12月24日言わずもがなクリスマス・イブである。そして30年前の1993年のこの日、世界的な人気を誇る落ちモノパズルゲーム「テトリス」シリーズの一風変わった新作がスーパーファミコン向けに発売された。その名は『テトリス武闘外伝』。

参考:【画像】歴史を彩るさまざまな“個性派テトリス”たち

 “武闘”と書いて“バトル”と読むその作品は、名が表す通り対戦に特化した「テトリス」だ。従来の作品と違い、ゲームモードは1人用でも対戦のみ。CPU(AI)操作のキャラクターたちと戦いながら、ストーリーを進めていくのである。ほかにあるのは2人対戦モードのみ。テトリミノをひたすら消し続ける、おなじみの「マラソン」モードが存在しない異色の「テトリス」となっている。

 しかも、プレイヤーおよびCPUが扮するキャラクターたちはみな「必殺技」を所持。「クリスタルブロック」と称される特殊なテトリミノを消すことでパワーが蓄積されていき、それを消費することで対戦相手のフィールドに積まれたブロックを穴だらけにしたり、相手のコントロールを一時的に奪うといったトンデモ攻撃を仕掛けられるのである。この必殺技は4段階のレベルに応じて威力が上がっていく仕組みで、前述した例はすべてレベル4時点のもの。対人戦で使えば、下手すれば本当の喧嘩へと発展しかねないほどの過激さだ。

 そのような“個性派”の「テトリス」が30年前のクリスマス・イブに発売されたのである。だが、あらためて2023年全体を振り返ってみると、『テトリス武闘外伝』以外にも、区切りの良い時期を迎える“個性派テトリス”は複数存在する。実は2023年という年は、たくさんの“個性派テトリス”たちの記念すべき1年でもあったのだ。

 『テトリス武闘外伝』以外の“個性派”たちの多くは、もうすでにその記念日を過ぎてしまっている。しかし、あえて『テトリス武闘外伝』が発売30周年を迎えたこのタイミングで振り返るのも一興なのではと思い、ここにまとめてみることにした。

異色作上級者向け、果ては脈拍測定(!?)といった個性派6テトリス

 記念すべき1年を迎えた“個性派テトリス”は『テトリス武闘外伝』以外になにがあったのか。それこそが以下にピックアップする6タイトルだ。

 いや、この場合は6テトリスと称するところか?

・『テトリス フラッシュ』(ファミリーコンピュータ1993年9月21日発売)

 海外では『TETRIS 2』と、『テトリス』の続編を名乗って発売された任天堂開発による新作。2023年で発売から30年を迎えた。しかし、その実態は画面上部より落下してくるテトリミノ……ではなく、赤・青・黄の色が設定されたブロックを回転および移動させつつ、同じ色を縦か横に3個以上並べて消していくという、まったくもって『テトリス』ではないルール。厳密には「フラッシュブロック」と呼ばれる光り輝くブロックをすべて消すのがステージクリア条件となっている。

 パズルゲームとしては『Dr.マリオ』や『ぷよぷよ』を思わせる遊び心地で、『テトリス』の先入観を持ってプレイすると非常に困惑しやすい。なお、1994年7月8日には「パズルモード」なる詰将棋風のゲームモードを新たに収録したゲームボーイ版が発売されている。

 また、本作のテレビコマーシャルは「テトリース、フラーッシュ!」の決め台詞が連呼される非常に印象的なものになっていた。それがいまだ耳に焼き付いて残っている人は少なくないのではないだろうか。ちなみに筆者は決め台詞と共に、両腕でF(FLASHのF)を作る謎ポーズを決めるお兄さんの方が一番印象に残っているとか。

・『テトリス ザ・グランドマスター』(アーケード、1998年8月稼働)

 アーケード向けに展開された新作テトリス。開発は『ストリートファイターII』や『ファイナルファイト』などに携わった元カプコンの西谷亮氏が設立したアリカが担当し、1998年に稼働。2023年で25年を迎えた。

