いよいよ今年も最終週に突入! 年末年始に連休を取る人も稼ぎ時の人も、ひと息入れて気軽に爆笑したいなら、12月29日(金) に公開される映画『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』が、かなりおすすめ。大ヒットドラマ『愛の不時着』のパロディを思わせるタイトルで、南北朝鮮の軍事境界線というビミョーな場所を舞台にした内容なのだが、北側に不時着してしまったのは、令嬢ではなく、なんと大当たりの宝くじ券、という想像を超えてくる韓国コメディ。本国ではSNSで火がつき大ヒットした作品だ。

『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』

1等57億ウォン(6億円)に当選した宝くじ券が、風のいたずらで韓国の兵士にわたり、さらにそれが国境線を越えて、北朝鮮の兵士の足元に不時着……。

なんとも奇想天外な話だけれど、繁華街の道端に落ちた宝くじ券が、フワっと風に乗って彷徨いながら、運命に操られるかのように兵士の足元に落ちていく、そんな始まりの映像を見ると、「あり得るな」という気がしてくる。その時点で、この映画の世界にハメられた感じだ。

拾った北の兵士は、軽い気持ちで軍のハッキング担当の仲間に調べてもらい、とんでもない韓国の当たりくじであることがわかる。夢は膨らむばかりだが、北にいる限り、ただの紙きれ。換金できない!

賞金額に目がくらむのは人間みな同じ。宝くじ券を何とか取り返そうとする南の兵士と、何とか換金したい北の兵士の、上官をも巻き込んだ攻防戦が始まる。

南北の兵士は密かに接触し、それぞれ作戦を用意して宝くじの引き渡し交渉を行うことになる。そして、その接触場所となったのが「JSA」だ。

『JSA』と言えば、日本で韓国映画の存在を知らしめたソン・ガンホとイ・ビョンホン主演、パク・チャヌク監督の大ヒット映画。板門店にある共同警備区域(JSA)で起きたある事件を通し、南北兵士の交流を描いた作品だ。

でも、本作のJSAは共同給水区域のこと。GPとよばれる最前線監視警戒所に水を引いてくるために作られたという場所で、ここは、南北両方の係官が出入り可能かもしれない実在の空間だ。

この映画のパク・ギュテ監督はGPに勤務する軍人たちにインタビューしたなかでこの場所の存在を知り、「もしも韓国軍の補給官と北朝鮮軍の補給官が互いに遭遇したら?」という想像をふくらませ脚本化したという。

宝くじ交渉は、賞金を得るまで南北の兵士を人質として交換するという、思わぬ方向に!

そこからはもう、異文化交流“あるある”の怒涛の展開。流行ネタから始まって、愛の不時着を思わせる純愛あり、換金時の珍事件ありの、てんこ盛りだ。

それにもまして面白いのは、南北間の緊張をバックにした小ネタの数々と絶妙なタイミングの伏線回収。どれも、今言ってしまっては楽しみが薄れるので、こんな表現しかできないのが残念。徴兵制のある韓国ならではのギャグは日本人でも笑えるくらいだから、こりゃ韓国じゃ、大ウケだっただろうな。

でてくる北の兵士たちは、これまでの社会主義ガチガチの堅物たちといった描き方ではない。韓国やアメリカのエンタメの知識があったり、ディスり方もえぐかったりする。冗談も言う。考えてみれば、当たり前の国民なのだ。デジタルにも相当精通している。

例えば、JSAでの条件交渉中。南側はプランを説明するのに手書きの模造紙を使用するが、北側は「我々は“強点(ツヨテン)”で提案する」といって、プロジェクターを取り出す。“強点?”と思っていると、これが“パワーポイント”のプレゼンだったりして。

言葉のシャレやもじりも多く、字幕もずいぶん遊んでるなあと思ったら、監修を松尾スズキが担当していた。

主な俳優は韓国側が、最初にくじを手にする韓国軍兵長役のコ・ギョンピョ、上等兵役のクァク・ドンヨン、上官役のウム・ムンソク。北朝鮮側が、二番目にくじを拾った兵士役イ・イギョン、ハッキング専門のキム・ミンホ、驚くべき裏の姿をもつ政治指導員役のイ・スンウォン、そして監視塔の対南“ディスり”放送担当・女性兵士役パク・セワン。ビッグネームではないが、期待の若手注目株ばかりだ。

そんな風に、キャストに大物スターはでていないし、巨額の製作費をかけたわけでもないため、韓国で公開された2022年夏シーズンでは当初、ノーマークだった作品。それが、公開後SNSで火がつき、封切り5日目には興収ランキング1位に駆け上がるスマッシュヒットとなり、年間興行ベストテンにも入っている。

『JSA』や『愛の不時着』を意識しつつ、南北対立をこんな爆笑コメディにしてしまう韓国映画のパワーに拍手です。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

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【ぴあ水先案内から】

植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)
「……分断国家の悲しみと怒りを潜ませつつ、爽快なユーモアで包み込んだコメディ……」

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