ジョニー・デップ主演、ティム・バートン監督による大ヒット作『チャーリーとチョコレート工場』の工場長としても知られるウィリーウォンカの若き日をティモシー・シャラメが演じる『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(公開中)。ウォンカが夢のチョコレート工場を建てる前、美味しいチョコレート店を作る夢を叶えるために奮闘していた日々を描いた物語だ。

【写真を見る】ティモシー・シャラメ扮するウォンカが歌って踊る楽しいシーンも満載!(『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』)

■小さな紳士・ウンパルンパのインパクトは特大!

チャーリーとチョコレート工場』で、不思議な植物が生え、チョコレートの滝が流れるおとぎの世界のような工場に欠かせないのが従業員ウンパルンパである。1メートルに満たない身長で、生まれはルンパランドジャングルカカオ豆が大好きで、カカオ食べ放題&給料もカカオで支払うという条件でウォンカの工場で働いている。働き者だが、歌や踊りジョークも大好きな楽しい人々だ。

はじまりの物語である『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で、ウンパルンパはウォンカが作ったチョコレートを盗む宿敵として登場。軋轢を経てウォンカと奇妙な絆で結ばれることになる。そんな本作でウンパルンパを演じているのが、日本にも多くのファンを持つ英国の名優ヒュー・グラントだ。英国俳優のヒューならではの紳士らしいたたずまいや、困難にくじけそうなウォンカに対して「私ならやり返す」と鼓舞する姿で、圧倒的な存在感を披露。さらにトランクの中に備えた移動式ミニバーで鮮やかにカクテルを作ったり、空飛ぶ羽を装着したりと目が離せない。

1960年生まれのヒューは、アメリカ人女性に恋をするプレイボーイを演じたラブコメ『フォー・ウェディング』(94)でゴールデングローブ賞主演男優を受賞。たれ目と人なつこい笑顔で世界中の女性を虜にし、その後も『ローマの休日』をモチーフにした『ノッティングヒルの恋人』(99)や『ブリジットジョーンズの日記』シリーズ、『ラブ・アクチュアリー』(03)など多くのヒット作で不動の地位を確立した。

ラブコメの貴公子として二枚目役で活躍したヒューが、50代となり、ウンパルンパに繫がるドタバタ路線で冴えを見せたのが『パディントン2』(17)である。日本でも世代を超えて親しまれてきた児童文学の映画化で、ヒューはパディントンを陥れる悪役で出演した。彼が演じたブキャナンは落ちぶれた元大物舞台俳優。安っぽいCMや遊園地のショーの司会で食いつないでいたブキャナンは、隠し財産のありかが書き記された絵本を盗み出し、パディントンにその罪を着せ刑務所送りにしてしまう。ホームレスからシスター、騎士、駅のポーターなど次から次に変装しながらロンドンを暗躍。横柄でなりふり構わぬヘンテコな悪漢を、ヒューは楽しそうに演じている。

「ヒュー様、子ども向け映画に出演決定」と報じられた当初、SNSにはネガティブな意見が踊ったとが、監督・脚本のポール・キングはヒューを当て書きしただけに、良心のかけらもないが憎めないブキャナン役は適任。映画も高く評価され、不安は杞憂に終わったどころか50代半ばを過ぎてヒューは新機軸を見いだした。

■ひとクセもふたクセもある役柄に魅力を発揮!

ヒューが大富豪武器商人を演じたスパイ・アクションが、ジェイソン・ステイサム主演作『オペレーション・フォーチュン』(22)である。英国諜報局MI6から闇市場で取引される危険なブツの奪取を請け負ったエージェント、フォーチュンの活躍を描く本作。ヒューは闇取引の仕掛け人であるグレッグを演じている。孤児を助ける慈善事業を行いながら、その裏で見境なく武器を売りまくるという表と裏の顔を持つ役はヒューにぴったりだ。

ステイサム主演作と聞いてハイテンションなアクションを思い浮かべる人も多いだろうが、監督がガイ・リッチーだけに裏をかき合うだまし合いを軸にした本作はオフビートスパイ映画。グレッグも悪人だが意外にいい奴だったりしてと思わせながら、最後にどす黒い一面をのぞかせるヒネリを効かせたキャラクター。現場でリッチーから即興を求められたというヒューは、狡猾な策士を軽やかに演じている。リッチーとは『コードネーム U.N.C.L.E.』(15)、『ジェントルメン』(19)に続くこれが3度目のコンビ作。映画スターにぞっこんで、その弱みをフォーチュンに突かれてしまうという役どころは、『ジェントルメン』で演じた映画好きの腹黒い私立探偵フレッチャーからの繋がりなのかも。

クリスパインミシェルロドリゲス共演の『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(23)で、ヒューはアクションファンタジー大作に挑戦した。人気ゲームを映画化した本作は、さまざまな種族やモンスターが生息する世界フォーゴトン・レルムの物語。ヒューは主人公エドガンのかつての盗賊仲間、詐欺師フォージを演じている。剣と魔法が支配する幻想世界で繰り広げられる、お宝をめぐるアドベンチャー。中世風コスチュームに身を包み、このジャンルにヒューが出演したことはひとつの事件と言っていい。

フォージは、投獄されたエドガンの代わりに彼のひとり娘キーラの面倒を見ていた頼れる奴だが、実は…というやはり裏の顔を持つ本作のヴィラン。ヒューは映画のトーンに合わせてオーバーアクションで役に臨んだが、直情型のキャラクターが多い中その豊かな感情表現に思わず引き込まれてしまう。エピローグで笑いをとり、映画を締めくったヒュー。本作に続いて公開されるのが『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』なのも図ったようだ。

最新作ではVFXで頭身を加工して、小さな種族ウンパルンパを演じたヒュー。マイペースで予測できない言動やウォンカとの奇妙なバディ感に加え、『パディントン2』の囚人ダンスに続いて歌って踊るウンパルンパダンスも披露するなど見せ場もたっぷり。ティモシー・シャラメの“ウォンカぶり”はもちろんだが、名優ヒュー・グラントだからこそ味わえるウンパルンパの魅力にも注目してほしい。

文/神武団四郎

ウンパルンパは、ウォンカによって小瓶に閉じ込められてしまう(『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』)/[c] 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.