 レベルの上昇に応じて目測不可能な速さになっていくテトリミノを消し続け、GM(グランドマスター)を目指す硬派な作りが特徴。レベルは最大999まであり、そこまでの到達が最終目標となっている。また、プレイヤーの段位を判定する「G.R.S(Grade Recognition System)」、次に落ちてくるテトリミノを操作できる(ボタン押しっぱなしで回転した状態のテトリミノが出現する)「I.R.S(Initial Rotation System)」、特定レベル到達までテトリミノの落下位置を影で教えてくれる「T.L.S(Temporary Landing System)」といった独自システムを搭載。いずれも「テトリス」を極限までやり込みたいプレイヤーの心をくすぐるものばかりで、それらの特徴から数ある「テトリス」のなかで最も上級者向けとも言える作品になっている。

・『アーケードアーカイブス テトリス ザ・グランドマスター

 2000年には続編『テトリス ジ・アブソリュート ザ・グランドマスター2』が誕生し、シリーズ化。また、1999年にはPlayStation向けに初代の移植版が発売される予定だったが、「テトリス」の版権元である「テトリス ザ・カンパニー」が“1つのプラットフォームに「テトリス」シリーズは1つのタイトルのみ”の方針を突如と掲げた反動で発売中止となった(※)。

※参考:アリカの「テトリス ザ・グランドマスター」版権元の方針によって発売中止に(ITmedia1999年5月28日報道)

 なお、オリジナルのアーケード版は2022年12月1日アーケードアーカイブスで復刻。続編の『テトリス ジ・アブソリュート ザ・グランドマスター2』共々、PlayStation 4Nintendo Switch向けに配信されている。

・『マジカルテトリスチャレンジ featuring ミッキー』(アーケード、1998年稼働)

 カプコン開発の新作テトリス。アーケード向けに誕生し、2023年で稼働25年を迎えた。同年11月20日NINTENDO641999年3月18日にはPlayStation向けの移植版が発売されていて、前者NINTENDO64版はアーケード版と同じく2023年で25年を迎える。

 『テトリス武闘外伝』と同じく対戦に特化した新作だが、本作にはおなじみのマラソンモードを収録。ただ、メインはタイトルにも冠されている「マジカルテトリス」。ストックエリア(※NEXT枠)に嫌らしい形状のテトリミノ「おじゃまピース」を送り込む「マジカルアタック」、そのテトリミノが溜まっているときに横のラインを1ラインでも消すとその数に応じて相手に「おじゃまピース」を送り返す「カウンター」などの独自システムが多数搭載されている。

 ちなみに1999年11月12日には、ゲームボーイカラー向けに事実上の続編となる『テトリスアドベンチャー すすめミッキーとなかまたち』も発売された。また、続編を含むこれらのタイトルは、2023年現在は任天堂に所属し、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』でディレクターを担当された藤林秀麿氏がカプコン在籍時代に携わった作品でもある。

・『テトリス64』(NINTENDO641998年11月13日発売)

 前述のNINTENDO64版『マジカルテトリスチャレンジ featuring ミッキー』の1週間前に発売された『テトリス』。2023年で発売から25年を迎えた。

 開発と販売はファミコン版『森田将棋』などを手がけたセタ。中身はおなじみのマラソンモードも収録されたスタンダードな『テトリス』なのだが、巨大なテトリミノが落下してくる「ギガテトリス」、別売の周辺機器「バイオセンサー」を装着して遊ぶ「バイオテトリス」なる本作だけの唯一無二のモードが収録されている。

 とりわけ印象的なのが「バイオテトリス」。耳たぶに装着したセンサーからプレイヤーの脈拍数を測定し、それに応じて特殊な形状のテトリミノが落下してくる本作だけの個性派『テトリス』を楽しめた。ちなみに「バイオセンサー」はNINTENDO64コントローラ背面にある拡張コネクタに接続して使う。また、対応ソフトは本作以外に発売されていない。

 なお、「バイオテトリス」のインパクトが強すぎる関係で影に隠れがちだが、NINTENDO64のゲームらしく、対戦モードは人数分のコントローラがあれば、最大4人まで楽しめるようになっている。

・『テトリスKIWAMEMICHI~』(PlayStation 2、2003年12月18日発売

 サクセス販売の廉価ゲームソフト「SuperLite」シリーズのひとつとして、PlayStation 2向けに発売された新作テトリス。2023年で発売から20年目を迎えた。前述の『テトリス64』同様、スタンダードな「マラソン」のほかに制限時間をテーマに掲げた独自のゲームモードを収録しているのが特徴。具体的にはターゲットブロックを消すことに挑む「ターゲット」、制限時間内に指定された位置のラインを消すことに挑む「ホットライン」、指定された数のラインを消すことに挑む「レベルスター」が用意されている。

