自動車保険には「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。任意保険は、交通事故で加害者になり多額の賠償責任を負った場合にカバーしてくれるものですが、実は、「無保険車」が相手の事故で自身が死傷してしまった場合に被害をカバーしてくれる役割も果たします。ファイナンシャルプランナーの横川由理氏が著書『2024~2025年版 保険 こう選ぶのが正解!』(実務教育出版社)より一部抜粋してお伝えします。

自動車保険「任意保険」は加入必須

自動車保険は「自賠責保険」と「任意の自動車保険」の2種類に分かれています。このうち、自賠責保険は法律で加入することが義務づけられており、車を登録したり車検を受けるために加入証明書が必要になります。つまり、加入しないという選択肢はありません。

公道を走るすべての車やバイクは、自賠責保険へ加入が義務づけられています。

一方、任意の自動車保険は「任意」なので、加入が義務づけられているわけではありません。しかし、任意保険は絶対に必要だといってもいいすぎではないのです。というのも、自賠責保険の保険金には限度額が設けられているうえ、対物事故は完全に対象外だからです([図表1]参照)。

まず、自賠責保険の保険金では、現実には、賠償金をカバーするには足りないことが多いのです。

すなわち、死亡事故の場合、被害者ひとり当たり3,000万円が上限です。自賠責保険の後遺障害は、その症状に応じて最高4,000万円となっています。また、ケガの治療費の上限は120万円です。

しかし、実際には、死亡事故におけるこれまでの賠償金の最高額は5億円を超えています。また、交通事故では健康保険を使うことができません。普段であれば3割負担の医療費も10割負担では、あっという間に120万円に達してしまうでしょう。さらに、慰謝料や休業損害、診断書などすべてを含めて120万円が限度となっているのです。

もう一つ大切なことは、自賠責保険の対象は人に対する補償しかないこと。これは「死傷させた相手だけにしか保険金が支払われない」という意味です。たとえば、相手のトラックに高価な商品が積んであるかもしれませんし、ぶつかった相手が高級車かもしれません。ブレーキアクセルを間違えて、お店に突っ込んでメチャクチャにしてしまったという事故もよく聞きます。

相手が人でないケースは、自賠責保険から1円も支払われません。任意保険は絶対に必要だというのはこんな理由があるのです。

4台に1台…「無保険車」との事故で被害に遭ったら

任意保険は、自分が加害者になった場合に賠償金等をカバーしてくれるだけではありません。無保険車との事故で被害を受けた場合にも、自分自身を守ってくれます。

多くの人が任意の自動車保険へ加入していると思いがちですが、ここに驚きの統計があります。日本損害保険協会によると、任意の自動車保険の加入率は68%。これは、街を走っている車の4台に1台は任意の自動車保険に未加入であるということです。

もし、無保険の自動車と事故を起こしてケガをしたり、後遺障害が残ったりしてしまったら、どうしますか?

自分が働けないという状態でも、相手からお金をもらえないかもしれません。しかし、その場合でも、自分自身が任意保険に入っていれば、カバーしてもらえます。

すなわち、任意保険には「無保険車傷害特約」が自動付帯されており、相手が任意保険に加入していないなどの事情によって十分な補償を受けられなかった場合に、代わりにそこから補償を受けることができます。

ですから、任意保険に入っておくことは、自分が事故を起こして他人に損害を与えた場合だけでなく、事故で被害に遭った場合においても、自分自身を守る方法なのです。

自動車保険の選び方

では、どのようにして自動車保険(任意保険)を選べばよいのでしょうか。

昨今では、安さを売り物にする通販型の自動車保険が増えてきました。特に事故を起こしたことがない人にとっては、保険料というコストを抑えたいものですが、必要な保障やサービスを削ってしまっては元も子もありません。しっかりとした補償を用意しつつも、不要な特約を外すという視点から、自動車保険をカスタマイズする必要があります。

カスタマイズといったのは、自動車保険はひとつの保険ではないからです。いろいろな保険がセットになっていて、そのうえでトータルの保険料が決まります。全体としての保険料が、安いのか高いのか、ということしか目に入りませんが、自動車保険を選ぶうえで、一つひとつの補償内容と補償額をチョイスすることが何よりも大切となります。

自動車保険は以下の4つの補償を組み合わせて加入します([図表2]参照)。

(1)相手への補償(対人賠償保険・対物賠償保険)

(2)自分や家族のための補償(人身傷害補償保険・搭乗者傷害保険・無保険車傷害保険)

(3)自分の車の補償(車両保険)

(4)特約(弁護士費用・事故、故障付随費用特約・個人賠償責任保険など)

補償内容をよく見て、それぞれの保険金額を決めたうえで、免責金額を設定したり、車両保険の要否を考えたり、必要でない特約を外したりして、最適なプラン・保険料を見極めていきましょう。

特に、対人賠償保険は、前述のように、賠償額が5億円を超えるケースもあることを考慮すれば、「無制限」に設定しておくことをおすすめします。

免責金額とは、自己負担する金額をいいます。

インターネット上の保険料見積もり一括サービスを活用する場合、自分が入力した補償金額を削ってまで安い保険料を提示する保険会社もあるので、細心の注意を払ってください。

横川 由理 FPエージェンシー代表

CFP®

MBA(会計&ファイナンス

日本証券アナリスト協会 認定アナリスト