野球に限ったことではありませんが、一流選手でも成績が伸び悩む時があります。

これまでのように打席に立ってもヒットが出ない。昨年まで間違いなくヒットだった強烈な当たりが好守に阻まれる。投手であれば、同じような球を投げてもヒットにされる。最初は運が悪いだけと思っていたのに、不調が続いて成績が停滞したり悪くなることも。これを一般的に「スランプ」と呼びますが、今回はスランプについてお話します。

私もキャスターとして、週5日の『ワースポ×MLB』(NHK BS1)の生放送を5年間やっていた中で、何度か「これはスランプかも」と思うことがありました。

VTRも見ながら共演者の方の話を聞いて、それを頭の中で処理して自分も話す。ただ、頑張ってもうまくつながらない時があり、どこかがダメだとどんどん崩れていきます。スランプって悪循環。

きっかけはささいなことでも、精神的に追いつかなくなって不安になり、それが萎縮につながります。次の放送で「前回の失敗を引きずらないように」と思うと、逆に失敗が重なることも。スランプに陥った理由は、具体的に「これ」というものがあるわけではありませんが、寝不足や体調不良が重なったのかな、と今では思います。

野球選手に話を戻しますが、一流選手ほど、少しでも打てない時期が続くと「スランプか!?」と報じられ、注目の的になってしまいます。新人選手が打てない時期が続いても、誰も「スランプ」とは思いませんから、結果を期待される一流選手のみが言われる、名誉ある(?)称号なのかもしれません。

一方の選手からすれば、スランプが長く続けばオフで年俸が下がり、最悪の場合は解雇されてしまう可能性もあるわけで、1日でも早く不調から脱したいと思っているはずです。

選手のスランプの原因は一概には言えないようですが、主に精神状態に起因するものが多いそうです。技術に起因するものもあり、例えばレッドソックス吉田正尚選手は、高めのストレートに対して凡打が続いた際、アシスタントコーチが分析すると打撃の際の姿勢に問題があるとわかりました。それを改善したところ、快音が戻ったようです。おそらくこのコーチの助言は、吉田選手の精神的重荷も取り去ったのでしょう。

今年も残りわずか。来年も健やかな1年になりますように。
今年も残りわずか。来年も健やかな1年になりますように。

スランプを脱出する方法のひとつに、メンタルトレーニングが挙げられます。カブス鈴木誠也選手は、2023年シーズンの後半はメンタル面の強化することで成績が上向いたようですね。

アメリカでは、「メンタルコーチがいないチームはない」と言われるほど、メンタル面の管理をするスタッフの重要さが認識されています。日本でもその文化が輸入され、今では高校の野球部でもメンタルトレーナーがいるチームがたくさんあります。

107年ぶりに夏の甲子園を制した慶應高校の野球部にもメンタルコーチがいて、「ピンチの時にどうしたらいいか」という対処法を選手たちに教えたとか。若き高校生たちの練習への取り組み方、試合中の動揺しそうな場面で己に打ち勝つヒントをくれる。それはどれだけ選手たちの勇気になったことでしょう。

ちなみに慶應高校のメンタルコーチは、野球経験がないそうです。プロのコーチというと、選手としてもプロで成功した人がほとんどですが、第三者による客観的な分析は逆に的確な場合も多いのかもしれません。

メンタルコーチの役割のひとつはメンタル面を安定させることですが、選手の成長を促すことも求められます。高い目標を掲げて、それを達成するためにどんなことをすればいいのかを逆算し、ひとつずつクリアしていく。簡単な目標から達成していくことが、自己肯定感につながります。

今回、この原稿を書いていて、私が流されるままに生きてきたことをあらためて痛感しました。人生において「こうなりたい」という具体的な目標がなかったんです。でも、『ワースポ×MLB』で「アメリカに取材に行きたい」という目標ができ、それを叶えた時には幸せを感じました。

だから、すぐに高みを目指すわけではなく、まずは毎日できることをしっかりやろうと思っています。スランプになった時には、まず自分の生活を見直すこと。今は、毎日おいしい食事を食べることが元気につながっています。

うちの旦那さんがコンビの解散を発表した当時、私もとても心身共に落ち込んでいました。でも、「こんな時に体調を崩すわけにはいかない」と、旦那さんが野菜がたくさん入ったおいしいスープを作ってくれたんです。それが本当にやさしい味で、おいしい食事は人に元気を与えてくれるんだなと思いました。

もし大切な人がスランプになったり落ち込んだりしている時は、おいしい食事を作ってあげたいと思います。

みなさんのスランプの乗り越え方も教えてくださいね。それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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「スランプ」について語った山本キャスター