パーフェクトプロポーズ
『パーフェクトプロポーズ』(鶴亀まよ/海王社

 日々の仕事に追われて疲れた人に必要なもの。それはきっと、十分な睡眠、おいしいご飯、そして“癒し”ではないだろうか。癒され方は人によってさまざまだが、僕は人から癒されることほど幸せなことはないと思っている。自分の辛さを汲み取って、さりげなく尽くしてくれる存在。そんな人が現実にほとんどいないことは承知の上だが、もし出会えたら絶対に大切にするべきだ。

『パーフェクトプロポーズ』(鶴亀まよ/海王社)の主人公、浩国はまさに僕が挙げた幸せな人の1人に当てはまる。本作は激務とパワハラ上司に悩まされる主人公・浩国と、彼のもとに突如現れた甲斐との同居生活を描いた作品だ。ガッツリボーイズラブ要素が入っているものの、「癒しがいまの日本人にどれだけ必要か」を教えてくれる。

 物語は、浩国が長時間勤務に疲れ果てて居酒屋の前で意識を失うところから始まる。会社にいる時間の方が家にいる時間より長い日が続き、心も体も限界を超えていた浩国。そんな彼の目の前に現れたのが、12年前によく公園で遊んでいた弟的存在の甲斐だった。浩国の家に着くなり「住む場所がなくなったから、しばらく住まわせてほしい」と頼む甲斐。しかも「俺はゲイだし、12年前にお前と婚約したから一緒に住んでもいいだろ」とめちゃくちゃな理由を堂々とした顔で述べるのだ。訳が分からなくなる浩国だったが、放っておくこともできないためしばらく泊めることに。

 ここから2人の同居生活が描かれていくが、本作の推しポイントは、とにかく甲斐が浩国に尽くす姿にある。漆黒レベルのブラック企業に勤める浩国が夜中に帰ってきても、温かいご飯を作って待っていてくれる。1日1食だった彼のために朝ご飯や弁当を作り、飲み会で彼が酔いつぶれても迎えにきてくれる。しかもそれを「婚約者だし、一緒に住んでいるのだから当然だろ」のようなニュアンスでさらっとやってのけるのだ。そんな甲斐の存在は、仕事に追われすぎていた浩国にとっての癒しに変わっていき、顔や心にもだんだんと余裕が出てくるようになる。

 上述したように、甲斐ほど尽くしてくれる存在は滅多にいない。だからこそ読み進めるたびに浩国のことが羨ましくなる。決して便利な存在がほしいわけではない、甲斐のように身近にいて自分を気にかけてくれる姿が羨ましいのだ。ぜひ自分のそばに甲斐がいるイメージで読み進めてほしい。

 12年ぶりに再会し、いきなり同居まで始めた2人。しかし、甲斐はなぜ12年間も浩国の前から姿を消していたのだろうか。その答えは、甲斐の家庭環境や子どもだった頃の2人の話に隠されている。甲斐のこれまでの人生を知った後と前では、本作の読み進め方も変わってくるはず。読了してからもう一度最初から読み返してみることをおすすめする。「優しさ」という言葉だけでは言い表せない感情を、甲斐の一挙手一投足から感じ取れるはずだ。

 本作は1巻完結型でサクサク読めるのだが、内容の希薄さを感じることはまったくない。むしろ内容が濃く、感情移入しすぎてしまい「2人の今後がもっと知りたいんですけど……」と思ったくらいだ。鶴亀まよ先生にこの想いが届くことを願っている。

文=トヤカン

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