代替テキスト
(写真:happyphoto/PIXTA)

「今後、年金だけで悠々自適に暮らせる高齢者は減少します。さらに実質的に年金額も目減りしていきます。そこで高齢者になっても稼いでいくことになるわけですが、住民税が『課税』か『非課税』をふまえて、どこまで稼ぐか、しっかり頭にいれることが重要です」

そう語るのは、「お金と福祉の勉強会」代表の太田哲二さん。

住民税非課税世帯(以下、非課税世帯)とは、所得に応じて負担する住民税がかからず、各種控除を引くと「0」になる制度があり、その条件を満たした世帯のこと。

年金のみで生活している65歳以上の夫婦が非課税世帯になるのは、東京都の場合で年金収入が211万円以下(表1)。これがたとえ1万円でも増えて212万円になると、住民税がかかるうえ、社会保険料(国民健康保険料+介護保険料 ※75歳以上は、国民健康保険料は後期)の負担が増え、手取り額が211万円より10万円ほど少なくなる逆転現象が生じる。

これがいわゆる『211万円の壁』。なお配偶者の年金収入も非課税レベルの収入であることが前提だ。ちなみに、住民税課税所得になる所得の基準は自治体によって違い、東京都区部など大都市部では「211万円」だが、県庁所在地など比較的おおきな年では「209万円」その他の市町村で「193万円」がそれぞれ壁となる。

国民基礎調査(2022年)によると、60代で20%弱、70代で35%前後、80代で40%超が非課税世帯だという。

非課税世帯では恩恵も少なくない。

「“新たな経済対策”で、非課税世帯に7万円の給付を行われますが、コロナ対策でも1世帯10万円の給付金が支給されるなど政府による給付金が手厚いなど優遇措置があります。医療費が高額になったときの高額療養費制度では、70歳以上で月の自己負担上限額が、課税世帯でもっと所得が低い場合では5万7600円ですが、非課税世帯は最大1万5000円です」

ほかにも、NHKの受信料を申請すれば免除されたり、自治体によっては各種補助(インフルエンザの予防接種の無料化、電車やバスが乗り放題など)などの対象になったりするという。

今後は年金収入だけで暮らすことは難しくなり、高齢者でも働くことが求められている。しかも、シニアが働く環境も徐々にだが整ってきている。

「実は働いた場合に稼いだ給与は年金収入との控除額が異なるため、「給与+年金」の年金生活者では住民税非課税限度額が違います。ところが年金収入だけの『211万円の壁』だけしか示されておらず、『年金+給与』での非課税の範囲内がわからない人が多いのです。

年金が少ないからと頑張って働いたら、知らないうちに非課税世帯の対象から外れてしまうことも。

妻が特別養護老人ホームに入所した知人は、介護費用を捻出しようと一生懸命働いた結果、住民税非課税の条件から外れてしまい、公的介護保健の高額介護サービスの負担上限額が増え、年間100万円の負担増になったと嘆いていました」

そこで、太田さんは、高齢者夫婦「年金+給与」(1級地)で試算。その結果が表2の通り。

「たとえば、72歳の夫の年金収入が155万円で、同い年の妻の年金が70万円の場合、夫は年121万円(月9万2500円)まで働くことができます」

最後に太田さんがこう語る。

「年金だけでは老後生活が不安だからと、なんとか年金を増やしたり、定年後も働いて預貯金を増やそうとしたりしますが、非課税世帯かどうかで、家計への負担が大きく違ってきます。収入を増やすために働くことは大切なことですが、それによって「負担が増える」ことがあることだけはしっかり頭にとどめておいてください」

PROFILE

太田哲二(おおたてつじ)

昭和23年名古屋市に生まれる。中央大学法学部卒業。同大学院修士課程修了。杉並区議会議員(10期)OB。「お金と福祉の勉強会」代表。個々人の具体的相談活動に従事。近著に『やっとわかった!「年金+給与」の賢いもらい方』(中央経済社)がある。