 2000年代に発売された『テトリス』のため、ゲームデザインはガイドライン(※)に則っているが、それに関係する機能を自由にオン、オフに切り替えられるなど、プレイヤー好みの環境を作れるようになっている。また、対戦は最大4人まで参加可能。ただし、別売の専用マルチタップと人数分のコントローラが必要となる。

※ガイドライン:2002年に『テトリス』の版権元である「ザ・テトリスカンパニー」によって制定された、操作感やテトリミノの色、回転法則などの仕様を統一する指標。

 2004年にはアーケード向けにも移植されており、「チェインカラー」と「ラインブレイク」なる、PlayStation 2版にはなかった2つの新モードが追加されている。反面、対戦はアーケードという都合から、最大2人までになった。

・『テトリス エフェクト』(PlayStation 4/PlayStation VR、2018年11月9日発売)

 『Rez』、『スペースチャンネル5』などの名作に携わった水口哲也氏率いるエンハンス開発の新作『テトリス』。今回ピックアップした個性派テトリスの中では最も新しいタイトルで、2018年11月9日に発売。2023年で発売5年を迎えた。

 直近の『テトリス』としては珍しい1人用に特化した作品で、30近いステージを順に旅していく「Journey Mode」、マラソンなどのルールでいつものテトリスを楽しめる「Effect Modes」を収録している。さらに独自システムとして「ゾーン」なるものを採用しており、時間を止めてゲームオーバー間近の状況を打開したり、テトリミノを積み上げて連続ボーナスを獲得するなどの高等テクニックを決められることを特徴としている。だが、最も大きな特徴は映像と音楽がプレイヤーの操作とシンクロする、共感覚を重視したゲームデザインと演出。また、PlayStation VRにも対応し、一連の演出を間近で味わいながら楽しめる。

 本作は後に対戦要素を追加した『テトリス エフェクト・コネクテッド』が発売され、Xbox OneNintendo Switchなどで展開された。2023年現在はPlayStation 4版も『テトリス エフェクト・コネクテッド』に差し替えられて販売中となっている。また、2月22日にはPlayStation 5版も発売。こちらはPlayStation VR2に対応している。

正統派テトリスにも記念すべき年を迎えた埋もれた名作がひとつ

 また、“個性派”というには一歩及ばないのだが、もう1本、区切りのよい年を迎えた「テトリス」がある。

 それが『テトリスDX(デラックス)』。1998年10月21日ゲームボーイカラー本体と同時発売された「テトリス」で、1989年6月14日に初代ゲームボーイ向けタイトルとして任天堂より発売された『テトリス』のカラー対応兼パワーアップ版だ。

 そのため、基本の内容はゲームボーイの初代『テトリス』と共通で、前述の個性派7タイトルと比べてしまうとインパクトは劣る。発売当時もゲームボーイカラー対応タイトルでは『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』といった話題性の高いタイトルが揃っていたことから、埋もれてしまっていた印象は否めない。

 とはいえ、その完成度は指折りだ。特に操作性は初代『テトリス』から大幅に向上していて、落下中のテトリミノがスピーディかつスムーズに動かせるようになっている。また、フィールドへの接地までの判定にもある程度ながら“待ち時間”が生じるようになり、場所を間違ってしまった際の挽回が効くように改善。テトリミノの落下速度が早くなってもこの仕様は継続されるため、より高いスコアを目指しやすくなっている。

 さらに初代『テトリス』は、当時としては珍しい相手側のフィールドをせり上げるという攻撃要素を備えた対戦モードが大きなセールスポイントで、それが記録的な大ヒットの原動力になった。ただし、対戦は2人プレイ専用のため、1人で遊ぶことはできなかった。そこも『テトリスDX』は「VS.COM」のゲームモードを導入する形で解決。「EASY」「NORMAL」「HARD」の難易度に応じたCPUとの対戦が楽しめるようになっている。しかも、セーブデータの成績を基にしたプレイヤー自身の分身と戦う機能も搭載。ほかのプレイヤーのセーブデータをもらうこともでき(通信ケーブル必須)、その相手を再現したデータと対戦するという遊びも楽しめる。

 ゲームモードに関しては40ライン消すことを目指す「40LINES」、3分の制限時間内にどこまでスコアを稼げるかに挑む「ULTRA」も新たに収録。エンドレス型の「A-TYPE」(マラソン)、25ライン消すことを目指す「B-TYPE」のみだった初代『テトリス』から大幅なボリュームアップが図られている。他にも前述で少し触れたが、バッテリーバックアップ対応によってプレイヤーごとのセーブデータを残せるようになり、スコアなどの記録が消えなくなった。そして、カラー対応によってテトリミノがより識別しやすくなったのに加え、初代ゲームボーイ特有の液晶の残像に悩まされることもなくなるなど、グラフィック面にも著しい改善が図られている。

 一方でBGMはすべてオリジナルの新曲に差し替えられるなど、初代『テトリス』が好きな人には賛否の分かれる変更点もある。ゲームモードも増えたとはいえ、根っ子はゲームボーイの初代『テトリス』ということで新鮮味も劣る。だが、パワーアップ版としては堅実に仕上げられており、デラックスの名に恥じない良作となっている。

 ゲームボーイの初代『テトリス』は2023年現在、『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』にて復刻済みで、フレンド限定ながらオンライン対戦が楽しめる。一方で『テトリスDX』は復刻されておらず、すでに初代『テトリス』が収録されている状況を踏まえると今後、遊べるようになるかは怪しい。ただ、本作にしかない見どころが多く備わっているタイトルなので、食い合いの懸念もあれど、なんらかの形で蘇り、発売当時、スポットライトが当たらなかった無念を晴らす機会が来るときを願うところである。

■ガイドライン制定後のいまもなお、個性派テトリスの誕生は続いている!

 再評価されるときが来てほしいとの思いから『テトリスDX』だけ、1段落割いて紹介してしまったが、このようなさまざまな「テトリス」が2023年に30周年、25周年といった区切りのいい年を迎えたのである。

 あらためて振り返ってみると、特に1990年代のガイドライン制定前に誕生した“個性派テトリス”は、クリエイターの自由な発想とチャレンジ精神が際立つ作品が多かったように思う。本稿ではピックアップしなかったが、ほかにも“個性派テトリス”は多く発売されていて、積み上がったテトリミノを消しながら「教授」を出口へと導くゲームモードを収録した『テトリスプラス』などがある。

 では、ガイドライン制定後は個性派が減ったのかと言えば、そんなことはない。2006年発売の『テトリスDS』、2014年発売の『ぷよぷよ』とのコラボレーション作品『ぷよぷよテトリス』といった大変ユニークな個性派が出てきている。本稿でピックアップした『テトリス エフェクト』もガイドライン制定後に誕生した個性派のひとつだ。

 そして、Nintendo Switch Online会員向け無料タイトル『テトリス99』(※後に買い切りのパッケージ版も発売)。「テトリス」でバトルロイヤルという大胆な発想を採り入れた同作は、まさに近年の“個性派テトリス”の代表格と言っても過言ではないだろう。

 特定のゲームルール、テトリミノの色などを指定するガイドラインに基づいた「テトリス」が当たり前になったいまもなお、時に予想だにしない形への進化を遂げ、プレイヤーを魅了させ続けている。『テトリス エフェクト』でVRの世界への一歩を踏みだし、『テトリス99』でバトルロイヤルという新境地を見出した歴史的な落ちモノパズルゲームは今後、どんな進化と発展を見せていくのか。何十年経っても、「テトリス」の動向からは目が離せない限りだ。

 そして、ゆくゆくは『テトリス武闘外伝』のように遊ぶ手段が限定されてしまっている“個性派テトリス”に復活の機会が与えられることを祈りたい。『マジカルテトリスチャレンジ』のように、ディズニーの版権が絡んでくるタイトルは絶望的かもしれないが、たとえ復刻がかなわなくても、本稿が“個性派テトリス”が存在したというひとつの記録になることを願ってやまない。

(文=シェループ)

ユニークな“個性派テトリス”たちを振り返る