっています」(杉山さん)

■この先の未来へ

これまでスターバックスが大切にしてきた居心地の良さを損なうことなく、環境負荷低減を実現するグリーナーストア。その未来のカタチを、ふたりは次のように語る。

「Greener Stores Frameworkはオープンソース化することが想定されています。共感いただいた方々に採用され、将来的に一定水準のサステナブルなお店が増えていくことを願っています」(柳さん)

「時代によって社会が変わっていくなかで、考え続けていくことが私たちにできること。絶対的な正解がないので、みなさんに助けていただきながら最適解を探し続け、お客様への気づきのきっかけにもなれたらいいなと思っています」(杉山さん)

スターバックスはリソースポジティブカンパニーを目指し、「2030年までにCO2排出量、水使用量、廃棄物量50%削減」の実現を目指している。地球にある資源を消費する以上に還元していく“リソースポジティブ”。今後の発展に注目したい。

いつものスターバックスも「グリーナーストア」へ。その取り組みとは?