忙しい現代社会では、メンタルヘルスに不調を抱えている人が増えています。そんななか、さまざまな場面で心理的なサポートをしてくれるのが公認心理師です。心理職では日本唯一の国家資格ですが、いったいどのような職業なのでしょうか。そしてその給与額は、はたしていくらなのでしょうか。医師の秋谷進氏が、公認心理師について詳しく解説します。

「公認心理師」ってどんな職業?

突然ですが「公認心理師」という単語をご存じでしょうか。

公認心理師とは、2017年9月15日施行の「公認心理師法」にもとづいてできた、比較的新しい国家資格のことを指します。

忙しい現代社会において、メンタルヘルスに不調を抱えている人が多くなってきているなか、近年注目を集めている職業です。

実際、公認心理師は心のサポートが必要な人たちを見守り、分析し、アドバイスをする大切な役目。しかし、まだまだ心理師の能力は診療報酬の内容をみると「過小評価されている」と言っても過言ではありません。

そこで今回は、そんな公認心理師の仕事と報酬に焦点をあててみていきます。

日本で唯一の「心理職の国家資格」だがその年収は…

まず公認心理師は、日本で唯一の心理職の国家資格であり、心の問題を抱えた人々を支援するスペシャリストのことです。

厚生労働省.jobtagによれば、カウンセラーの年収は443.3万円とされています。国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、一般的な日本人の平均年収は443万円とされていますから、カウンセラーの一般的な年収は日本人のちょうど平均といえます。果たしてこの収入は、高いのか、安いのか……。

厚生労働省で認可された「公認心理師の主な役割」として、以下の4つが定められています。

①心理に関する支援が必要な人に対して、心理状態の観察、その結果の分析を行うこと。

②心理に関する支援が必要な人に対して、その心理に関する相談及び助言・指導、その他の援助を行うこと。

③心理に関する支援を要する者の「関係者」に対しても、相談及び助言・指導、その他の援助を行うこと。

④心の健康に関する知識の普及を図るための教育を図ったり、情報の提供を行ったりすること。

ここでポイントなのは、心理的なサポートが必要な人について、本人だけでなく「関係者」にもアドバイスを行って環境自体を整えることを、厚生労働省が「主な役割」として義務付けている点にあります。

したがって、公認心理師は公的なカウンセラーの立場から心理的な介入を行うことができるのです。

公認心理師と臨床心理士との違いは?

さまざまな心理的なサポートができる公認心理師。今まであった「臨床心理士」とはなにが違うのでしょうか。

ひと言でいうと「国家資格であるかどうか」と「他の職業との連携が法的に明記されていること」の2つがあげられます。

「臨床心理士」とは、臨床心理学にもとづく知識や技術を用いて、精神的な問題にアプローチする“こころの専門家”のこと。

昭和63年に設立された日本臨床心理士資格認定協会が実施する資格試験に合格し、認定された人が臨床心理士になることができます。公認心理師の設立までは臨床心理士が、医師とは違った側面で心のカウンセリングの中心を担ってきました。

しかし、臨床心理士は国家資格ではないため、カウンセリングの質にバラつきがある可能性があったことや、臨床心理士に強い権限を持たせにくい点がネックになっていました。

そこで、平成29年公認心理師法が施行され、平成30年より国家資格である公認心理師の制度が始まったのです。

公認心理師では、保健医療、福祉、教育等その他の分野の関係者等との連携や資質の向上を日々行っていくことも法律上に明記されています。つまり、国家資格として行政や教育、福祉の現場に介入することができるようになったのですね。

そのため、公認心理師の仕事は、従来のカウンセリングや心理療法、心理検査だけにとどまりません。これまで以上に多職種やコミュニティのなかで心理的な側面から連携をとり、メンタル面で悩む方の幅広いサポートができるようになったのです。

公認心理師になるためには長い年月が必要

国家資格である心のプロフェッショナルである「公認心理師」。公認心理師になるためには実は長い道のりがあります。

公認心理師になるためには、まず「公認心理師カリキュラムを持つ4年生大学の学部」を卒業しなければいけません。そこで、下記のように膨大なカリキュラムを4年間の間で学びます。

公認心理師の職責

心理学概論

・臨床心理学概論

心理学研究法

心理学統計法

心理学実験

・知覚、認知心理学

・学習、言語心理学

・感情、人格心理学

・神経、生理心理学

・社会、集団、家族心理学

・発達心理学

・障害者、障害児心理学

・心理的アセスメント

心理学的支援法

・健康、医療心理学

・福祉心理学

・教育、学校心理学

・司法、犯罪心理学

・産業、組織心理学

・人体の構造と機能及び疾病

精神疾患とその治療

・関係行政論

・心理演習

・心理実習(80時間以上)

