MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、人気双子YouTuberの長編監督デビュー作となるホラー、役所広司を主演に迎えたヴィム・ヴェンダース監督最新作、独裁者コリオレーナス・スノー前日譚を描く「ハンガー・ゲーム」シリーズ第5弾の、バラエティ豊かな3本。

【写真を見る】チャレンジには絶対に破ってはいけないルールが存在していた(『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』)

■面白い長編映画を撮ろうとする本気が確かに感じられる…『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(公開中)

オーストラリアから要注目のホラーが登場!霊を自分に憑依させる刺激的なゲームに熱中してしまった10代の若者たちが、恐ろしい事態に巻き込まれていく。他者とつながりたいSNS世代のリアルな孤独をキャラクターに込め、共感を引き寄せる心憎いつくり。オカルトの要素はその地続きで、亡き母ともう一度会いたいと願うヒロインの心情が、悲劇を雪だるま式に膨らませていく。

超常現象描写もさることながら、深まり行く孤立もスリルをあおるに十分。監督のフィリッポウ兄弟は世界的な人気YouTuberだが大の映画ファンでもあり、製作に3年を費やした本作からも、面白い長編映画を撮ろうとする本気が確かに感じられる。見逃がすべからず!(映画ライター・有馬楽)

■イマジネーションあふれる映像世界…『PERFECT DAYS』(公開中)

公衆トイレの清掃員、平山の生活はとてもシンプルだ。そして単調でもある。空が明るくなる前に目が開き、少し間を置いてから起き上がるとその勢いで布団を畳み、洗面台で歯を磨き、髭を剃って身支度を整える工程をすばやくこなしていく。玄関から外に出ると、陽が昇り始めた空を眩しそうに眺め、アパートに隣接した駐車場の自動販売機で缶コーヒーを買い、使い込まれたワンボックスカーに乗り込んで出勤する。人々がそれぞれの職場や学校に向かうなか、彼は担当する地域の公衆トイレを巡り、一つ一つを丁寧に磨いていく。夕方前には仕事が終わるので、一度帰宅して今度は自転車に乗って銭湯へ。一番風呂にあやかるという贅沢を味わうと、地下街にある居酒屋で野球中継に熱中するほかの客を肴にチューハイをすする。一日の最後は布団に入って古本屋で買った本を読み、いつの間にか眠りについている。

このルーティンを見つめながら、私たちは平山という人物がなにを思い、どんな人生を歩んで来たのか、そんなことを考えるようになっている。そのなかであることに気づくはずだ。一見すると味気ない日常を送っているように見えるが、昼休憩中に神社で木漏れ日の写真を撮ることを日課とし、地面から顔を出したばかりの小さな芽を持ち帰っては自宅で大切に育てている。様々な生命の営みを見つけては、それを愛おしく感じているのだ。また、寡黙で人を寄せ付けない雰囲気をまとっているものの、やる気はないのに金の無心はしてくる同僚をなんだかんだ助けてあげ、写真屋や古本屋を定期的に訪れては店主と最低限の会話を交わす。むしろ平山は人が好きで、適切な距離を保ちながらコミュニケーションを取っている、そんな風に思わされる。このイマジネーションあふれる映像世界が成立するのは、俯瞰的に物事を映しだすヴィム・ヴェンダース監督の視点と、平山を全身に憑依させた役所広司の存在感があってこそ。この作品を観終えたあと、目に映る人や動植物、何気ない景色のすべてが美しいと感じるはずだ。(ライター・平尾嘉浩)

ハンガー・ゲーム独裁者スノーのはじまりの物語…『ハンガー・ゲーム0』(公開中)

2010年代にブームになったYA小説原作映画。若者たちの不安や葛藤をディストピアにはめ込んだSF、ファンタジーが次から次に登場したが、なかでも頭ひとつ、いやふたつ抜きん出ていたのが『ハンガー・ゲーム』(12)だった。独裁国家パネムでは、かつて反旗をひるがえした12の地区を戒めるため、毎年各地区から2人の若者を選出し殺し合いをさせるハンガー・ゲームを行っていた…。“子どもたちの殺し合い“で話題を呼んだ本作だが、そのキモは政治からメディアまであらゆる大人に騙され使われ、やがて壊れていく若者たちの姿。

リアルな世界にフェイクや偏向報道あふれるいまだからこそ、シリーズが復活する意義はある。本作はハンガー・ゲーム独裁者スノーのはじまりの物語。ワイルドな歌姫を演じるレイチェル・ゼグラーはじめ若き日のスノー役のトム・ブライスなどビジュアル重視のキャスティングだが、映画はYA枠を超えた本格ディストピアもの。いまの時代だからこそ観たい1本だ。(映画ライター・神武団四郎)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

憑依のスリルと快感にのめり込んでいく若者たちに襲いかかる恐怖を描く『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』/[c] 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia