ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を記念するアニメーション映画『ウィッシュ』(公開中)。ディズニー・アニメーションの原点ともいえる“願い”をテーマに、感動的なストーリーがドラマティックなミュージカルナンバーに乗せて描かれる。「アナと雪の女王」シリーズのクリス・バックと、『ズートピア』(16)などでストーリーアーティストを担当したファウン・ヴィーラスンソーンが監督、というスタッフィングに早くから期待が高まっていた。

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どんな願いもかなうと言われるロサス王国に住む少女、アーシャが本作の主人公。彼女は、国民の願いが強力な魔法を操るマグニフィコ王に支配されている衝撃の真実を知り、みんなの願いを守るため立ち向かうことに。そんなアーシャの声を『ウエスト・サイド・ストーリー』(20)で第94回アカデミー賞助演女優賞を受賞したアリアナ・デボーズが演じ、日本語吹替版では生田絵梨花が担当、そして福山雅治らも声優として参加していることでも話題に。また音楽に関しては、新世代を担う若手に委ねられている点も注目したいポイントだ。

本作のミュージカルナンバーを担当するのは、ポップ・ミュージック界で活躍を繰り広げてきたジュリアマイケルズとベンジャミン・ライスの2人。現在30歳のマイケルズは、シンガーとして「イシューズ」、JPサックスとのフィーチャリング曲「イフ・ザ・ワールド・ワズ・エンディング」などのヒットで知られ、最優秀新人賞をはじめ3度のグラミー賞ノミネート歴を持っている。だが、彼女が長年にわたって広くポップ・ミュージック界に貢献し、唯一無二の存在感を発揮してきたのがソングライターとしての活動のほうだ。ジャスティン・ビーバー、セレーナ・ゴメス、エド・シーラン、ショーン・メンデス、デュア・リパ、ブリトニー・スピアーズマルーン5、グウェン・ステファニー…数えきれないほど多くのビッグアーティストたちに楽曲を提供し、共作を重ねてきた。

『ウィッシュ』においては彼女と共に、レディー・ガガやジョン・レジェンド、ニック・ジョナスらを手掛けるグラミー賞受賞プロデューサーのライスが共作と共同制作で参加。またスコアに関しては、『ウィッシュ』と特別吹替版で同時上映される『ワンス・アポン・ア・スタジオ-100年の思い出-』や「アナと雪の女王」シリーズのほか、多数のディズニー作品のオーケストラを手掛けるデイブメッツガーがあたっている。以下、『ウィッシュ』日本版オリジナル・サウンドトラックに収録されている楽曲について、英語版と日本語版を交えながら紹介していきたい。

ディズニー100周年の記念作『ウィッシュ』から全8曲を解説!

1.「ようこそ!ロサス王国へ」by アリアナ・デボーズ&キャスト/ 生田絵梨花&キャスト

映画のオープニングを飾るのは、主人公アーシャがメインで歌う陽気なナンバー。アーシャがフラメンコを取り入れたダンスを踊りながら、ロサス王国の街を案内する。まさしく導入部に相応しいアップリフティングなメロディと軽快なリズムに乗せて、映画への期待を募らせる。ソングライティングを手掛けたマイケルズは、「『アナと雪の女王』(“生まれてはじめて”)のようなディズニーのウェルカムソングは、ずっと私のお気に入りでした」と、オープニング曲への思い入れを語っている。

英語版を歌うデボーズは、さすが「ハミルトン」などでブロードウェイの舞台にも立ってきたミュージカル女優。生き生きとした歌唱で、活気あふれるロサス王国の様子と描いてみせる。一方、日本語版の生田も、多数のミュージカル経験の持ち主。多彩な声色と表現力で「だってここはロサス、あなたの願いが叶う魔法の国」と歌い上げ、『ウィッシュ』のマジカルな世界へと導いてくれる。

2.「輝く願い」by クリスパイン&アリアナ・デボーズ/ 福山雅治生田絵梨花

ロサス王国の人々の“願い”を大切に守ろうとするマグニフィコ王と、人々の幸せを”願う”アーシャとの気持ちが重なる、美しいシーンで歌われる、本作中における唯一のデュエットソング。流れるようなメロディに乗せて、ムーディに優しく歌われる。両者共に“願い”について歌っているのだが、マグニフィコ王が信念を込めて歌い上げる様子は、すでに不吉な予感も…。

英語版マグニフィコ王の吹替を担当した、「スター・トレック」シリーズや「ワンダーウーマン」シリーズで知られるクリスパインは、以前にもスティーヴン・ソンドハイムが音楽を担当したディズニー映画『イン・トゥ・ザ・ウッズ』(14)でも歌を披露していたが、本作でミュージカルに再挑戦。見事な歌声で多くのファンを魅了している。日本語版の福山雅治も、もちろんすばらしい歌声を聴かせてくれるが、ロサスの王様としての堂々とした貫禄が特筆ものだ。生田とのデュエットは、終盤に向かってどんどん盛り上がり、綿密に練られたハーモニーで圧倒する。

3.「ウィッシュ〜この願い〜」by アリアナ・デボーズ/ 生田絵梨花

映画に先駆けてシングルとして発表された時点から、ディズニー100周年に相応しいと絶賛されていたナンバー。ディズニー音楽の長い歴史を感じさせると同時に、現代らしさも忍ばせる。アーシャの“願い”が星に届いて奇跡を起こす、印象的なシーンで登場。様々な感情に揺れながらも、“みんなの願い”を取り戻したいと強い想いをもち、最終的には意を決してパワフルに歌われる。

