ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を記念した映画『ウィッシュ』が現在公開中だ。主人公アーシャが住むのは、どんな願いもかなう魔法の国“ロサス”。アーシャは子ヤギのバレンティノと願い星のスターとともに、ディズニー史上最恐のヴィランとなるマグニフィコ王に挑む。監督を務めるのは、『アナと雪の女王』を手掛けたクリス・バックと、本作が監督デビューとなるファウン・ヴィーラスンソーン。なぜ今回プリンセスを題材にしなかったのか、アーシャのドレスの色に込めた思いなど、クランクイン!が話を聞いた。

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■なぜアーシャはプリンセスじゃない?

ーーまずはアーシャのドレスに紫色を選んだ理由を教えてください。近年、ドラマ『ユーフォリアEUPHORIA』やオリヴィアロドリゴ、BTSなどZ世代に人気のコンテンツは紫色を使用していることが多く、今の若者にとって大切な色なのではないかと考えていました。

ヴィーラスンソーン:とても面白いですね。本作の舞台背景は、北アフリカ南ヨーロッパの間くらいをイメージしています。本作の時代であれば、どんな色が適しているかという話し合いを文化コンサルタントと行ったところ、北アフリカでは、紫が希望を象徴する色という話が出ました。そこからアーシャにこの色を与えたのです。

ーー文化的背景があったのですね。アーシャといえば、プリンセスではなく一般市民であることも気になりました。どうやってキャラクターを作っていったのでしょうか?

バック:今回は物語的にプリンセスが必要ないと感じました。アーシャは一市民でありながら、すごいことを成し遂げていきます。18歳になると願いをマグニフィコ王に捧げないといけないことに対し、強い思いを抱き、誰もが自分の願いを持つべきだと考えて行動するヒロインです。しかも、過去のディズニー作品は自分のための願いをかなえるヒロインが多かったのに対し、彼女は自分だけでなく自分のコミュニティーやみんなのために願います。わたしたちはそこが好きで、特別なところだと思っています。

ーーアーシャの周りにたくさんの友達がいたのも、彼女が自分で獲得した交友関係であることが大切だったのでしょうか?

ヴィーラスンソーン:そうですね。アーシャは、みんなの助けを借りたときに、一人ひとりの特技まで把握しているほど、周りの人をすごく思うキャラクターです。また友人たちがアーシャと同じ年齢であるのも重要でした。この物語では、18歳になったら、自分の願いをマグニフィコ王に渡さなければいけない。そうなったときに、言われた通りにするのか、あるいは自ら願いをかなえようとするのか。そんな選択を迫られるのがアーシャと友人たちなのです。

ーーありがとうございます。劇中では願い星のスターも重要キャラクターでした。どうしてこのビジュアルになったのでしょうか?

■実はスターに「声」の設定もあった

バック:スターは、アーシャが願ったことで地上に舞い降りたキャラクターです。実は最初は、形状を変えられるという設定でした。人間や動物の声も当ててみたのですが、物語が進行していく中で「シンプルに」という話になり、非常にかわいらしいボールのような形状になりました。ボールと言えば、アニメーターは、アニメーションを学ぶ初級コースで、ボールを縮小させたり、動かしたり、弾ませたりということを行ったりします。そんなアニメーターの経験も込められています。それからミッキーマウスからインスパイアされたハートマークも顔に。そしてアニメーターが美しいパントマイムの演技を通して、命を吹き込んでくれました。スターはしゃべらないというのも特別で、魅力の1つだと思っています。

ーーもともと声まで当てたのに、なぜしゃべらない設定に?

ヴィーラスンソーン:声を与えてしまうと、アーシャがこれからどうすればいいのかを、全部言ってしまうことになるんですよね。そうすると、アーシャにとって物語的な壁がなくなってしまう。やっぱりアーシャが自分自身で道を見出していくほうが面白いんじゃないかと思いました。あと、スターはクリエイティビティーや希望、可能性などのエネルギーの象徴でもあります。皆さんもそうだと思うんですけど、クリエイティビティーってなかなか言語化できないもの。だからこそ言葉を持たないというのが合うんじゃないかなと思いました。そして観客もスターが何を考えているのかを読み取ろうとする面白さがあるんじゃないかと思っています。

ーーではマグニフィコ王についても教えてください。どのようにしてこのキャラクター設定にたどり着いたのでしょうか?

バック:ヴィランらしいヴィランディズニー・アニメーションでも久しぶりだったので、キャラクター作りの面白さややりがいを感じました。ただ最初は邪悪さが全面に出ているという設定だったんですけど、チャーミングなところや彼の傷、どんな行動を取るのかを少し見せるような形に変わり、結果的に闇落ちする彼の姿を見るような流れとなりました。

ヴィーラスンソーン:彼はナルシストなので周りから敬愛されることが喜びだと思います。その一部としてショーマンシップのような部分が出てくるんですけど、同時に楽しいキャラクターでもあって、それはクリスパインがもたらしてくれたものだと感じています。彼が演じたおかげで、ヴィランが真面目でつまらない役じゃなくてもいいんだと思えました。

ーー強烈なインパクトを残してくれました。それでは最後にバックさん、ヴィーラスンソーンさんが『ウィッシュ』に込めた“願い”を教えてください。

ヴィーラスンソーン:アーシャは、夢を追う中で何があったとしても諦めずに追い続けます。何かを必要としたときに、アーシャのことを思い出してもらえる。皆さんにとって、そんな映画になるとうれしいです。

バック:もしも願いを忘れたり、諦めたりしている人にとって『ウィッシュ』が再び願いを追いかけるインスピレーションになればと思います。

(取材・文:阿部桜子 撮影:クランクイン!編集部)

 ディズニー・アニメーション最新作『ウィッシュ』は全国公開中。

(左から)ファウン・ヴィーラスンソーン、クリス・バック  クランクイン! 写真:クランクイン!編集部