大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、A24制作のホラー映画として、全米では『ミッドサマー』を超える最大のヒット作となった『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』。SNSで流行する「90秒憑依チャレンジ」にのめり込んだことから思わぬ事態に陥っていく高校生を描いたオーストラリア製ホラーを語ります。

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

──『TALK TO ME』はどうでした?

おもしろかった。呪いの手を握って「Talk to Me」って唱えると、霊が自分の中に入ってきて交信できる。それがすごい快感らしく、ティーンの中で流行っているっていう設定です。日本でいうとコックリさんですよね。ティーンの間でのドラッグ蔓延問題に警鐘を鳴らす意図を感じたな。監督はオーストラリア出身の双子人気YouTuber、ダニーマイケルのフィリッポウ兄弟で。監督のインタビューを読んだんだけど、「説教臭くしないためにはホラーというジャンルはやりやすい」って言っていて。

──そうなんですね。

主人公のミアがその呪いの手を握って、「90秒憑依チャレンジ」をやった時、興奮した表情で「めっちゃ気持ち良かった!」ってリアクションを取るんだけど、完全に映画の中でよく見るドラッグをやった時の反応なんですよね。ドラッグ問題だけじゃなく、10代が巻き起こす問題は映画の下敷きになることが多いですよね。例えば僕が大好きな『イット・フォローズ』はセックスをすると相手に呪いが移るっていう設定ですけど、若者の気軽なセックスに警鐘を鳴らしているところがあった。社会問題をエンタメに昇華しつつ、「こういうことをすると危険だよ」っていうことを暗に伝えていますよね。

──特にミアの親友、ジェイドの弟のライリーが壮絶に怖い目に合ってましたね。

めちゃ気色悪い描写でした。いい意味で(笑)。あれは同じA24の『ヘレディタリー/継承』とか『ミッドサマー』がちょっと浮かんだけど。

──アリ・アスター監督の。

アリ・アスター臭を感じました(笑)。『TALK TO ME』は霊に憑依されると黒目になってたじゃないですか。『エクスシスト』とかは憑依されると白目になるんだけど、黒目はまた別のヤバさがあったよね。トリップ中であることを表してるんだと思うけど。

──白目だと苦しそうに見えるけど、黒目だとまた違いますよね。

そう。この映画は自分から霊を入れに行ってて自発的な意志があるわけだから、その違いもあるのかな。幽霊の目は白くなってる描写が多いけど、黒目になるっていうのは生身の人間に霊が入ってきたという意味が込められてそうですよね。

──確かに。

全体的には楽しめたけど、難癖を付けるとしたら、結構ティーン向け感が強かったかな。主人公がティーンホラー映画はどうしてもわちゃわちゃ感があって耐えられない(笑)。監督は「説教臭さが前面に出ないようにした」って言ってたけど、結構出てるなって思ってしまった!

──ミアが母親を亡くしているという背景と憑依チャレンジにのめりこむことははっきり繋がってましたし、手を握って霊を招き入れる描写は手を差し伸べるっていう意味合いが込められていたり。

そうなんだ! 既に続編の制作が決定しているわけだけど、そこではもしかしたらあの呪いの手の持ち主とかが掘り下げられるのかな。

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』より

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』より

■気楽に観られる感じが良い。そういうホラーも必要だと思います

──ありそうですね。北米では『ミッドサマー』や『ヘレディタリー』を超える興行収入を記録して、イギリスフランスシンガポールスウェーデンでも初週トップ10入りっていう大ヒット作なので、続編も話題を集めそうです。

そ、そんなに⁉ そこまで怖くはなかったけどな(笑)。ただ、気楽に観られる感じが良いんですよね。そういうホラーも必要だと思います。

──シンプルでわかりやすい作品ではありますよね。

ね。あまり余計な要素が入ってこないところも潔くて良かったですね。そういえば最近、『インシディアス』とか『エスター』とか続編系のホラー映画が多かったけど、『TALK TO ME』は完全オリジナルだし、いろいろ新鮮でした。

──人間ドラマの要素はありつつも、割と気楽に楽しめる。友だちとノリで観に行けるっていうか。

そうそう。ポップコーン片手にね。ともすればショートフィルムっぽい題材を長編にしっかりとまとめ上げたのは秀逸だと思います。

──監督の双子YouTuberは『ストリートファイター』の実写化の監督に抜擢されたそうです。

そうなんですね! 確か94年ぐらいに公開されたハリウッド版がありましたよね。チャゲアスの「Something There」がエンディングテーマで。

──よく覚えてますね。

スト2」世代なんで(笑)。

──『TALK TO ME』もゲームっぽい描写がありましたから、そういうのが得意なのかもしれないです。YouTuberとしてのテクニックが活きるっていうか。

確かにそういう感じはあるね。

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』より

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』より

■日本映画って普通の映画でもホラーっぽさがあったりする

でも僕は、そろそろめっちゃ怖い日本のホラー映画が観たいです。『リング』や『呪怨』みたいな衝撃をまた味わいたい。やっぱりあの2作品は世界のホラー映画の基準を変えた革命的な作品ですもん。最近あんまりないよなー。近いお国でいうと、一昨年配信された台湾ホラーの『呪詛』は恐ろしかった。あとタイと韓国の合作の『女神の継承』もなかなか。日本でもそれぐらい怖い作品が出てきてほしいですね。

──『リング』と『呪怨』はあれだけハリウッド版も作られているのもわかりますよね。

ね。でも日本って元々ホラーに向いてるんだろうなと思う。邦画って普通の映画でもホラーっぽさがあったりするじゃないですか。最近だと『ある男』とか。

──ああ、怖いですよね。

そう。霊が出てくるとか一切ないんだけど怖い。あと、『死刑にいたる病』も超怖かった。

──あれはもう阿部サダヲさんが怖い(笑)。

超怖い! あれは完全にホラー映画

──あの虚無な目がすごいですよね。

本当ですよね。だから、無理にジメジメ感をエンタメ化しようとしなければ、またすごく怖いホラー映画が生まれるんじゃないかなと。話変わるけど、僕『シン・ゴジラ』がやっぱりどうしても大好きなんですよね。「怪獣映画をこう捉えるんだ?」って思って。でも海外ではそこまででもなくて。ただ、今『ゴジラ-1.0』がめちゃくちゃ海外でヒットしてる。『ゴジラ-1.0』もおもしろかったですけど、海外と日本ではヒットする作品の差があるんだなって改めて思った。でも『リング』と『呪怨』は海外でもあのジメジメとした怖さが伝わったわけで、やっぱりすごいんだよな。

 

取材・文=小松香里

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