漫才日本一を決める『M-1グランプリ2023』(以下『M-1』)が、いよいよ今夜放送される。今年は2018年大会から審査員を務めた立川志らくが勇退し、海原やすよ ・ともこともこが新たに就任したことが話題に。出場者と共に審査員も大きな話題になるのが『M-1』だ。今回は、これまでの全18回大会の歴史の中から、記憶に残る審査員を振り返る。

【写真】『M-1グランプリ』優勝逃すもブレイク果たした“第2位”コンビ

■ 50~60点台の「辛口採点」が当たり前! 今より厳しかった松本人志

 今では出場者を温かく見守る印象が強いのダウンタウン・松本人志だが、『M-1』が始まった頃はまだ38歳。ギラギラしていた松本は出場者のネタ中もほとんど笑わず、鋭い眼光をステージに向けていた。

 採点もかつては厳しかった。回を重ねるごとに出場者らのレベルが上がっていった事情もあるだろうが、近年、松本の採点は80~90点台に収まっている。一方、2001年(第1回)~2002年(第2回)の大会では50点台、60点台の「辛口採点」を連発。第1回王者の中川家でさえ70点、チュートリアルにいたってはこの大会最低となる50点と採点。チュートリアル徳井義実はこのとき、「日本全国に面白くないやつとして認識された」「もうやめたほうがいいかもしれん」と思った、とのちに振り返っている。

 しかし、めったに褒めない松本だからこそ、褒めたときの重みが違う。ノーマークだった麒麟への「僕は今までで一番良かったですね(2001年大会)」に始まり、「トータルテンボスはもっとウケてもよかった(2006年大会)」といった褒め言葉は各大会のハイライトといえるインパクトを残した。松本に第1回で最低点を付けられたチュートリアルは、2006年大会で松本から「ほぼ完璧かな、と思います」という絶賛を引き出し、優勝している。

■ 和牛への酷評は未来を予言していた? 上沼恵美子

 2007~2009年大会、中断をはさんで2016~2021年大会まで計9回審査員を務めた元漫才師で関西の大物司会者・上沼恵美子。上沼といえば通称“怒られ枠”だ。きっかけは2017年大会に出場したマヂカルラブリー。彼らのネタへのコメント中に怒りに火がついてしまった上沼が「本気でやってるっちゅうねん、こっちも!」「頑張ってるのは分かるけど、好みじゃない!」「よう決勝残ったな」などと次々厳しいコメントを初出場の2人に浴びせられることになった。

 そのほかにも、気に入らないネタに対しては容赦ない言葉を浴びせていた上沼。最近では解散を発表した和牛へのコメントが話題になった。3年連続準優勝の実績を誇る2人が、敗者復活戦から勝ち上がってきた2019年大会のネタに対して、上沼は「(今年は)なんか横柄な感じが和牛に対して感じました」「なんの緊張感もない。そういうぞんざいなものを感じました」と、酷評をしてみせた。それまで評価していた2人に対しての上沼の辛辣なコメントは当時視聴者を驚かせたが、これがその後のコンビの未来を予言していたという声がSNSを中心に上がっているのだ。

 一方、“怒られ枠”の烙印を押されたマヂラブだったが、2020年、3年ぶりに決勝の舞台に舞い戻ってくると、上沼も納得の漫才を見せ、見事優勝。“怒られ枠”がなかったら生まれないドラマだったかもしれない。

ランジャタイに驚異の「96点」 立川志らく

 今大会前に勇退を発表した落語家・立川志らく。志らくといえば、『M-1』審査員としてはランジャタイへの高評価が強く印象に残る。2021年大会、初めて決勝進出した2人は「風で飛ばされた猫が耳から頭の中へ入ってくる」という持ち前の奇抜なネタを披露。ほか審査員の点数が80点台から90点台前半と伸び悩む中、志らくだけは「96点」と高評価をつけた。この大会で彼らを初めて見て、すっかりファンになった志らくはのちに自身の番組で2人と対談した際、師匠の故・立川談志が「落語はイリュージョンだ」と言ったことをあげ、「そのイリュージョン落語家が体現できないのをあなた方がね、体現しているんですよ」と絶賛していた。

 落語という古典芸能出身であるが、そのほかにもジャルジャルトム・ブラウン、ヨネダ2000と、比較的前衛的なネタを積極的に評価しており、ほかの審査員の評価基準と一線を画していたと言え、勇退を知ったファンからは惜しむ声もあがっている。

島田紳助が大会史上唯一の「100点」をつけたコンビとは

■ 「俺、下ネタ嫌いなんです」とバッサリ 立川談志

 2002年の一度きりの出演だったが、実は志らくの師匠、談志も審査員を務めたことがある。ネタ中にカメラで抜かれるたびに、腕組みをしたまま笑うどころかピクリとも動かず、にらみつけるような表情でネタを見守っていた。

 毒舌で鳴らした談志だが、コメントをふられても腕を組み、そっけなく二三言を話すだけ。当時、「なんでだろう」で大ブレイクしていたテツandトモが登場した際には「お前らここへ出てくる奴じゃない、もういいよ」と突き放したようにコメントをし、会場をピリつかせる。ただ直後に「俺、褒めてんだぜ。分かってるよな?」とも補足している。ぶっきらぼうだが、当時すでに歌ネタで一世風靡していた2人への談志なりのエールだったようだ。

 ただし、このあと会場を本当に凍りつかせる瞬間があった。この年に始まった敗者復活戦で勝ち上がってきたスピードワゴンのネタに50点と低評価を付けた上、「ちょっと俺、下ネタ嫌いなんです」とバッサリ斬り、会場を静まり返らせた。自身の価値観を貫き、言いたいことをはっきり言う、記憶に残る審査だった。

島田紳助が大会史上唯一の「100点」を付けたコンビとは…

 若手漫才師の育成、そして「漫才に恩返しをしたい」という思いから大会の発起人となった島田紳助さん(2011年芸能界引退)は、審査委員長としても大会を見守った。

 紳助さんの審査の中でも記憶に残るのは、ダブルボケが代名詞の笑い飯が2009年大会で披露した伝説的なネタ「鳥人」。人間の体に鳥の頭がついた「鳥人」という不気味なキャラクターがテーマのネタで会場の爆笑をかっさらうと、紳助がこのネタに大会史上初めて「100点」を付け、会場でどよめきと拍手が起きた。紳助はこのとき「98(点)にしようと思ったんですよ。あとで(「鳥人」を超えるネタが出てきたら)困るから。でも困ってもええわってぐらい感動しました」と賛辞を送っている。

 鳥人に関しては、松本が「ウィキペディアで調べる」と発言したことをきっかけに生放送中、ウィキペディア上に一時「鳥人」の項目が登場する事態に。今では放送中から視聴者がSNS上で「実況」することが当たり前になっているが、この大会ごろが、ネット上で視聴者がリアルタイムでコメントしていく時代の幕開けだったかもしれない。芸能界を引退し、第一線から退いている紳助。彼の目には今年の大会はどう映るのだろうか。

 『M‐1グランプリ2023』決勝戦は、ABCテレビテレビ朝日系にて12月24日18時30分放送。敗者復活戦は同系にて15時放送。

今大会で17度目 『M-1』決勝の審査員を務める松本人志  クランクイン!