Jリーグは19日の実行委員会で、26-27シーズンからの秋春制への移行を全会一致で決めた。ただし、秋春制へ移行するメリットについては11月28日の理事会会見で示された資料からの進展はなく、やはり「移行ありき」が前提にあっての議論だったという印象が拭えなかった。

移行の理由の1つに、「夏場はパフォーマンスが落ちる」というのがある。確かに近年は気候変動の影響で夏場は豪雨の影響で中止になった試合も多かった。特に今年は猛暑日が続出した。このためJリーグも“サマーブレイク"を導入して選手の体調面をケアした。シニアの公式戦では熱中症で亡くなった方もいた。猛暑での試合は避けるべきだろうが、8月の第1週に開幕するのであれば、猛暑日の連戦は9月末まで8試合近く続くことになる。

この点を指摘された樋口順也フットボール本部長は「7月にキャンプをして8月に開幕すれば、これまでの6~8月の連戦とはパフォーマンスも違うだろう」と答えた。シーズンを6月に終え、なおかつウインターブレイクを入れるとなると、8月に開幕せざるを得ないのだろう。夏休み中でもあり、集客を見込めることも8月開幕の大きなポイントと推測される。

実際、2月ではなく8月開幕なら地元でキャンプができ、開幕戦も地元で開催できると歓迎する降雪地帯のチームもあった。

その降雪地帯のチームからは、シーズンを移行した際に冬場に起こりやすいケガはどのようなものがあるのか質問されていたが、こちらについての答えは聞きそびれたままだ。樋口本部長の言うように、シーズンを移行してみないとわからないことは多々あるということだろう。

シーズン移行のもう1つの大きな理由として、ACLが秋春制になったことと、ACLエリートが創設されること、さらにクラブW杯の拡充をあげていた。ACLに関しては、これまでJ1リーグ優勝チームに次いで出場権を与えられていた天皇杯優勝チームがプレーオフに回り、リーグの2位と3位のチームの優先順位が上がったことは大歓迎だ。こちらはやっとCLに近づいたと言える。

そのACLだが、出場できるのはJ1の3チームないし4チームしかない。にもかかわらずJ2とJ3の多くのチームがシーズン移行に賛成したことは驚きだった。「Jリーグを世界で戦える舞台に変えたいのが移行の一番の理由」(樋口本部長)という意見に賛同したのかもしれない。しかし、シーズンを移行したからといって、「世界で戦える舞台」に変わるとは限らない。移行して選手のパフォーマンスが向上するのかどうか。こちらも実際に移行して検証する必要があるだろう。

樋口本部長は「ヨーロッパのクラブとは放映権料の差が一番大きいと」と説明し、「トップクラブの売り上げを200億円にしたい」として、そのためにACLエリートに参加することや優勝すること、さらにクラブW杯への出場によるボーナスに期待した。さらに、現状でJ1の売り上げは49億円、J2は17億円だが、「シーズン移行に関係なく倍増することを目標にしたい」と述べていた。

Jリーグは今年3月、DAZN2033年までの11年間で2395億円という新たな放映権契約を結んだ。樋口本部長の言うように、放映権料は収益の大きな柱だ。そしてJリーグの国内放映権はDAZNと独占契約を結んだ。そうなると、さらなる放映権料は海外に求めるしかないだろう。その意味で東南アジアは重要なマーケットになるのではないだろうか。

ヨーロッパが秋春制のシーズンなら、Jリーグが春秋制のシーズンであることが、ヨーロッパのオフシーズンを埋めるキラーコンテンツになる可能性もある。しかしシーズンが同じとなれば、時差の関係で試合時間が重ならないとはいえ、優先順位はヨーロッパのリーグ戦になるのは自明の理だ。

それ以外にも、降雪地域のチームへの具体的なサポート内容についての言及はなかった。やはり移行してみないとわからないことが多いと推測できる。だからこそ「キャンプ費は一定の期間は保証する。例えば5年間はこういうサポートをする。しかし基本的にクラブ事情を考えて、自助努力もして欲しい」(樋口本部長)と言うのが精いっぱいだったのではないか。

改めて、なぜいまシーズン移行なのか今シーズンは考えさせられた。しかし26年からのシーズン移行は決まった。課題が山積なのは関係者も認識している。そのため猶予期間を2年設けたのだし、今後はこうした課題を1つ1つクリアしていく作業が続くだろう。これはこれで、Jリーグと日本サッカーの発展にとって貴重な経験になるはずだ。そして秋春制が日本のサッカーにとって最善の選択かどうか。その検証を26年以降も続ける必要があることは言うまでもない。


【文・六川亨】