日本憲法で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」。そんな最低限度の生活が叶わない人のセーフティネットとなるのが生活保護です。しかし生活保護を受けていながら、要介護認定されるケースも。その場合、介護保険サービスを受けることはできるのでしょうか。みていきましょう。
65歳以上の「生活保護者」、全国で100万人
厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業年報」によると、国民年金受給権者(受給する権利がある人)の平均年金月額は5万6,368円。一方、会社員が加入する厚生年金保険受給権者の平均年金月額は14万3,965円。65歳以上男性で16万9,006円、女性で10万9,261円です。
また総務省『家計調査報告 貯蓄・負債編 2022年結果』によると、世帯主が65歳以上の世帯における貯蓄金額の平均値は2,414万円。ちなみに中央値は1,677万円です。
ただこれはあくまでも平均。低年金で、しかも貯蓄もない……そのような高齢者は珍しくありません。
厚生労働省『令和4年度被保護者調査』によると、生活保護を受けている人は197万1,442人(2022年7月末時点)。そのうち103万8,162人が65歳以上の高齢者です。
資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です。
とあるとおり、最低限の生活を保障してくれる制度。ただ要件として、
生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提でありまた、扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先します。と、以下①~④を行ったうえで、それでも最低限の生活が送れない場合、生活保護費が支給されます。
①資産の活用
預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却等し生活費に充てなければならない
②能力の活用
働くことが可能な方は、その能力に応じて働かなければならない
③あらゆるものの活用
年金や手当など他の制度で給付を受けることができる場合は、まずそれらを活用しなければならない
④扶養義務者の扶養
親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けなければならない
日本の高齢者は約3,600万人。そのうち100万人強は、月の年金が生活保護費を下回り、貯蓄も資産もなく、働くことができず、支えてくれる家族もいない……そんな高齢者です。
生活困窮で「生活保護」、しかも「要介護」になったら、どうする?
前出の『令和4年度被保護者調査』によると、生活保護を受けている103万人の65歳以上のうち、年金支給がそもそもゼロ円、つまり無年金の人は30万人強にものぼります。
【生活保護を受ける年金受給者「月年金額」の分布】
年金支給なし:304,579人
1万円未満:36,560人
1万円台:87,727人
2万円台:107,585人
3万円台:115,668人
4万円台:97,090人
5万円台:75,789人
6万円台:76,520人
7万円台:51,282人
8万円台:35,811人
9万円台:21,302人
10万円以上:27,995人
仮に75歳で東京都23区に住んでいる、無年金の男性だとすると、東京23区で生きていくための最低生活費にあたる「生活扶助基準額」は7万1,900円、最低家賃にあたる「住宅扶助基準額」は5万3,700円で、合計の生活保護費は月12万5,600円。この金額が毎月支給される可能性があります。ちなみに実際の家賃のほうが低い場合は、実際の家賃額が支給されます。
現役時代の事情はさまざま。年金保険料をきちんと納めることができなかった……そんな事情を抱える人もいるでしょう。困窮する高齢者にとって、生活保護は最後の救いです。
そんな生活保護ですが、高齢者であれば働きたくても働けず、さらには要介護の認定を受けるというケースも。通常、要介護となればデイサービスなどの介護サービスを受けて、生活の質を高めることができますが……。
――生活保護を受けている身。それで介護してもらうなんて……そんな贅沢、できるわけない
そう悲観するしかないのでしょうか。結論からいえば、生活保護受給者でも介護保険の「第1号被保険者」として、デイサービスなどの介護保険サービスを利用することができます。生活保護の受給の有無が問題になることはないのです。
介護保険の被保険者は65歳以上は「第1号被保険者」となり、要支援・要介護認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。介護保険料の納付が必須ではありますが、生活保護受給者は「生活扶助」に保険料分=介護扶助がプラスされ、実質的な負担はありません。ちなみに保険料は基本的に天引きされます。実際に介護扶助を受けている生活保護受給者は43万人ほど(2023年9月)。そのうち、居宅介護サービスを受けている生活保護受給者は30万人、介護予防を受けている生活保護受給者は9万人ほどいます。
介護扶助を受ける場合は、居住地の福祉事務所や社会福祉課に申請。認められれば、居宅介護サービスや福祉用世の貸与、移送などのサービスを受けられるようになります。また施設への入居も可能なので、自宅での生活が困難になった場合なども安心です。
ただし、ケアマネジャーが作成したケアプランが認められたら自己負担額分の負担が免除される仕組みなので、利用できるサービスは限定されます。本人の希望通りの介護が受けられるわけではないので注意が必要です。
いずれにせよ、生活保護を受けていても、介護保険サービスを利用することはできるので安心。まずは地域の窓口に相談をするのが第一歩です。
[参考資料]
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