12月18日、トークイベント「人はなぜホストクラブに留まるのか~歌舞伎町にて出張開催 presented by B&B」が東京・歌舞伎町ホストクラブAWAKE」で開催された。

下北沢の本屋「B&B」が主催した同イベント。元セクシー女優の経歴をもち、現在は作家として活動する鈴木涼美さん、歌舞伎町ホストクラブSmappa!Group(スマッパ!グループ)」の会長を務める手塚マキさん、司会として編集者の原カントくんが登壇し、歌舞伎町ホストクラブの現在について多く語られた。


左から手塚マキさん、鈴木涼美さん、原カントくん

鈴木さんは著書『グレイスレス』が芥川賞候補に選出されたほか、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『「AV女優」の社会学 増補新版: なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』など、女性や夜の世界を題材にした作品が多い。そんな鈴木さんの新刊『トラディション』(講談社)が12月8日に発売となり、話題はその執筆のきっかけから始まった。

ホストクラブの話はずっと書きたいと思っていたんですけど、誰視点の物語にするかがずっとピンと来なくて。そんなときに、ホストクラブの受付で珍しく女性が働いている姿を目にして『この視点を借りよう』と思いました。表紙は雨の路上なんですけど、私、雨の歌舞伎町が嫌いじゃないんです。普段より陰鬱な感じがして」と鈴木さんはまず語った。

続いて司会の原さんが「手塚さんも読みましたか?」と話を振ると、手塚さんは「さっき読みました」と回答。すかさず鈴木さんが「何日か前に、『まだ読んでない』ってツイートしてたから心配だった」と言うと会場から笑いが起きた。

そもそも、なぜ歌舞伎町が新刊の舞台となったのだろうか。歌舞伎町といえば何かと事件が起き、たびたびニュースにも登場する街だが、鈴木さんはその理由について「刊行のタイミングと(最近の物騒な)ニュースが重なったのは偶然だけど、"1000万円プレイヤー"みたいな言葉が当たり前に聞かれるようになって、不穏な空気を感じていた。そうかと思えば、『健全な街に変わった』と言われることもあって、あんまりきれいに語られると、それもそれでちょっと違うなと。健全でもないし、詐欺師だらけの暗黒街でもない歌舞伎町を書きたいという気持ちがありました」と明らかにした。

さらに、話題は昨今報道が加熱しているホストクラブの「売掛問題」にも及んだ。手塚さんは「ホストクラブのビジネスモデル自体は20年前から変わっていないんです。売掛も以前からあったものですが、3~4年前から様子が変わってきて、"1000万円プレイヤー"の称号がほしいために、売掛を使って見せかけの売上で積み上げていく事態が増えましたね」とまず説明。すると、約20年前から歌舞伎町に出入りするようになったという鈴木さんは「(ホストは)当時はキャッチでお客さんを捕まえていたけれど、今はSNSが主流になっている。そのためにより肩書きが求められるようになっているのでは」と考察した。

一方で、「ホストクラブに通う女の子の心の部分は、昔も今もあまり変わっていないと思います」と客である女性の気持ちについても言及。「ホスト自身に何か惹きつけるトリックがあるというより、女の子のある種、自己完結なところがあって、『ホスト』っていう箱の中に、自分の論理を詰めて、それで通っているんです。何かしら不足があるから、お金を払ってそれを埋めようとするわけですが、ホストクラブに来ると小さな幸福があって、でも完全には満足できないからお金を積み上げていく。そしてお金を積み重ねれば重ねるほど、承認欲求が満たされるわけです」と続けてコメントした。

そして、ここ最近の一連の良からぬ歌舞伎町の報道について鈴木さんは「売掛に関しては肯定でも否定でもないけれど、国が規制をしようとしていて、その規制を作る人の多くが中年の男性。その人たちは銀座のホステスには行っても、歌舞伎町には来ない。彼らの日常生活には何ら影響がないから、女の遊び場は簡単に潰せてしまうというのは、納得がいかないところもあります。女性にはお金を管理する能力がないという意味でもあるし、女性が自由に主体的に遊ぶ場所や権利を奪っているように感じますね」と論じた。手塚さんは「その立場で論じてくれる人がいない」と称賛し、会場も大きく頷いていた。

90分にも及んだ今回のトークイベント。さまざまな角度から歌舞伎町ホストクラブについて語られ、会場はときに共感し、ときに笑うなど、最後まで盛況を見せた。イベントの終わりには参加者からの質問に登壇者が答え、鈴木さんによるサイン会も開かれるなど登壇者と来場者の間で交流も生まれたイベントとなった。

『トラディション』鈴木 涼美 講談社