2023年11月下旬に中国で開催された「アジア汎用航空ショー2023」に行ってきました。盛んに小型飛行機が開発される最前線は、ギャラリーの熱気も凄まじいものがありました。

LSAの開発盛んな中国エアショー見てきた!

2023年11月23日から26日まで、珠海金湾空港を会場に「AERO ASIA 2023」(アジア汎用航空ショー2023)が開催されました。会場に行ってみると、数多くの中国製航空機が展示されていましたが、特に印象的だったのは、小型機メーカー各社の展示ブースに集まっていた中国人来場者たちの熱い視線でした。

なぜ今、中国国内で小型機に注目が集まっているかというと、同国の指定された地域では、地表から高さ900mまでの低高度が解放され、有視界飛行で小型機の飛行が可能になったからです。小型機が運航できる空港も増えつつあり、各地で飛行学校や飛行クラブ開設の動きが活発化しています。

展示された小型機の多くは、「LSA(Light Sports Aircraft))と呼ばれる軽量スポーツ航空機に分類されるモデルです。世界を見渡しても、LSAは日本だけが実用機として受け入れていない航空機の種類になりますが、中国ではアメリカやヨーロッパと同じく完全な実用機として普及が進んでいます。

中国の小型機メーカーとしてパイオニア的な存在は、地元広東省およびアメリカ本土ワシントン州に事業拠点を置くトリトン社です。同社の主力LSAである「スカイトレック」は累計受注数300機を超えており、会場内には実機が展示されていました。金属製の機体にロータックス製エンジンを搭載。FAA(アメリカ連邦航空局)の認証を取得しており、生産された機体はほぼ全数が中国国外に出荷されています。

中国で開発中の小型飛行艇

会場には開発中の新型水陸両用機「ウェーブトレック」も実機が展示されました。こちらもLSA規格を満たしたモデルで、同社得意の金属製で折り畳み式の主翼、引き込み脚、ロータックス製100馬力エンジンを搭載しています。水上機として運用可能な飛行機であるため、今後の展開が楽しみなモデルの1つです。

DL-2Lは雲南省の民間企業が開発したLSAで、2019年にCAAC(中国民航局)より型式証明を取得、2020年には生産許可を取得した機体です。構造部分は複合材料で2人乗り。総重量600kgで、これまたロータックス製の100馬力エンジンを搭載しており、巡航速度は213km/h、航続距離は約1500kmを発揮します。なお、グラスコックピットのため計器類はディスプレイ表示式で見やすく近代的です。すでに20機がユーザーに引き渡し済みで、中国各地を飛び回っています。

ヨーロッパ生まれながら、中国国内で造られているものもありました。その1つがチェコ企業、スカイリーダー社が開発した「スカイリーダー600」の中国生産型「JA600」です。

スカイリーダー社は2005年創業ですが、2017年に中国企業ZAirの出資を受けてその傘下に入っています。その2年後、2019年にJA600は中国でも認証を取得。湖北省に生産工場が設けられ、生産が始まりました。同機もエンジンはロータックス製を搭載しています。

国有企業で大手航空機メーカーのAVIC(中国航空工業集団)もLSA市場に参入しており、今回は同社のグループ企業であるCAIGA Mustang Aircraft社の製品が展示されました。

AG60は高翼配置の金属製LSAで2021年にCAACより生産認可を取得しました。最大速度218km/h、上昇限度3600mで航続距離は1100km。また、自家用免許の取得に向けた訓練飛行、農業や森林管理、遊覧飛行などの用途を目的としていると発表されています。

日本の高度成長期と一緒かも……

LSA以外に目を転じてみると、今回展示された小型機の中には双発機もありました。Y-12双発軽輸送機は、旧式化していたレシプロエンジンのY-11をベースに近代化してターボプロップエンジンに換装した発展型です。カナダ製のターボプロップエンジンPT-6の双発で、機体の規模はカナダ製の双発小型機DHC-6「ツインオッター」に相当します。

Y-12は1984年に初飛行したのち、中国における型式認証を取得。2016年にはFAAの型式認定を取得しましたが、このたびEASA(欧州航空安全機関)の型式認証も取得したとのこと。なお、会場では河南省政府が運用する気象観測仕様が展示されていました。

今回の珠海航空ショーでは軍用機の展示がなかったため、迫力に欠ける面もありましたが、民間機だけでも見どころ盛りだくさんでした。現地に行って筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)は、中国製航空機が国際規格を満たすだけでなく、国内の小型機運航環境においても急速に整備が進んでいる印象を受けました。

かつて、埼玉県自衛隊入間基地で国際航空宇宙ショーが行われていた1970年代。当時の日本では、民間機だけでも4人乗りの軽飛行機FA-200「アエロスバル」から双発ターボプロップ旅客機YS-11まで複数の航空機が生産されていました。

それから半世紀、今では日本と中国の状況が逆転したように感じます。日本の航空機市場が停滞している間に、世界は加速しながら前進しています。この現実を日本国民は真摯に直視する必要があるのではないでしょうか。

米本土ワシントン州と中国広東省の両方に拠点を置くアメリカ企業トリトン社のLSA「スカイトレック」(細谷泰正撮影)。