日本のGDPは「世界第3位」ですが、「先進国中ワースト4位の貧困国」でもあります。途上国とは異なる「相対的貧困」によって、日本ではどのような問題が起きているのでしょうか。ノンフィクション作家・石井光太氏の著書『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』(PHP研究所)から一部抜粋して紹介します。

日本の「食糧危機」

必要最低限の生活が保障されている日本では「栄養をとれずに命を落とす」ということは基本的にはない。生活保護、炊き出し、フードバンクなど、何かしらの方法で「胃袋を膨らます」術がある。

しかし、貧困層の人々は食事の面で健康を害すことがある。表面的には同じものを食べているようでも、実際にはかなり栄養バランスが偏った食生活をしているということが珍しくないのだ。先日、わかりやすい事例に出会って身をもって体感したので、紹介しよう。

ある富裕層の経営者から「タコパ(たこ焼きパーティー)をやるから家に来てくれ」と誘われた。十数人の参加者がおり、筆者はデパ地下で買った土産をいくつか持参して家を訪れた。

ホームパーティーのメインはたこ焼きで、その経営者が自分で焼いて振る舞ってくれた。だが、テーブルにはそれ以外にも、奥さんが料理したサラダサンドウィッチビーフシチューアヒージョなども並んでおり、筆者を含む来客が持ってきた土産も振る舞われた。名目上は「タコパ」であっても、それ以外のものの方が多かった。

他方、筆者はかつて生活保護を受けているシングルマザーから、「友達とタコパで新年会をするので来てくれ」と誘われたことがある。このときも、筆者は土産を持って、彼女の暮らす公営団地に行った。

家には筆者以外に3組のシングルマザーと子供が招かれていたが、土産を持ってきたのは筆者だけだった。そしてそこで出されたのは、たこ焼きの他に、ポテトチップスとチョコレート、それに発泡酒酎ハイだけだった。その名の通り、「タコパ」だったのである。

ここからどのようなことがわかるだろうか。

同じ「タコパ」であっても、富裕層の人たちは栄養バランスを考えていろんなものを口にする。これに対し、貧困層の人たちはたこ焼きならたこ焼きだけを食べる傾向にあるということだ。

これはタコパに限った話ではなく、日常の食習慣にも通底することだ。筆者自身の経験からいえば、富裕層の人たちと居酒屋へ行けば、コース料理のように様々な種類の料理をバランスよく注文する印象がある。一方、貧困層の人たちは、串カツなら串カツだけを食べつづけるとか、お好み焼き焼きそば、ピザ、から揚げなど、似たような高カロリーの料理ばかりを注文することが多い。

統計データが示す貧困層の「栄養バランスの偏り」と「肥満率の高さ」

もちろん、上記は全員に当てはまることではない。しかし、筆者の偏見ではないことを示すために、統計データを示したい。まず、[図表1]を見てほしい。

食生活を「穀物摂取量」「野菜摂取量」「肉類摂取量」の3種類に分類したものだが、低所得の人ほど、穀類(米やパンや麵)を主とした炭水化物の摂取量が多く、逆に野菜の摂取量が少ないのがわかるだろう。

こうしたことが起こる原因は、階層によって食習慣が違うためだろう。富裕層の人々は小さな頃から食費より栄養バランスのことを考えて、いろんな料理を満遍なく食べてきた。だから大人になっても、バランスを大切にして食事をする。だが、貧困層の人々はそうした習慣がないので、エネルギーはとれていても、バランスが偏る傾向にある。

こうした食生活は貧困層の人々の健康に少なからず影響を及ぼす。たとえば、[図表2]を見れば、所得が低ければ低いほど、肥満になりやすいという現象が起きているのがわかるだろう。

野菜や魚などを均等に食べる人と、から揚げやラーメンばかりを食べる人とでは、肥満率が違ってくるのは当然だ。

さらにいえば、肥満は高血圧、動脈硬化、糖尿病、月経不順、それに大腸がんや乳がんなどのがんを生み出す要因となっている。また、安価な食材には健康に悪い物質が含まれているリスクも高い。生産の過程で大量の除草剤、害虫駆除剤、防カビ剤、肥育ホルモン剤、着色料、防腐剤などが使用されていることがあるからだ。

先に、筆者は日本では富裕層と貧困層とでは口にする料理にそこまで大きな違いがないと述べた。だが、バランスのいい食生活を送れているか、安全な食材を口にしているかといったことは別の問題であり、その点においては階層による差が多少なりとも現れるといえるのである。

石井 光太

ノンフィクション作家

(※写真はイメージです/PIXTA)