このように見ると、公認心理師になるためには、さまざまな側面の心理学だけでなく精神疾患といった症状や関連した行政にいたるまで、医学や法律についても幅広く学ぶのですね。これだけでも膨大な量の心理学の研鑽が必要なことがわかります。

それだけに留まりません。さらに特定の期間で2年以上の実務経験を積むか、公認心理師カリキュラムを持つ大学院に入学・修了し国家試験に合格する必要があります(図表)。

大学と大学院の6年間のカリキュラム、そして国家試験に合格しなければならないことなどを考えると、公認心理師は「プロ」として長い年月と努力が必要な資格であることがわかるでしょう。

公認心理師の「診療報酬」は?

公認心理師が「心のプロフェッショナル」として公的に認められたことで、診療報酬をつけられるようになりました。

公認心理師による診療報酬が適応されるのは、主に下記のような場面です。

①小児特定疾患カウンセリング料

小児期から、自閉症スペクトラムに代表される発達の遅れ、脳機能の先天的な障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)などさまざまな理由で心のカウンセリングが必要な人がいます。

その場合、医師だけでなく公認心理師でも診療報酬加算がつけられるようになりました。

その診療報酬とは「療養上必要なカウンセリングを20分以上行った場合に『200点(2,000円)』」です。最低20分なので、通常はもっと時間がかかることも往々にしてあります。

アルコール依存症の外来患者に対する集団療法の評価

さまざまな社会的な背景からアルコールに依存してしまう人がいます。その場合、アルコール依存症をなくすためにさまざまな心理カウンセリングが必要なのですが、こういった場面にも公認心理師かかわります。

具体的には、アルコール依存症の患者に対する集団療法を行った場合、「依存症集団療法(外来)」の診療報酬として「300点(3,000円)」が加算されます。

その算定要件として「医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士若しくは公認心理師で構成される2人以上の者」が必要となります。

③生殖補助医療に係る評価

子どもを持ちたいけど、なかなかできない……そこには体の問題だけでなく心の問題が背景となっている場合も十分あります。そこで、外来でも生殖補助医療を受けている不妊症の治療患者に対して、「生殖補助医療管理料」を取ることができます。

その診療報酬は、月に1回のみの「300点(3,000円)」です。

算定要件として「看護師公認心理師等の患者からの相談に対応する専任の担当者を配置すること」が義務付けられています。

④がん患者指導管理料

「あなたはガンです」と言われたときや、「ガンが取り切れていませんでした」「ガンが再発しました」など辛いことを言われたとき。その心の重圧や苦しみは計り知れません。

そこで活躍するのが公認心理師です。がん患者の心理的苦痛の緩和を図るため、さまざまなカウンセリングを行う必要があります。

こうしたなか、算定要件も改訂され「医師、看護師または公認心理師が、患者の心理的不安を軽減するための面接を行った場合」に「がん患者指導管理料」がとれるようになりました。

その時の診療報酬は「200点(2,000円)」です。さらに1人の患者さんにつき合計6回までと決まっています。

このように見ると、1回のカウンセリング行為でとれる金額は2,000円〜3,000円くらいであることがわかりますね。

そのほかにも、

・入院集団精神療法

・通院集団精神療法

・依存症患者に対する医療の充実

・重症患者等に対する支援に係る評価

・胎児が重篤な疾患を有すると診断された妊婦等に対する多職種による支援の評価

などさまざまな場面で公認心理師が活躍する場面が設けられていますが、いずれもそこまで高い点数ではありません。

もっと評価されていい「公認心理師」

公認心理師になるための道のり、その役割、そして診療報酬をみていきました。

カウンセリングとひと言でいうのは簡単ですが、人の心を導くことは、決して生易しいものではありません。1回20分というのはあまりに短く、場合によっては60分〜90分かかることもままあります。

にもかかわらず、多くの診療報酬は2,000円〜3,000円程度と考えると、あまりに安いと感じてしまいます。

公認心理師は“心のプロフェッショナル”として6年間かけて鍛えられた精鋭です。

診療報酬が少なければその分利用しようと思う医療機関も少なくなり、みなさんが心理的なプロのカウンセリングを受けられるチャンスが減ってきてしまいます。

昨今、オーバードーズ(薬物過量)をはじめ、メンタルを背景としたさまざまな社会問題が増えてきています。

もっと気軽に、心理学的なサポートが受けられるような社会になることを願ってやみません。

秋谷 進

医師

(※写真はイメージです/PIXTA)