英語と日本語のどちらのバージョンも力強い歌唱に圧倒されるが、英語版では、芯の強さを窺わせながらも、優しく労わるように歌われる。一方の日本版では、強さの中に覗く透明感が耳をひく。「この願い〜」と繰り返されるフレーズは、映画館を出てからもずっと耳に残るはず。本国ディズニーのスタッフも驚愕し太鼓判を押したという彼女の美声には、胸が躍らずにいられない。同曲に関して生田はこう語っている。「とてもエモーショナルで力強さを感じると共に、祈りのような優しさ、柔らかさ、迷いみたいなところも感じられ、すごくいろいろな要素が入っていてドラマティックな楽曲です。地を踏みしめて、空の星まで届くような伸びやかな力強さになったらいいなと思いながら収録しました」。

4.「誰もがスター!」by キャスト

ロサス王国の動植物がアーシャと一緒に歌う、ディズニーらしい楽しいミュージカルチューンは、リス、クマ、ウサギ、キノコらが、マイクリレーのように歌い継いでいく。宇宙や星について歌われる歌詞は、まるで科学の授業を受けているかのようでもあり、生命のミラクルを伝えてくれる。と同時に「誰もがスター!」という曲名にもあるメッセージが込められる。もちろん願い星のスターのことも掛けられているはずだ。共作者のライスはこうコメントしている。「この曲は、非常におもしろくて深い意味があります。スターの星屑の力によって、すべての自然が命を吹き込まれ、私たちは皆同じものからできているのだとアーシャに説明しています。私たちは、誰もがスターなのです!」。

さらに、日本語版には松たか子や平野綾上戸彩中川翔子といった、歴代のディズニー・アニメーション作品で主要キャストを演じた豪華俳優陣が登場しているのも注目ポイント!ぜひ動物たちの歌声に耳を澄ましてほしい。

5.「無礼者たちへ」by クリスパイン/ 福山雅治

魔力を増幅させ、恐ろしいヴィランに変貌していくマグニフィコ王が、喜怒哀楽を矢継ぎ早に放ちながら、多彩な歌唱スタイルで楽しませてくれる。ディズニー史上最恐のヴィランとも称されるマグニフィコ王は、ナルシスティックで、怒りを抑えきれない性格。だが、ここではポップでファンキーなサウンドに乗せてコミカルに歌われて、そのギャップというのが憎めない。「輝く願い」とは、まったく異なるタイプの歌唱で魅了する。パインと福山は、共に豊かな表現力で持ち前のカリスマ性を存分に発揮する。

6.「真実を掲げ」by アリアナ・デボーズ、アンジェリーク・カブラル&キャスト/ 生田絵梨花、檀れい&キャスト

国民の“願い”を支配するマグニフィコ王に対して、アーシャをはじめ皆で立ち上がる感動的なシーンで歌われる革命アンセム。打ち付けるドラムビートや掛け声に鼓舞され、全員の気持ちが一体化。“戦おう”と力強く合唱される。アマヤ王妃が初めてここで参戦するのも感動的で、思わず一緒に拳を掲げたくなるはずだ。

ソングライティングを手掛けたマイケルズは「ようやくマグニフィコ王の真の姿に気づくシーンで歌われる楽曲で、曲の終わりに皆がひとつになり、感情が揺さぶられます」と語っている。共作者のライスも「毎回、鳥肌が立つほどパワフルな瞬間だ。私がこの映画で最も好きなシーンのひとつです」と明かす。

日本版でアマヤ王妃役を演じた檀れいは、以下のようにコメント。「今回、普段私が歌を歌う時に使っている声ではない、とても強い地声をアマヤ王妃の歌では使いました。彼女のその時の心情に伴い使ったんですけれども、やはりそこは私にとっての一つの挑戦でもありました」。

7.「ウィッシュ〜この願い〜(リプライズ)」by アリアナ・デボーズ&キャスト/ 生田絵梨花&キャスト

アーシャが1人で囁くにように歌いだし、そのあとに仲間が加わり力強いサウンドへと変わっていく。「ウィッシュ〜この願い〜」のリプライズ・バージョンは、アーシャの“願い”が星に届いて奇跡を起こすシーンの歌唱バージョンとは異なり、皆の想いが合わさることで、より強い“願い”となる様子が描かれている。革命アンセム「真実を掲げ」と同様に、一致団結の大切さを教えてくれる。

8.「かけがえのない願い(エンドソング)」by ジュリアマイケル

本作のエンドロールで流れるナンバーは、楽曲を書いたマイケルズがみずから歌っている。4歳からディズニーファンだったというマイケルズ。『ウィッシュ』の音楽を担当するだけでも夢のようだったというが、シンガーとしてエンドソングを歌ってほしいとのオファーをもらった際には、涙が止まらなかったそうだ。美しい星空を見上げるかのように、うっとりと聴き入らせてくれる歌声とメロディ。映画の余韻にたっぷり浸らせてくれる。

『ウィッシュ』日本版オリジナル・サウンドトラックは、1枚でデボーズやパインらによる英語版の楽曲と、生田や福山らによる日本語版の楽曲、インストゥルメンタルまで楽しめる通常版と、これに加えてスコア楽曲を日本限定でCD収録し、ボーナス・トラックとしてマイケルズ本人が歌う貴重な4曲のデモ曲も収録したデラックス版が発売中。2か国語を聴き比べたり、自身で歌ったり。様々な形で楽しむことができそうだ。

文/村上ひさし

『ウィッシュ』のサウンドトラックに収録されたエモーショナルな楽曲たちをすべて解説!/[c] 2023 Disney. All Rights Reserved.