本連載では、受験世界史研究家・稲田義智氏の著書『絶対に解けない受験世界史3』(パブリブ)より一部を抜粋し、大学入試で実際に出題された世界史の「難問」を紹介していきます。本書における難問とは、「一応歴史の問題ではあるが、受験世界史の範囲を大きく逸脱し、一般の受験生には根拠ある解答がおおよそ不可能な問題」。受験生から一般の歴史好き、腕に覚えのある方に至るまで、ぜひチャレンジしてみてください。

なぜこれを問題にしたのか

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【2020年度 東京理科大学 経営学部】

問題1 (5) オルメカ文明において聖獣として信仰された動物の種の名称を解答用紙の指定欄にカタカナ4文字で記入しなさい。

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【解答解説】

用語集に書いてはあるけど普通は覚えないシリーズ。正解はジャガー。そもそもオルメカ文明だけ聖獣が強調される理由もよくわからず、高校世界史上でかろうじて扱われるのは中国史におけるキリンくらいである。キリンの方は鄭和の遠征が東アフリカに到達した証拠の意味合いがあるからまだ理解できるが、ジャガー理解できない。

早慶レベルの「問1」、出題意図が全くわからない「問2」

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【2020年度 日本女子大学 人間社会学部】

問題4 2 フランス( 1 )は,厳密な意味での憲法をもつことができなかった。「元老院の組織に関する法」「公権力の組織に関する法」「公権力の相互関係に関する法」,この③三つの基本法を総称して憲法とよんでいるが,正式な憲法は( 1 )の最後まで存在しなかった。この三つの基本法は( 2 )と共和派らが妥協したことで成立した。

問1 文中の(1)~(8)にあてはまる語句を語群から一つ選び,その記号を解答欄にマークしなさい。

語群

a. 第三共和政  e. 第二共和政  g. 大統領  l. 王党派  s. 下院  w. 第二帝政

(編註:関係のある選択肢のみ抜粋)

問2 ③ これらの基本法はいつ成立したか,その年を記入しなさい。

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【解答解説】

用語集に記載があるが、普通は覚えないところで過剰に難しいと判断した。空欄1から考えるに候補は第二共和政・第二帝政・第三共和政の3つだが、このうち憲法が用語集に立項されているのが第三共和政憲法のみ、という安直な推測が実は正しい。また、第三共和政の初期は王党派と共和派の対立が激しく、共和派の勝利が確定したのは20世紀初頭に入った頃、という情報は教科書本文に書いてあるから、空欄2の正解が王党派、そこから逆算して空欄1は第三共和政が正解と導けた人もいるだろう。

しかし、一般に第三共和政は高校世界史上で影が薄く、ここまで覚えてきた人は少ないと思われる。第三共和政憲法は用語集頻度⑥*という高さを誇るが、実際の難易度は用語集頻度①や②のレベルであり、要するに早慶レベルであろう。

(*用語集頻度…用語集では、収録された用語の横には丸数字がついており、これが検定教科書に載っていた数を示している。たとえば「シュメール人⑦」であれば、7冊の教科書に「シュメール人」という記載があることを示す。)

とはいえ、これだけなら受験世界史の盲点を突いただけの問題で悪質さは皆無である。真にまずいのは問2で、第三共和政憲法の制定年が1875年なんていうのは早慶レベルの受験生はおろか、高校教員や予備校講師でも暗記している人は少ないだろう。いや、私を含めて「5の倍数で切りが良いからなんとなく頭に残っていた」という人はそこそこいそうだが。

これは出題意図が全くわからない。受験生の満点を阻止したいなら、問1の空欄1・2だけで目的はほぼ達成されるだろうし、念を入れるとしても、もっと用語集に載っていないような用語を聞くストレートな難問にすればよい。なんでわざわざこの年号。

稲田 義智

受験世界史研究家

受験世界史研究家。東京大学文学部歴史文化学科卒。世界史への入り口はコーエーの『ヨーロッパ戦線』と『チンギスハーン蒼き狼と白き牝鹿IV』だったが、実は『ファイナルファンタジータクティクス』と『サガフロンティア2』の影響も大きい気がする。一番時間を費やしたゲームは『Victoria(Revolution)』。ゲームしかしていなかった人生だったが、奇縁にて『絶対に解けない受験世界史シリーズ』(パブリブ刊)を出すことになった。楽しい執筆作業だったが、ちょっと当分入試問題は見たくない。

(※写真はイメージです/PIXTA)