実写とアニメで描く、日本発のオリジナル冒険ファンタジー「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」が、12月20日よりディスニープラスのスターで独占配信開始。同作は、実写で描く現実世界の横須賀と、アニメで描くドラゴンが棲む異世界・ウーパナンタの2つの世界を舞台に、周囲になじめない女子高校生・ナギ(中島セナ)が異世界から来た少年・タイム(奥平大兼)と運命的な出会いを果たし、やがて互いに協力し合いながら世界の危機に立ち向かっていく様を描く。このほど、映画「東京喰種 トーキョーグール」(2017年)や「サヨナラまでの30分」(2020年)などの演出を手掛け、今作のメガホンをとった萩原健太郎監督にインタビューを実施。制作秘話や自身にとっての転機となった“運命の出会い”などを語ってもらった。

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■プロジェクトが始まったきっかけは妄想?

――今回の作品はどういう形でスタートしたんですか?

以前、僕がある漫画原作の映画を撮った時に思い付いた草案があったんです。漫画の世界は1人の漫画家さんがいて、その人の思想が反映されている画一化した世界観が多いなと感じて。その世界のキャラクターが、もしこの現実世界に現れて何か目的に向かって行動を起こしたらどうなるのか。

現実世界にはいろんな価値観を持った人間がいるので、漫画の中ではできなかった成長を遂げるかもしれない。それはもしかしたら、より人間らしく成長することにつながるのではないかと。そういう妄想が最初にあって、「こういうものをやってみたい」とプロデューサーの山本(晃久)さんに相談したら「面白いですね。やりましょう」と言ってくださって。それから脚本家チームと“ライターズルーム”を作って企画を進めていきました。

――漫画のキャラクターと現実世界の“化学反応”は面白そうですね。

少年漫画には、多面的な描き方をしていないキャラクターが多いような気がしたんです。そんなキャラクターが現実世界に来たら、きっと多面的に成長していくんだろうなと。漫画のキャラクターが人間になっていく話をやりたかったので一面的な描き方はしたくないなと思いました。

――多面的な描き方というのは“多様性”を重んじる現代の風潮を意識した部分があるんですか?

僕はアメリカの美大に通っていたんですけど、そこには世界中から多様な人種の学生が来ていたんです。そこで多様性みたいなものをより強く意識したことで、自分が映画やドラマを作る時に無意識的にそういうものが含まれることが多いのかもしれません。

今回の作品でも、横須賀に住むナギが通っている学校には多様なルーツの学生たちがいます。見た目で人種が特定出来ないミックスの子たちで、ソンくんもそうなんですけど普通に彼らを日本人として存在させるということも重要だなと思いました。

――脚本作りで意識した点はありますか?

学生時代にアメリカで出会って以来、一緒に仕事をしている藤本(匡太)と山本さんが連れて来てくださった大江(崇允)さん、そして女性脚本家の川原(杏奈)さんたちと一緒に1年ぐらいかけて作っていきました。

1話のプロットを藤本が書いて2話を大江さん、3話は川原さんが担当。それぞれ出来上がったものを1回照らし合わせてみんなで話し合いながら修正しつつ、ある程度まとまったら次の4話を藤本が書く。そうやってリレー形式にプロットを作り上げていって、さらにそこが固まったら脚本にという流れ。みんなで書いて修正するという形で作り上げていった感じです。

■「ベストな物語を作る方法としてのやり方がこれだった」

――いろいろな人の視点が欲しかったということですか?

日本だと1人で書くパターンが多いですけど、それには限りがあるのかなと思っています。韓国やアメリカとのクオリティーの違いはそういうところにあるような気がしていて。やっぱり、全員がクリエイティビティを発揮した上で さらにいろいろ言い合える関係性を作らないと新しいものは生まれないんじゃないかなと。ベストな物語を作る方法としてのやり方がこれだったということです。

――自分のアイデアとは違うものが出てくるという利点がありますよね?

どうしても癖や好みが入ってくると、偏ったものだったり過去に自分が作ったものに似てしまう。それだと新しいものは生まれにくいですよね。お互いに意見を出し合って、それをリスペクトし合いながら物語の最後に向かって突き進んでいくほうがいいのかなと思っています。

――その中で、軸になったキーワードのようなものはあったんですか?

みんなで話し合う中で「これだ!」と思ったのは、想像力が世界の扉を開くという言葉。どうやって想像力を膨らませて物語を作っていくのか。その想像力は何に対してなのかを常に考えていました。それは演出をする上でも大事にしていたことです。

――アニメ部分の監督を務めた大塚隆史さんともいろいろ話し合ったんですか?

