鬼才クエンティン・タランティーノの名を世界に知らしめた傑作『レザボア・ドッグス』。そのデジタルリマスター版が、2024年1月5日(金)に日本公開される。1991年に製作され、多くの映画ファンを熱狂させてきたこの犯罪映画のマスターピースは、いま見ても強烈な魅力を放っている。本作のいったいどこがすごかったのか?改めて振り返ってみよう。

【写真を見る】強盗犯たちがグダグダと無駄話を繰り広げる冒頭シーンからタランティーノのセンスが炸裂していた!

■裏切り者は誰だ!?宝石強盗に失敗した男たちの探り合いが展開

宝石店への強盗計画を遂行するため、ギャングの大物によって集められた6人の男たち。彼らはお互いの本名も素性も知らず、それぞれにミスター・ホワイト、ミスター・ピンク、ミスター・オレンジなどの色名で呼び合う。しかし計画は思い通りに進まず、死者も出る事態に発展。誰かが警察に計画をリークしたらしい。逃走後の集合場所である倉庫へとやって来た男たちの間に広がる疑念。果たして裏切り者は誰なのか?

■登場人物を生き生きと見せるタランティーノの脚本

まず目を引くのは、生き生きとしたセリフのやりとり。ダイナーで食事をしているギャングのボスの親子と、実行犯6人の会話は、本筋とはあまり関係ないが、男同士の馬鹿話がユーモラスに繰り広げられ、その輪のなかに引き込まれる。誰よりも最初に出演が決まったミスター・ホワイト役のハーヴェイ・カイテルはそんなタランティーノの脚本の手腕に惚れ込み、ニューヨークでのオーディションを手配するなど、製作にも積極的に関わった。

セリフがおもしろければキャラクターの魅力も活きる。経験豊富な年長者で場を仕切ることが多いミスター・ホワイト、撃たれて血まみれになり、動転しているミスター・オレンジ(ティム・ロス)、口数が少ないがとんでもないサイコパスであるミスターブロンド(マイケル・マドセン)等々。黒いスーツとサングラスでキメた6人のビジュアルからして、魅力的ではないか。ちなみに、オーディションを受けた俳優の多くは、おもしろいセリフが多いミスター・ピンク役を望んだとのこと。この役は結局、スティーヴ・ブシェミが演じ、抜け目のない小悪党をユーモラスに体現した。

■退場者も出たインパクト大のバイオレンスシーン…

本作を語るうえで、最も多く使われた言葉は“バイオレンス”だろう。しかし暴力描写は、実はそれほど多くはない。本作にそのイメージを植え付けたのは、ミスターブロンドが警官を拷問し、片耳を剃刀で切り落とす場面。このシークエンスにしても、ブロンドの残虐行為そのものを画面上では描いていないし、のちのタランティーノ作品のバイオレンス描写を思い起こせば上品なほう(?)だが、それでもインパクトは強烈だった。実際、1992年カンヌ国際映画祭で上映された際には、この場面で退出した観客が数人いたという。

■あらゆる映画を観てきたタランティーノならでは演出力

なによりも映画好きを唸らせたのは、タランティーノの演出の引き出しの多さだ。冒頭のダイナーのシーンでのテーブルを回るカメラワークから一転、犯行現場の混乱を捉えた手持ちカメラでの揺れ動くショットへ。この場面は深作欣二監督の『仁義なき戦い』(73)からの影響が垣間見られる。ほかにもタランティーノは、スタンリー・キューブリックの『現金に体を張れ』(56)からのプロットの引用や、ジョン・ウーの『男たちの挽歌』(86)をヒントにしたクライマックスなど、多くの作品から発想を得たことを認めている。すなわち、本作にはタランティーノの映画愛が凝縮されているのだ。

サントラもヒットした選曲センス

音楽にも触れておきたい。本作で使用された楽曲は、映画が製作された1992年の時点では、忘れ去られた1970年代ポピュラーソングばかり。これらがラジオから流れてくるのだが、そのノスタルジックな響きが本作の世界観にハマった。オープニングタイトルに重なるザ・ジョージ・ベイカー・セレクションの「リトル・グリーン・バッグ」の陽気な響きからグイグイくるし、スティーラーズ・ホィール「スタック・イン・ザ・ミドル・ウィズ・ユー」は先述の痛々しい“耳裂き”シーンを軽妙に彩る。これらを収めたサントラ盤もまたヒットしたが、それはタランティーノの選曲センスがあったからこそ、だ。

タランティーノのファンならすでにお気づきと思うが、ここまで挙げてきた本作の魅力は、以後のタランティーノ作品にも通じている。裏を返せば、本作にはタランティーノのすべてが凝縮されているということ。映画監督を目指してきたタランティーノは若い頃、監督デビュー作はそれまで生きてきたことすべてが反映された、強烈なものでなければならないという哲学を持っていたという。『レザボア・ドッグス』は、まさにそんな一撃だったのだ。

文/有馬楽

クエンティン・タランティーノのデビュー作にして傑作!『レザボア・ドッグス』のすごさを再確認/[c] 1991 Dog Eat Dog Productions, Inc. All Rights Reserved.