大塚さんと最初にお会いした時に「僕の役割は萩原さんのやりたいこと叶えることです」と仰っていただいたので、デザインも含めアイデアは実写側が出したものが多かったです。それを今までの経験と技術、才能を持って表現してくださいました。

いろいろ話し合いながらアニメでやる上での矛盾点や脚本のことも指摘してくださって、二人三脚で作り上げていきました。僕にとっては初めてのアニメだったのでとても心強かったです。

■実写パートは5カ月がかりで撮影

――実写とアニメの制作は同時進行だったんですか?

最初に出水ぽすか先生がキャラクタ―デザインを上げてくださって、それを基にアニメと実写のデザインを作っていきました。衣装は実写が先で、それに合わせてアニメのほうを修正。撮影自体も実写が先で、2022年の8月から12月まで5カ月かけて撮りました。実写の撮影が終わった頃に1話の絵コンテが上がって来たという感じ。だから、実写にアニメを合わせてもらったということが多かったと思います。

――キャスティングで意識したことは?

日本でオリジナルもの、しかもメジャースタジオで映画を撮るとなったら知名度や人気を優先させられることが多いんです。でも、そうではなくて役に合っている人を選びたいと思っていました。この作品だからこそできるキャスティングをしたいなと。純粋な興味として森田(剛)さんとマッケン(新田真剣佑)が戦うところを見たいなって。絶対カッコよくなるじゃないですか。そういう自分が見たいものや面白そうな組み合わせを考えながら皆さんにオファーしました。アニメの声優さんも同じです。

あとは「ウーパナンタ人」という日本人ではない異世界の人たちが出てくるので、SUMIREさんをはじめナショナリティがあいまいな感じに見える方たちを選びました。

――1人1人のキャラクターがとても個性的ですよね。

ドラゴン乗りの少年・タイムを演じた奥平くんはカラコンを入れていたのかな? 異世界の「ウーパナンタ」は島が浮いているから高度が高い設定。寒いと思うからちょっとチベットの人をリファレンスにして頬を赤くしてみました。そういうリアリティーをプラスしたことによって、表情などで幼さみたいなものも強調できたような気がします。

――他にも工夫した点はありますか?

戦う時に使う道具は「ウーパナンタ」の鉱物を削り取って作った剣にしようと考えて。普通の剣よりも厚みがあるものにしました。

剣と剣がぶつかった時の音もいわゆるカキンという聞き慣れた音ではなくてガリガリみたいな重い感じの音に。どうしても固定観念で剣と剣がぶつかった時の音はこれだよねって考えがちだけど、そういうものは一切振り払ってしまおうと。それは脚本作りや演出の面でも意識しました。

――撮影中、苦労したことはありますか?

オリジナル作品ということもあって、何かここはうまくハマっていないなと感じて脚本を書き直したり。いろいろ修正しながらの撮影は大変でした。

――ストーリー展開やセリフがしっくりこなかったということですか?

セリフもそうですし、意外とドラマが描かれていないと感じたり。どうしても後半になると説明が多くなってしまうんです。その説明をどうやって省いたらいいのかとか。全8話なので途中で辻褄が合わない部分も出てきたりして。撮影しながら物語を再構築していくオリジナルならではの難しさがありました。

実は、当初1話は全編アニメで2話から実写になる予定だったんです。それだと設定を飲み込めないまま物語が進んでいくので視聴継続してもらえるのかどうかという問題があって。結局1話と2話は実写とアニメを混ぜた編集に。そうやって、臨機応変に作れるところはオリジナルならではですし、やっていて面白いところでもありました。

■監督にとっての“運命の出会い”は…

――劇中ではナギとタイムが運命的な出会いを果たしますが、萩原監督にとって人生の転機となった“運命の出会い”は?

プロデューサーの山本さんとの出会いは大きかったと思います。今回もサウンドスーパーバイザーとして携わっていただいた浅梨(なおこ)さんから2017年頃に紹介されて、一緒にいろんな企画を考えてきた関係。年齢も一緒で、自分にとってはすごく刺激になるような存在なんです。今回の作品も、山本さんがいいタイミングでディズニーに入られたからこそ実現した企画。僕にとっては大きな経験になりました。

同じように、学生時代から切磋琢磨してきた間柄である藤本も大事な存在。大江さんや川原さん、そしてプロデューサーの伊藤(整)さんとご一緒できたこともうれしかったです。

――ちなみに萩原監督がクリエイティブな仕事をやってみたいと思うきっかけになった映画はありますか?

当時は全く気付いていなかったと思うんですけど「ジュラシック・パーク」(1993年)を劇場で見た時に受けた衝撃はすごかったです。1800年代にリュミエール兄弟の「ラ・シオタ駅への列車の到着」で、蒸気機関車が走ってくる光景を見て驚いた人たちと同じ感覚というか、あれを見たことで恐竜とかに対する思いが強くなって。それが今回の劇中に出て来るドラゴンにつながっているのかなと思っています。

◆取材・文=小池貴之

「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」第4話先行カットより、新田真剣佑演じるアクタ/(C) 2023 Disney